この章の目標
- 条件付き期待値をラドン–ニコディムの定理と L2 の射影の二通りで理解し、その性質を証明して使える
- マルチンゲールを「公平な賭け」として理解し、任意抽出定理とドゥーブの不等式を証明できる
- 上向き横断数の評価からマルチンゲール収束定理を証明し、一様可積分性との関係を説明できる
- ギャンブラーの破産・ポリアの壺・分岐過程・大数の強法則にマルチンゲールを応用できる
前提:第1章、第2章、06-measure-integration 第4章(一様可積分性)、06-measure-integration 第6章(ラドン–ニコディムの定理)
5.1 条件付き期待値
コインを 2 回投げ、表の回数を X とする。1 回目が表と知れば X の期待値は 3/2、裏なら 1/2 であり、これは 1 回目の結果で決まる確率変数である。一般に Ω が P(Bi)>0 の可算個の事象 Bi に分割され、G をそれらが生成する σ-加法族とすると、「G の情報のもとでの X の期待値」は Y=∑iP(Bi)E[X;Bi]1Bi である(E[X;B]:=E[X1B])。Y は G-可測で、すべての G∈G について E[Y;G]=E[X;G] を満たす。確率 0 の事象で条件づける場合もこの二つの性質は意味をもつので、これを定義に採用する。
定義 5.1(条件付き期待値, conditional expectation)X∈L1(Ω,F,P)、G⊂F を部分 σ-加法族とする。(1) G-可測かつ可積分で、(2) すべての G∈G について E[Y;G]=E[X;G] を満たす確率変数 Y を、G のもとでの X の条件付き期待値といい、E[X∣G] と書く。E[X∣Z]:=E[X∣σ(Z)]、P(A∣G):=E[1A∣G] とする。
定理 5.2 条件付き期待値は存在し、a.s. の違いを除いて一意である。
証明. 一意性:Y,Y′ がともに条件を満たせば、ε>0 について G={Y−Y′>ε}∈G で 0=E[Y−Y′;G]≥εP(G)。よって Y≤Y′ a.s. で、対称性より Y=Y′ a.s.。存在:X≥0 なら ν(G)=E[X;G] は (Ω,G) 上の有限測度で、P∣G に関して絶対連続である。ラドン–ニコディムの定理(06-measure-integration 第6章 定理 6.11)より ν(G)=∫GY dP となる G-可測な Y≥0 がある。一般には X=X+−X− と分ける。□
F でなく G 上で密度をとるので Y が G-可測になる点が要である。
定理 5.3(L2 の射影)X∈L2 ならば、E[X∣G] は X の閉部分空間 L2(Ω,G,P) への直交射影である。特に E[(X−Z)2] を G-可測な Z∈L2 の中で最小にするのは Z=E[X∣G] である。
証明. L2(G) は完備(06-measure-integration 第4章 定理 4.8)なので閉部分空間である。射影定理(10-functional-analysis 第2章 定理 2.7)より X−Y⊥L2(G) となる Y∈L2(G) があり、1G(G∈G)との直交性が E[X;G]=E[Y;G] を意味する。□
条件付き期待値は「G の情報だけによる最良の予測」である。L1 の元を L2 の元で近似すれば、この射影から定理 5.2 を示すこともできる(Williams の教科書)。
命題 5.4 X,X′∈L1、a,b∈R とする。以下は a.s. で成り立つ。
- E[aX+bX′∣G]=aE[X∣G]+bE[X′∣G]。X≤X′ ならば E[X∣G]≤E[X′∣G]。特に ∣E[X∣G]∣≤E[∣X∣∣G]。
- E[E[X∣G]]=E[X]。X が G-可測ならば E[X∣G]=X。
- σ(X) と G が独立ならば E[X∣G]=E[X]。
- (塔の性質)H⊂G ならば E[E[X∣G]∣H]=E[X∣H]=E[E[X∣H]∣G]。
- Z が G-可測で ZX∈L1 ならば E[ZX∣G]=ZE[X∣G]。
証明. 右辺が定義 5.1 の条件を満たすことを確かめ、一意性を使う。1:単調性は G={E[X∣G]>E[X′∣G]} で E[E[X∣G]−E[X′∣G];G]=E[X−X′;G]≤0 から P(G)=0。2:G=Ω とおく。後半は明らか。3:E[X;G]=E[X]P(G)。4:右の等号は 2 から、左は H∈H⊂G で E[E[X∣G];H]=E[X;H] から。5:Z=1G0(G0∈G)なら E[1G0E[X∣G];G]=E[X;G∩G0] で成り立ち、線形性より単関数でも成り立つ。X,Z≥0 なら単関数 Zn↑Z について E[ZnE[X∣G];G]=E[ZnX;G] の両辺で単調収束定理を使う。一般には正部分と負部分に分ける。□
定理 5.5(条件付きイェンセンの不等式)φ:R→R が凸で X,φ(X)∈L1 ならば φ(E[X∣G])≤E[φ(X)∣G] a.s.。特に p≥1 で ∥E[X∣G]∥p≤∥X∥p。
証明. 凸関数は有理点 q での支持直線 aqx+bq(定理 1.19 の証明)の上限である(φ の連続性と傾きの局所有界性による)。命題 5.4 の 1 より各 q で E[φ(X)∣G]≥aqE[X∣G]+bq a.s. で、可算個の q について同時に成り立つから、上限をとればよい。後半は φ(x)=∣x∣p として期待値をとる。□
5.2 マルチンゲールと公平な賭け
賭けの参加者の n 回目終了時の所持金を Xn とする。それまでの経過を知ったうえでの次回の所持金の期待値が現在の所持金に等しいとき、賭けは公平である。
定義 5.6(マルチンゲール, martingale)部分 σ-加法族の増大列 F0⊂F1⊂⋯ をフィルトレーション (filtration) という。各 Xn が Fn-可測であるとき (Xn)n≥0 は適合 (adapted) しているという。適合かつ可積分な Xn がすべての n で E[Xn+1∣Fn]=Xn を満たすときマルチンゲール、= を ≥ にしたものを劣マルチンゲール (submartingale)、≤ にしたものを優マルチンゲール (supermartingale) という。
塔の性質より、マルチンゲールでは m>n で E[Xm∣Fn]=Xn、特に E[Xn]=E[X0]。劣マルチンゲールは参加者に有利な賭け、優マルチンゲールは不利な賭け(カジノ)にあたる。フィルトレーションを明示しないときは Fn=σ(X0,…,Xn) とする。
例 5.7 ξ1,ξ2,… を独立、F0={∅,Ω}、Fn=σ(ξ1,…,ξn)、Sn=ξ1+⋯+ξn とする。
- E[ξk]=0 なら Sn はマルチンゲール(命題 5.4 より E[Sn+1∣Fn]=Sn+E[ξn+1])。
- さらに E[ξk2]=σ2 なら Sn2−nσ2 もマルチンゲール(E[Sn+12∣Fn]=Sn2+2SnE[ξn+1]+σ2)。
- P(ξk=1)=p、P(ξk=−1)=q=1−p なら、E[(q/p)ξk]=q+p=1 より (q/p)Sn はマルチンゲール。
- X∈L1 なら E[X∣Fn] はマルチンゲール(塔の性質)。
- Xn がマルチンゲールで φ が凸、φ(Xn)∈L1 なら、定理 5.5 より φ(Xn) は劣マルチンゲール(∣Xn∣、Xn2 など)。
n 回目の賭け金 Hn は n−1 回目までの情報で決めなければならない。Hn が Fn−1-可測(n≥1)のとき (Hn) は可予測 (predictable) であるといい、所持金の変化 (H⋅X)n=∑k=1nHk(Xk−Xk−1) をマルチンゲール変換という。
定理 5.8(必勝法は存在しない)H を有界な可予測列とする。X がマルチンゲールならば H⋅X もマルチンゲールである。X が優(劣)マルチンゲールで H≥0 ならば、H⋅X も優(劣)マルチンゲールである。
証明. 命題 5.4 の 5 より E[Hn+1(Xn+1−Xn)∣Fn]=Hn+1E[Xn+1−Xn∣Fn]。□
例 5.9(倍賭け法)公平なコインで、負けるたびに賭け金を倍にし、初めて勝った時刻 T でやめる。Hk=2k−11{T≥k} は可予測で、(H⋅S)T=2T−1−(1+2+⋯+2T−2)=1 であり、T<∞ a.s. だから確実に 1 勝てる。しかし各 n で E[(H⋅S)n]=0(確率 2−n で 2n−1 負けている)で、勝つ直前の損失の期待値は E[2T−1−1]=∞ である。無限の資金があって初めて成り立つ「必勝法」である。
5.3 停止時刻と任意抽出定理
定義 5.10(停止時刻, stopping time)T:Ω→Z≥0∪{∞} がすべての n で {T=n}∈Fn を満たすとき停止時刻という。FT={A∈F∣すべての n で A∩{T=n}∈Fn} とおく(時刻 T までの情報)。
適合列 Xn が初めて B∈B(R) に入る時刻 TB は、{TB=n}={X0∈/B,…,Xn−1∈/B,Xn∈B} より停止時刻である。「最大値をとる時刻」は未来を見ないと決まらず、一般に停止時刻でない。Hk=1{T≥k} は可予測で XT∧n=X0+(H⋅X)n だから、定理 5.8 より停止させた過程 XT∧n も(優・劣)マルチンゲールである。
定理 5.11(任意抽出定理, optional sampling theorem)X を劣マルチンゲール、S≤T≤N を停止時刻(N は定数)とすると E[XT∣FS]≥XS a.s.、特に E[XS]≤E[XT]。マルチンゲールならば等号が成り立つ。
証明. Hk=1{S<k≤T}=1{S≤k−1}−1{T≤k−1} は可予測で 0≤Hk≤1、(H⋅X)N=XT−XS だから、定理 5.8 より E[XT−XS]≥0。A∈FS について、A 上で S,T、Ac 上で N に等しい SA,TA は、n<N で {SA=n}=A∩{S=n}、{TA=n}=⋃k≤n(A∩{S=k})∩{T=n} が Fn に属するので停止時刻で、SA≤TA≤N。前半より E[XT;A]≥E[XS;A]。XS は FS-可測({XS∈B}∩{S=n}={Xn∈B}∩{S=n})かつ可積分(∣XS∣≤∑k≤N∣Xk∣)だから、Y=E[XT∣FS] について A={Y<XS} とおけば Y≥XS a.s.。マルチンゲールなら X と −X に適用する。□
系 5.12 X をマルチンゲール、T を T<∞ a.s. の停止時刻とする。(a) 定数 K があってすべての n で ∣XT∧n∣≤K、または (b) E[T]<∞ かつ ∣Xn−Xn−1∣≤K ならば、E[XT]=E[X0]。
証明. 定理 5.11 より E[XT∧n]=E[X0] で、XT∧n→XT a.s.。(a) は有界収束定理、(b) は優関数 ∣X0∣+KT による優収束定理を使う。□
例 5.13(ギャンブラーの破産)整数 0<x<N から出発し、確率 p で +1、q=1−p で −1 動く Sn=x+ξ1+⋯+ξn を考え、T を 0 か N に初めて達する時刻とする。N 回続けて +1 が出れば必ず終わるので P(T>kN)≤(1−pN)k で、E[T]<∞ である。
- p=1/2:ST∧n∈[0,N] なので系 5.12 (a) より x=E[ST]=N P(ST=N)、すなわち P(ST=N)=x/N。また E[ST∧n2]−E[T∧n]=x2(例 5.7 の 2)で n→∞ とすれば E[T]=E[ST2]−x2=x(N−x)。
- p=1/2:有界なマルチンゲール (q/p)ST∧n から (q/p)x=P(ST=N)(q/p)N+1−P(ST=N)、すなわち
P(ST=N)=(q/p)N−1(q/p)x−1
ルーレットの赤に 1 ドルずつ賭ける場合(p=18/38、q/p=10/9)、10 ドルを 20 ドルに増やせる確率は 1/((10/9)10+1)≈0.259 で、公平な場合の 0.5 よりずっと小さい。
例 5.14 p=1/2、S0=0、T=inf{n∣Sn=1} とする。例 5.13 より −M より先に 1 に達する確率は M/(M+1) で、M→∞ として T<∞ a.s.。しかし E[ST]=1=0=E[S0]。増分は有界なので、系 5.12 (b) より E[T]=∞ でなければならない。「1 勝ち越したらやめる」戦略は必ず勝つが、平均の待ち時間は無限大である。
5.4 ドゥーブの不等式
定理 5.15(ドゥーブの最大不等式)X を劣マルチンゲール、Xn=maxk≤nXk、λ>0 とすると λP(Xn≥λ)≤E[Xn;Xn≥λ]≤E[Xn+]。
証明. A={Xn≥λ}、T=min{k≤n∣Xk≥λ}(なければ T=n)とすると、定理 5.11 より E[Xn]≥E[XT]≥λP(A)+E[Xn;Ac]。□
独立な和(平均 0、2 乗可積分)では Sk2 が劣マルチンゲールなので、これはコルモゴロフの不等式(定理 2.13)を含む。
定理 5.16(ドゥーブの Lp 不等式)p>1 とし、X をマルチンゲールまたは非負の劣マルチンゲールとすると
E[k≤nmax∣Xk∣p]≤(p−1p)pE[∣Xn∣p]
証明. Yk=∣Xk∣ は非負の劣マルチンゲールである(例 5.7 の 5)。Y=maxk≤nYk、M>0 とし、トネリの定理、定理 5.15、ヘルダーの不等式を順に使うと
E[(Y∧M)p]=∫0Mpλp−1P(Y≥λ) dλ≤∫0Mpλp−2E[Yn;Y≥λ] dλ=p−1pE[Yn(Y∧M)p−1]≤p−1p∥Yn∥p∥Y∧M∥pp−1
有限な ∥Y∧M∥pp−1 で割り、M→∞ とすればよい。□
5.5 マルチンゲール収束定理
公平な賭けで所持金が a と b の間を無限回往復するなら、「a 以下で賭け始め、b 以上でやめる」ことを繰り返して毎回 b−a 以上もうけられるはずである。必勝法は存在しないから、往復は有限回しか起こらない。これを定量化する。a<b とし、X0,…,Xn が a 以下から b 以上へ移った回数を上向き横断数 Un とする。
補題 5.17(上向き横断数の不等式)X が劣マルチンゲールならば (b−a)E[Un]≤E[(Xn−a)+]−E[(X0−a)+]。
証明. Yk=(Xk−a)+ は劣マルチンゲールで(非減少な凸関数との合成)、X の [a,b] の横断数は Y の [0,b−a] の横断数に等しい。Y が 0 に達してから b−a 以上になるまでの時刻で Hk=1、それ以外で Hk=0 とおく(安値で買い高値で売る戦略)。H は可予測で、完了した横断ごとに H⋅Y は b−a 以上増え、最後の未完了の区間の寄与は Yn−0≥0 だから (b−a)Un≤(H⋅Y)n。K=1−H も非負の可予測列で、定理 5.8 より E[(K⋅Y)n]≥0。Yn−Y0=(H⋅Y)n+(K⋅Y)n より (b−a)E[Un]≤E[Yn−Y0]。□
定理 5.18(マルチンゲール収束定理)X が劣マルチンゲールで supnE[Xn+]<∞ ならば、Xn はある可積分な X∞ に a.s. で収束する。特に非負の優マルチンゲールは a.s. で収束する。
証明. 補題 5.17 より E[Un]≤(supkE[Xk+]+∣a∣)/(b−a) で、単調収束定理より U∞=limnUn<∞ a.s.。{liminfnXn<a<b<limsupnXn}⊂{U∞=∞} を有理数 a<b について合わせると、X∞=limnXn が [−∞,∞] に a.s. で存在する。ファトゥの補題より E[X∞+]≤liminfnE[Xn+]<∞、E[X∞−]≤liminfn(E[Xn+]−E[Xn])≤supnE[Xn+]−E[X0]<∞。後半は −X に適用する。□
例 5.19(倍か無か)ξk を P(ξk=2)=P(ξk=0)=1/2 の i.i.d.、Mn=ξ1⋯ξn(毎回全財産を賭ける公平な賭け)とする。Mn は非負のマルチンゲールで E[Mn]=1 だが、P(Mn>0)=2−n より Mn→0 a.s. であり、L1 収束しない。また supnMn=2L(L は最初に続く 2 の個数、P(L=k)=2−k−1)より E[supnMn]=∞ で、定理 5.16 は p=1 では成り立たない。
5.6 一様可積分性と Lp 収束
a.s. 収束しても期待値は保存されるとは限らない。ヴィタリの収束定理(06-measure-integration 第4章 定理 4.23)により、a.s. 収束する列が L1 収束することは一様可積分性(同 定義 4.20)と同値である。
命題 5.20 X∈L1 とする。G が F の部分 σ-加法族全体を動くとき、E[X∣G] の全体は一様可積分である。
証明. Y=E[X∣G] とすると ∣Y∣≤E[∣X∣∣G]、{∣Y∣>M}∈G より E[∣Y∣;∣Y∣>M]≤E[∣X∣;∣Y∣>M]、また P(∣Y∣>M)≤E[∣X∣]/M。P(A)<δ なら E[∣X∣;A]<ε となる δ をとり、M>E[∣X∣]/δ とすれば、G によらず E[∣Y∣;∣Y∣>M]<ε。□
定理 5.21 マルチンゲール Xn について次は同値である。(a) 一様可積分。(b) a.s. かつ L1 で収束する。(c) L1 で収束する。(d) ある X∈L1 ですべての n について Xn=E[X∣Fn]。
証明. (a)⇒(b):supnE[∣Xn∣]<∞ なので定理 5.18 より a.s. 収束し、ヴィタリの定理より L1 収束する。(b)⇒(c) は明らか。(c)⇒(d):極限を X∞ とすると、m>n で Xn=E[Xm∣Fn] かつ E[∣E[Xm∣Fn]−E[X∞∣Fn]∣]≤E[∣Xm−X∞∣]→0 なので Xn=E[X∞∣Fn]。(d)⇒(a) は命題 5.20。□
定理 5.22(レヴィの上向き定理)X∈L1、F∞=σ(⋃nFn) ならば E[X∣Fn]→E[X∣F∞](a.s. かつ L1)。
証明. Mn=E[X∣Fn] は定理 5.21 より a.s. かつ L1 で F∞-可測な M∞ に収束する。A∈Fk なら n≥k で E[Mn;A]=E[X;A] なので E[M∞;A]=E[X;A]。これが成り立つ A の全体は π-系 ⋃kFk を含む λ-系だから、π-λ 定理(06-measure-integration 第1章 定理 1.30)より F∞ 全体で成り立つ。□
特に A∈F∞ なら P(A∣Fn)→1A a.s.(レヴィの 0-1 法則)であり、情報が増えるにつれて条件付き確率は 0 か 1 に確定していく。Xn が独立で A が末尾事象なら P(A∣Fn)=P(A) なので P(A)=1A a.s. となり、コルモゴロフの 0-1 法則(定理 2.11)が再び得られる。
定理 5.23(Lp 収束)p>1 でマルチンゲール Xn が supnE[∣Xn∣p]<∞ を満たせば、Xn は a.s. かつ Lp で収束する。
証明. 定理 5.16 と単調収束定理より E[supn∣Xn∣p]<∞。定理 5.18 より a.s. 収束し、優関数 2psupk∣Xk∣p で優収束定理を使う。□
5.7 後ろ向きマルチンゲールと大数の強法則
情報が減っていく列 G1⊃G2⊃⋯ に対する E[X∣Gn] を後ろ向きマルチンゲールという。これは常に収束する。
定理 5.24(レヴィの下向き定理)G1⊃G2⊃⋯、G∞=⋂nGn、X∈L1 ならば E[X∣Gn]→E[X∣G∞](a.s. かつ L1)。
証明. Mn=E[X∣Gn] とする。(MN,MN−1,…,M1) は (GN,…,G1) に関するマルチンゲールなので、この順の列の [a,b] の上向き横断数 UN は補題 5.17 より (b−a)E[UN]≤E[∣X∣]+∣a∣ を満たす。UN は N について増加し、極限は a.s. で有限だから、定理 5.18 の証明と同様に M∞=limnMn が a.s. で存在する。命題 5.20 とファトゥの補題、ヴィタリの定理より M∞ は可積分で L1 収束する。M∞ は各 Gk について可測なので G∞-可測で、A∈G∞ なら E[M∞;A]=limnE[Mn;A]=E[X;A]。□
定理 5.25(大数の強法則)X1,X2,… を可積分な i.i.d. とすると、Sn/n→E[X1](a.s. かつ L1)。
証明. Gn=σ(Sn,Xn+1,Xn+2,…) は減少列である。k≤n なら、X1 と Xk を入れ替えても (X1,X2,…) の同時分布も Sn,Xn+1,… も変わらないので、G∈Gn について E[Xk;G]=E[X1;G]。よって
E[X1∣Gn]=n1k=1∑nE[Xk∣Gn]=n1E[Sn∣Gn]=nSn
定理 5.24 より Sn/n は a.s. かつ L1 で L に収束する。各 m について L=limn(Sn−Sm)/n なので L は末尾 σ-加法族に関して可測で、系 2.12 より定数であり、L=limnE[Sn/n]=E[X1]。□
5.8 応用:ポリアの壺と分岐過程
例 5.26(ポリアの壺)赤玉 1 個と白玉 1 個の入った壺から玉を 1 個取り出し、同じ色の玉を 1 個加えて戻す。n 回後の赤玉の数を Rn、割合を Mn=Rn/(n+2) とすると
E[Mn+1∣Fn]=n+2Rn⋅n+3Rn+1+n+2n+2−Rn⋅n+3Rn=Mn
なので Mn は有界なマルチンゲールで、M∞ に a.s. 収束する。赤が k 回、白が n−k 回出る特定の順列の確率は順序によらず (n+1)!k!(n−k)! なので P(Rn=k+1)=n+11(0≤k≤n)であり、M∞∼U(0,1) となる。割合は必ず収束するが、極限は偶然に決まる。
例 5.27(ゴルトン–ワトソン分岐過程)各個体が独立に分布 (pk)k≥0(平均 μ∈(0,∞))に従う数の子を産む。Z0=1、Zn+1=∑i=1Znξn+1,i(ξn,i は i.i.d.)とし、Fn=σ(ξk,i∣k≤n) とする。E[Zn+1∣Fn]=μZn なので Zn/μn は非負のマルチンゲールで a.s. 収束する。f(s)=∑kpksk とすると E[sZn+1∣Fn]=f(s)Zn より Zn の母関数は f の n 回合成 fn で、絶滅確率は q=limnfn(0) である。
- μ<1:P(Zn>0)≤E[Zn]=μn→0 で、確率 1 で絶滅する。
- μ=1、p1<1:非負整数値のマルチンゲール Zn は a.s. である番号から先一定だが、k≥1 からは毎世代確率 p0k>0 で離れるので、確率 1 で絶滅する(E[Zn]=1 なのに Zn→0)。
- μ>1:f(q)=q で、f(s)=s の [0,1] の解 s について fn(0)≤fn(s)=s だから q は最小の解である。f′(1)=μ>1 より 1 の少し左の s0 で f(s0)<s0 で、f(0)≥0 と中間値の定理から [0,s0) に解があり q<1。正の確率で生き残る(問題 5.5)。
まとめ
- E[X∣G] は G-可測で G の事象上の積分が X と一致する確率変数で、ラドン–ニコディムの定理で存在し、L2 では直交射影(最良予測)である。
- 塔の性質、既知のものを外に出す性質、条件付きイェンセンの不等式が基本的な計算規則である。
- マルチンゲールは公平な賭けで、可予測な賭け方では有利にできない。有界な停止時刻では E[XT]=E[X0] だが、非有界なら破れうる(倍賭け法)。
- ドゥーブの不等式は最大値を終端の値で抑える(Lp 版は p>1 のみ)。
- 上向き横断数の評価から L1 有界な劣マルチンゲールは a.s. 収束し、L1 収束は一様可積分性と同値である。後ろ向きマルチンゲールは常に収束し、強法則を導く。
演習問題
問題 5.1 ★(全分散の公式)X∈L2、Var(X∣G):=E[(X−E[X∣G])2∣G] とする。Var(X)=E[Var(X∣G)]+Var(E[X∣G]) を示せ。
解答
Y=E[X∣G] とすると、定理 5.3 より X−Y は Y−E[X]∈L2(G) と直交するので E[(X−E[X])2]=E[(X−Y)2]+E[(Y−E[X])2]。命題 5.4 の 2 より第 1 項は E[Var(X∣G)]、第 2 項は E[Y]=E[X] より Var(Y)。
問題 5.2 ★★(ワルドの等式)X1,X2,… を可積分な i.i.d.、Fn=σ(X1,…,Xn)、T を E[T]<∞ の停止時刻とする。E[ST]=E[T]E[X1] を示せ。
解答
ST=∑k≥1Xk1{T≥k} で、{T≥k}={T≤k−1}c∈Fk−1 は Xk と独立だから、E[∑k∣Xk∣1{T≥k}]=E[∣X1∣]∑kP(T≥k)=E[∣X1∣]E[T]<∞。項別積分して E[ST]=E[X1]∑kP(T≥k)=E[X1]E[T]。
問題 5.3 ★★ 例 5.13 で p=1/2 のとき E[T]=p−qN P(ST=N)−x を示せ。
解答
Sn−x−n(p−q) はマルチンゲール(例 5.7 の 1)なので E[ST∧n]−(p−q)E[T∧n]=x。有界収束定理と単調収束定理で n→∞ として E[ST]−(p−q)E[T]=x、E[ST]=N P(ST=N)。
問題 5.4 ★★(ドゥーブ分解)適合かつ可積分な Xn は、マルチンゲール Mn と A0=0 の可予測列 An により Xn=Mn+An と一意に表せることを示せ。また Xn が劣マルチンゲールであることと An が単調非減少であることは同値であることを示せ。
解答
An=∑k=1nE[Xk−Xk−1∣Fk−1]、Mn=Xn−An とおけば A は可予測で E[Mn+1−Mn∣Fn]=0。二通りの分解の差 Mn−Mn′=An′−An は可予測なマルチンゲールなので Mn−Mn′=E[Mn−Mn′∣Fn−1]=Mn−1−Mn−1′=⋯=0。最後の主張は An+1−An=E[Xn+1−Xn∣Fn] から従う。たとえば Sn2 では An=nσ2(例 5.7 の 2)。
問題 5.5 ★★★ 例 5.27 で μ>1、σ2=∑kk2pk−μ2<∞ とする。Wn=Zn/μn の極限 W について E[W]=1、P(W=0)=q を示せ。
解答
E[Zn+12∣Fn]=σ2Zn+μ2Zn2 より E[Wn+12]=E[Wn2]+σ2μ−n−2 なので supnE[Wn2]<∞。定理 5.23 より Wn→W は L2 収束し、E[W]=1。第 1 世代の Z1=k 個体の子孫の極限を W(1),…,W(k)(独立で W と同分布)とすると W=μ−1∑i≤kW(i) だから、ρ=P(W=0) は ρ=∑kpkρk=f(ρ) を満たす。E[W]=1 より ρ<1 で、f(s)=s の [0,1) の解は q だけ(f は凸なので [0,1] の解は高々 2 個)だから ρ=q。
問題 5.6 ★★★(パターンの待ち時間)公平なコインを投げ続けるとき、表表(HH)が初めて現れるまでの回数の期待値は 6、表裏(HT)では 4 であることを示せ。ヒント:各時刻に新しい賭け手が 1 ドルを持って現れ、パターンの文字に順に全額を公平な倍率(当たれば 2 倍)で賭け、外れたら退場するカジノを考える。
解答
時刻 n までの賭け手の所持金の合計から n を引いた Xn は、公平な賭けの和なのでマルチンゲールである(定理 5.8)。パターンが完成する時刻 T について P(T>2k)≤(3/4)k より E[T]<∞、活動中の賭け手は高々 2 人で所持金は 4 以下なので増分は有界であり、系 5.12 (b) より E[XT]=0。HH では時刻 T に、時刻 T−1 から賭けた人が 4、時刻 T から賭けた人が 2 を持つので E[T]=6。HT では時刻 T から賭けた人は H に賭けて外れているので所持金の合計は 4 で、E[T]=4。HH は自分自身と重なる(末尾の H が先頭になりうる)ため、その分だけ待ち時間が長くなる。