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17 · ステージ 6 大学院

リーマン幾何学

リーマン計量、接続、測地線、曲率、ヤコビ場と比較定理、特性類、ホッジ理論

7 章目安 80〜100 時間演習 47 問

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章の一覧

  1. 1 リーマン計量目安 12〜15 時間 · 演習 6 問
  2. 2 接続と共変微分目安 11〜14 時間 · 演習 6 問
  3. 3 測地線と完備性目安 11〜14 時間 · 演習 7 問
  4. 4 曲率目安 11〜14 時間 · 演習 7 問
  5. 5 ヤコビ場と比較定理目安 11〜14 時間 · 演習 7 問
  6. 6 ベクトル束・接続・特性類目安 11〜13 時間 · 演習 7 問
  7. 7 ホッジ理論と大域解析目安 12〜15 時間 · 演習 7 問

概要

リーマン幾何学 (Riemannian geometry) は、多様体の各点の接空間に内積(リーマン計量)を与え、長さ・角度・体積・曲率を調べる幾何学である。ガウスは R3\mathbb{R}^3 内の曲面のガウス曲率が曲面の内側の計量だけで決まることを発見し(驚異の定理)、リーマンはこの発想を任意次元の「曲がった空間」に拡げた。今日ではリーマン幾何学は、一般相対性理論の数学的な言語であり、位相幾何学・解析学・表現論・数理物理と深く結びついた現代数学の中心分野の一つである。

本科目の主題は、曲率が大域的な形を制約するという比較幾何学の思想である。前半(第1〜5章)では、計量(第1章)からレヴィ–チヴィタ接続と平行移動(第2章)、測地線と完備性(第3章)、曲率テンソル(第4章)を順に構成し、ヤコビ場と第 2 変分公式を用いてボネ–マイヤーズの定理(完備でリッチ曲率が正の定数で下から押さえられるなら、コンパクトで基本群は有限)やカルタン–アダマールの定理(完備で断面曲率が非正なら普遍被覆は Rn\mathbb{R}^n に微分同相)を証明する(第5章)。後半では、接続と曲率をベクトル束に一般化してチャーン–ヴェイユ理論により特性類を構成し(第6章)、ホッジ理論によってド・ラーム・コホモロジーを調和形式として実現し、ボホナーの技法とアティヤ–シンガーの指数定理に触れる(第7章)。

抽象的な議論は常に具体例で確かめる方針をとる。特に球面と双曲空間については、クリストッフェル記号・曲率を座標で計算し、ガウスの方程式や動標構による計算と照合する。

前提知識

到達目標

  • [ ] リーマン計量を局所座標で扱い、球面・積多様体・平坦トーラス・双曲空間(3 つのモデル)の計量と、モデル間の等長写像を計算できる
  • [ ] リーマン距離が多様体の位相を与える距離であることを説明し、等長写像・体積形式を扱える
  • [ ] コシュルの公式でレヴィ–チヴィタ接続の存在と一意性を証明し、クリストッフェル記号・平行移動・ホロノミーを計算できる
  • [ ] ガウスの補題を証明し、測地線の局所最短性、最短曲線が測地線であること、第 1 変分公式、ホップ–リノウの定理を証明できる
  • [ ] 曲率テンソルの対称性・第 1 および第 2 ビアンキ恒等式・シューアの補題を証明し、断面曲率・リッチ曲率・スカラー曲率を計算できる
  • [ ] 球面・双曲空間の曲率を、座標計算・ガウスの方程式・動標構の 3 通りで求め、曲面の驚異の定理を内在的に説明できる
  • [ ] ヤコビ場と共役点を理解し、第 2 変分公式からボネ–マイヤーズの定理とカルタン–アダマールの定理を証明できる
  • [ ] ラウフ・ビショップ–グロモフの比較定理、シンジの定理、球面定理の主張と意味を説明できる
  • [ ] ベクトル束の接続・曲率形式・構造方程式を扱い、チャーン–ヴェイユ理論を証明して、チャーン類・ポントリャーギン類・オイラー類を計算できる
  • [ ] ホッジ分解定理の主張と証明の骨格を説明し、ホッジの定理・ポアンカレ双対性・ボホナーの定理を証明できる
  • [ ] アティヤ–シンガーの指数定理の主張と、ガウス–ボネ–チャーンの定理・符号数定理との関係を説明できる

章立て

  1. 第1章 リーマン計量 — 定義と局所座標、本科目の記法と規約、誘導計量・積計量・商計量、双曲空間の 3 つのモデルとその等長性、1 の分割による存在証明、曲線の長さとリーマン距離、等長写像、体積形式、擬リーマン計量。
  2. 第2章 接続と共変微分 — 接続が必要な理由、アフィン接続とクリストッフェル記号、曲線に沿った共変微分と平行移動、捩れと計量との両立、レヴィ–チヴィタ接続の基本定理(コシュルの公式)、ガウスの公式と第二基本形式、球面上の平行移動とホロノミー。
  3. 第3章 測地線と完備性 — 測地線の方程式、指数写像と正規座標、ガウスの補題、測地線の局所最短性と最短曲線の測地性、第 1 変分公式、ホップ–リノウの定理、モデル空間の測地線と距離、切断跡。
  4. 第4章 曲率 — 曲率テンソルと座標表示、平坦性の判定、対称性と第 1 ビアンキ恒等式、断面曲率、リッチ曲率・スカラー曲率、ガウスの方程式と定曲率空間(座標による検算つき)、驚異の定理の再解釈、第 2 ビアンキ恒等式とシューアの補題、アインシュタイン計量。
  5. 第5章 ヤコビ場と比較定理 — ヤコビ方程式、指数写像の微分、定曲率空間のヤコビ場、共役点、第 2 変分公式と指数形式、ボネ–マイヤーズの定理、カルタン–アダマールの定理、ラウフ・シンジ・ビショップ–グロモフの定理と球面定理(主張)。
  6. 第6章 ベクトル束・接続・特性類 — ベクトル束と変換関数、接続形式と曲率形式、構造方程式とビアンキ恒等式、動標構、チャーン–ヴェイユ理論、チャーン類・ポントリャーギン類・オイラー類、CP1\mathbb{C}P^1 上のタウトロジカル束、ガウス–ボネ–チャーンの定理、ゲージ理論への言及。
  7. 第7章 ホッジ理論と大域解析 — ホッジスター作用素・余微分・ホッジ・ラプラシアン、ホッジ分解定理(平坦トーラスでの完全な証明と一般の場合の概略)、調和形式とド・ラーム・コホモロジー、ポアンカレ双対性と符号数、ワイツェンベック公式とボホナーの定理、アティヤ–シンガーの指数定理。

第1章から第5章はこの順に依存している。第6章は第2章・第4章とド・ラーム・コホモロジーを前提とし、第5章とは独立に読める。第7章は第4章(リッチ曲率)を使い、7.6 節だけが第6章(特性類)を使う。

学習時間の目安と進め方

  • 目安は 1 章あたり 15〜20 時間、全体で 120 時間前後(演習問題を含む)。
  • 新しい量(クリストッフェル記号、曲率、ヤコビ場、特性形式)が出てきたら、必ず球面・双曲空間・平坦トーラスで自分で計算すること。本文では曲率を座標計算(第4章)、ガウスの方程式(第4章)、動標構(第6章)の 3 通りで求めて照合している。符号の誤りは、単位球面の断面曲率が +1+1 になるかどうかで検出できる。
  • 第3章のホップ–リノウの定理、第5章のボネ–マイヤーズの定理とカルタン–アダマールの定理は、大学院入試・修士の試験でも頻出である。証明を何も見ずに再現できるまで練習するとよい。
  • 総合演習 20-problems 第9章 に、本科目と解析学を横断する修士レベルの問題がある。

本科目の記法の約束

曲率の符号と添字の規約は本によって異なる。本科目は以下で統一する(J. M. Lee の Introduction to Riemannian Manifolds と同じ規約。do Carmo の Riemannian Geometry は曲率テンソル RR の符号が逆で、断面曲率の式もそれに合わせてあるので断面曲率の値は一致する)。

量 本科目の定義 単位球面 SnS^n での値
曲率テンソル R(X,Y)Z=∇X∇YZ−∇Y∇XZ−∇[X,Y]ZR(X,Y)Z = \nabla_X\nabla_YZ - \nabla_Y\nabla_XZ - \nabla_{[X,Y]}Z ⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y\langle Y, Z \rangle X - \langle X, Z \rangle Y
4 階の曲率テンソル R(X,Y,Z,W)=⟨R(X,Y)Z,W⟩R(X,Y,Z,W) = \langle R(X,Y)Z, W \rangle
座標成分 R(∂i,∂j)∂k=Rijkl∂lR(\partial_i, \partial_j)\partial_k = R_{ijk}{}^l\partial_l, Rijkl=glmRijkmR_{ijkl} = g_{lm}R_{ijk}{}^m
断面曲率 K(X,Y)=⟨R(X,Y)Y,X⟩/(∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2)K(X,Y) = \langle R(X,Y)Y, X \rangle / (\lvert X \rvert^2\lvert Y \rvert^2 - \langle X, Y \rangle^2) 11
リッチ曲率 Ric⁡(Y,Z)=tr⁡(X↦R(X,Y)Z)\operatorname{Ric}(Y,Z) = \operatorname{tr}(X \mapsto R(X,Y)Z), Rjk=RijkiR_{jk} = R_{ijk}{}^i (n−1)g(n-1)g
スカラー曲率 Scal⁡=gjkRjk\operatorname{Scal} = g^{jk}R_{jk} n(n−1)n(n-1)
ラプラシアン Δ=dδ+δd\Delta = d\delta + \delta d(非負)、関数では −div⁡grad⁡-\operatorname{div}\operatorname{grad} 座標関数の制限は固有値 nn
  • 多様体はハウスドルフかつ第二可算とし、「滑らか」は C∞C^\infty 級を意味する(NOTATION.md)。
  • アインシュタインの縮約記法を用いる:同じ添字が上下に 1 回ずつ現れたら和をとる。座標とベクトルの成分の添字は上、1 形式の成分と ∂i=∂/∂xi\partial_i = \partial/\partial x^i の添字は下につける(多様体 の科目とは異なり、和の記号を省略する)。
  • 計量を gg または ⟨⋅,⋅⟩\langle \cdot, \cdot \rangle、成分を gijg_{ij}、逆行列を gijg^{ij} と書く。添字の上げ下げを ♭\flat, ♯\sharp で表す。
  • 接続は特に断らない限りレヴィ–チヴィタ接続であり、曲線に沿った共変微分を DtD_t または V′V' と書く。
  • ウェッジ積は行列式規約(多様体 第5章)、エルミート内積は第 1 変数について線形とする。

参考文献

日本語

  • 酒井隆『リーマン幾何学』(裳華房)— 測地線・ヤコビ場から比較幾何学・球面定理までを詳しく扱う日本語の標準的な専門書。第3〜5章の先に進むときに。
  • 小林昭七『接続の微分幾何とゲージ理論』(裳華房)— ベクトル束と主束の接続、特性類、ゲージ理論。第6章に対応する。
  • 森田茂之『微分形式の幾何学』(岩波書店)— 微分形式からド・ラーム理論・ホッジ理論・特性類まで。第6・7章の副読本に適する。

英語

  • J. M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds (Springer) — 本科目と同じ規約をとる、丁寧で網羅的な教科書。第1〜5章の副読本に最適。
  • M. P. do Carmo, Riemannian Geometry (Birkhäuser) — 簡潔で標準的な教科書。ヤコビ場・第 2 変分・比較定理の章が読みやすい(曲率の符号の規約に注意)。
  • S. Gallot, D. Hulin, J. Lafontaine, Riemannian Geometry (Springer) — 例が豊富で、比較幾何とラプラシアンのスペクトルなどの解析的な話題も含む。
  • J. Milnor, Morse Theory (Princeton University Press) — 測地線の変分法とモースの指数定理の古典。第3・5章の変分公式の背景として。
  • J. Milnor, J. Stasheff, Characteristic Classes (Princeton University Press) — 特性類の位相的な理論の古典。チャーン–ヴェイユ理論との関係も扱う。
  • F. W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups (Springer) — ホッジの定理の完全な証明を含む。第7章の概略を補うのに適する。

次に学ぶもの