この章の目標
- ベクトル束を変換関数で記述し、接束・タウトロジカル束などの例を扱える
- ベクトル束の接続・接続形式・曲率形式を定義し、構造方程式とビアンキ恒等式を証明できる
- チャーン–ヴェイユ理論(特性形式が閉形式であり、そのコホモロジー類が接続によらないこと)を証明できる
- チャーン類・ポントリャーギン類・オイラー類を定義し、CP1 上のタウトロジカル束の c1 を計算できる
- ガウス–ボネ–チャーンの定理の主張と、ゲージ理論との関係を説明できる
前提:第4章、多様体 第5章・第7章(ド・ラーム・コホモロジーのホモトピー不変性)
曲面のガウス–ボネの定理 ∫MK dA=2πχ(M) は、曲率という局所的な量の積分が計量によらない位相不変量になることを主張する。この現象を高次元・一般のベクトル束へ拡げるのが本章の主題である。接続の曲率から作った微分形式は閉形式で、そのコホモロジー類は接続によらない(チャーン–ヴェイユ理論)。こうして得られる特性類は、ベクトル束がどれだけねじれているかを測る位相不変量である。
6.1 ベクトル束
定義 6.1(ベクトル束, vector bundle)K=R または C とする。滑らかな全射 π:E→M で、各ファイバー Ex=π−1(x) が r 次元 K ベクトル空間であり、M の開被覆 {Uα} と微分同相 φα:π−1(Uα)→Uα×Kr(各ファイバー上で線形同型、局所自明化)が存在するものを、階数 r のベクトル束という。φα∘φβ−1(x,v)=(x,gαβ(x)v) で定まる gαβ:Uα∩Uβ→GLr(K) を変換関数という。
変換関数はコサイクル条件 gαα=I, gαβgβγ=gαγ を満たし、逆にこれを満たす族から Uα×Kr を貼り合わせてベクトル束が作れる。滑らかな写像 s:M→E で π∘s=id となるものを切断といい、その全体を Γ(E) と書く。U 上の切断 s1,…,sr が各点で基底をなすとき局所枠という。局所枠と局所自明化は同じものであり、2 つの局所枠は s′=sg(sj′=sigij, g は GLr 値関数)で結ばれる。
例 6.2
- 積 M×Kr(自明束)。接束 TM(座標枠 ∂i、変換関数はヤコビ行列)、余接束 T∗M、ΛkT∗M、部分多様体の法束。
- タウトロジカル束 (tautological bundle):KPn 上の γ:={([x],v)∈KPn×Kn+1∣v∈Kx}。各点に「その点が表す直線そのもの」を対応させる直線束である。CP1 では、U0={[1:z]} 上の枠 s0=(1,z) と U1={[w:1]} 上の枠 s1=(w,1) が、U0∩U1 で s0=z s1(w=1/z)で結ばれる。RP1≅S1 上のタウトロジカル束はメビウスの帯であり、自明でない(演習問題 6.1)。
直和 E⊕E′、テンソル積 E⊗E′、双対 E∗、EndE、滑らかな写像 f:N→M による引き戻し f∗E(ファイバー Ef(y))、複素化 E⊗C なども構成できる。1 の分割により、任意のベクトル束はファイバー計量(実なら内積、複素ならエルミート内積)をもち、正規直交枠を使えば変換関数を O(r) または U(r) に値をとるようにできる。
6.2 ベクトル束の接続
Ωk(E):=Γ(ΛkT∗M⊗E) を E 値 k 形式の空間とする。
定義 6.3(接続)K 線形写像 ∇:Γ(E)→Ω1(E) で、∇(fs)=df⊗s+f∇s (f∈C∞(M)) を満たすものを E の接続という。∇Xs:=(∇s)(X) と書く。
TM のアフィン接続(定義 2.1)は E=TM の場合である。1 の分割で局所的な接続を貼り合わせれば接続は常に存在し、2 つの接続の差は Ω1(EndE) の元である。
局所枠 s=(s1,…,sr) に対し ∇sj=ωij⊗si で 1 形式の行列 ω=(ωij) を定め、接続形式という(行列記法で ∇s=sω)。ξ を Kr 値関数(列ベクトル)とすると ∇(sξ)=s(dξ+ωξ) である。例えばレヴィ–チヴィタ接続の座標枠に関する接続形式は ωkj=Γijkdxi である。
命題 6.4(ゲージ変換)局所枠を s′=sg と取り替えると、接続形式は ω′=g−1ωg+g−1dg と変換する。
証明. ∇s′=∇(sg)=(∇s)g+s dg=s(ωg+dg)=s′(g−1ωg+g−1dg)。□
ファイバー計量 ⟨⋅,⋅⟩ について d⟨s,t⟩=⟨∇s,t⟩+⟨s,∇t⟩ を満たす接続を計量接続という。正規直交枠では 0=d⟨sj,si⟩=ωij+ωji なので、接続形式は交代行列(実の場合)・歪エルミート行列(複素の場合)に値をとる。接続は E∗, E⊗E′, EndE にライプニッツ則で誘導され、引き戻し f∗∇ の接続形式は f∗ω である。
外共変微分 d∇:Ωk(E)→Ωk+1(E) を d∇(α⊗s):=dα⊗s+(−1)kα∧∇s で定める(well-defined であることは α⊗fs=fα⊗s で確かめられる)。k=0 では d∇=∇ である。
6.3 曲率形式・構造方程式・ビアンキ恒等式
命題 6.5(曲率)F∇:=d∇∘∇:Γ(E)→Ω2(E) は C∞(M) 線形であり、したがって F∇∈Ω2(EndE) とみなせる。ベクトル場で書けば
F∇(X,Y)s=∇X∇Ys−∇Y∇Xs−∇[X,Y]s
であり、E=TM では第4章の曲率テンソル R に一致する。
証明. η∈Ω1(E) について d∇(fη)=df∧η+fd∇η なので、d∇∇(fs)=d∇(df⊗s)+df∧∇s+fd∇∇s=−df∧∇s+df∧∇s+fF∇s。後半は (d∇η)(X,Y)=∇X(η(Y))−∇Y(η(X))−η([X,Y])(η=α⊗t で確かめられる。ウェッジ積は行列式規約)を η=∇s に適用すればよい。□
局所枠で F∇sj=Ωij⊗si とおき、2 形式の行列 Ω を曲率形式という。
定理 6.6(構造方程式とビアンキ恒等式)
(1) Ω=dω+ω∧ω(行列の積でウェッジ積をとる)。
(2) 局所枠を s′=sg と取り替えると Ω′=g−1Ωg。
(3) ビアンキ恒等式 dΩ=Ω∧ω−ω∧Ω。
証明. (1) F∇sj=d∇(ωkj⊗sk)=dωkj⊗sk−ωkj∧ωik⊗si であり、−ωkj∧ωik=ωik∧ωkj なので Ωij=dωij+ωik∧ωkj。(2) F∇ は C∞ 線形なので F∇(sg)=(F∇s)g=sΩg=s′g−1Ωg。(3) (1) を微分して dΩ=dω∧ω−ω∧dω=(Ω−ω∧ω)∧ω−ω∧(Ω−ω∧ω)=Ω∧ω−ω∧Ω。□
リーマン多様体の場合(カルタンの構造方程式)。TM の正規直交枠 e1,…,en と双対な余枠 θ1,…,θn をとる。レヴィ–チヴィタ接続の接続形式 ωij(X)=⟨∇Xej,ei⟩ は交代的であり、捩れがないことは
dθi=−ωij∧θj(6.1)
と同値である(dθi(X,Y)=(∇Xθi)(Y)−(∇Yθi)(X) と ∇θi=−ωij⊗θj から)。交代性と (6.1) から ω は一意に決まる。曲率形式は Ωij(X,Y)=⟨R(X,Y)ej,ei⟩ であり、2 次元では Ω12=dω12=K θ1∧θ2(ω∧ω の項は ω11=ω22=0 で消える)。
例 6.7(動標構による曲率の計算)第4章の座標計算・ガウスの方程式に続く、第 3 の計算法で検算する。
- 単位球面 dθ2+sin2θ dϕ2:θ1=dθ, θ2=sinθ dϕ。ω12=−cosθ dϕ とおくと −ω12∧θ2=0=dθ1、−ω21∧θ1=ω12∧θ1=cosθ dθ∧dϕ=dθ2 で (6.1) を満たす。dω12=sinθ dθ∧dϕ=θ1∧θ2 より K=1。
- 上半平面 (dx2+dy2)/y2:θ1=dx/y, θ2=dy/y, dθ1=y−2dx∧dy, dθ2=0。ω12=−dx/y が (6.1) を満たし、dω12=−y−2dx∧dy=−θ1∧θ2 より K=−1。
6.4 不変多項式とチャーン–ヴェイユ理論
定義 6.8(不変多項式)glr(K) 上の多項式関数 P が、任意の g∈GLr(K) について P(gAg−1)=P(A) を満たすとき不変多項式という。
tr(Ak) や、det(I+tA)=∑ktkσk(A) で定まる σk(固有値の基本対称式)は不変多項式である。曲率形式の成分は 2 形式で互いに可換なので、k 次斉次の不変多項式 P に Ω を代入した P(Ω) は 2k 形式として意味をもち、定理 6.6 (2) より局所枠によらない。こうして M 上の大域的な 2k 形式 P(F∇) が定まる。引き戻しと可換である:f∗P(F∇)=P(Ff∗∇)。
定理 6.9(チャーン–ヴェイユ, Chern–Weil)P を k 次斉次の不変多項式とする。
(1) P(F∇) は閉形式である。
(2) ド・ラーム・コホモロジー類 [P(F∇)]∈HdR2k(M;K) は接続 ∇ によらない。
証明. (1) 点 p を固定する。p を中心とする座標で ω=ωi dxi(ωi は行列値関数)と書き、g:=I−xiωi(p) とおくと、g は p の近くで可逆で g(p)=I, dgp=−ωp。命題 6.4 より新しい枠の接続形式は p で ωp′=ωp+dgp=0 となり、ビアンキ恒等式から dΩ′ は p で 0 である。P(Ω′) は可換な 2 形式 Ω′ij の多項式なので、d(P(Ω′))=∑i,j(∂P/∂Aij)(Ω′)∧dΩ′ij は p で 0。P(Ω′)=P(F∇) で p は任意なので、dP(F∇)=0。
(2) ∇0,∇1 を 2 つの接続とする。射影 pr:M×R→M による引き戻し束 pr∗E 上の接続 ∇~:=(1−t)pr∗∇0+t pr∗∇1 を考える(係数の和が 1 なのでライプニッツ則を満たす)。ιc(x):=(x,c) とすると ιc∗∇~=(1−c)∇0+c∇1 であり、特に ι0∗∇~=∇0, ι1∗∇~=∇1。(1) より P(F∇~) は閉形式で、ι0 と ι1 はホモトピックなのでコホモロジーに同じ写像を誘導する(多様体 第7章 7.3 節)。よって
[P(F∇0)]=ι0∗[P(F∇~)]=ι1∗[P(F∇~)]=[P(F∇1)].□
1 次の場合は、差が具体的な完全形式で書ける:trF∇1−trF∇0=dtr(∇1−∇0)(演習問題 6.3)。一般には P(F1)−P(F0)=d(k∫01P~(∇1−∇0,Ft,…,Ft) dt)(P~ は P の偏極、Ft は (1−t)∇0+t∇1 の曲率)という超越公式が成り立つ。
6.5 チャーン類・ポントリャーギン類・オイラー類
定義 6.10(チャーン類)複素ベクトル束 E と接続 ∇ に対し
c(E):=[det(I+2πiF∇)]=1+c1(E)+⋯+cr(E),ck(E)∈HdR2k(M)
を全チャーン類、ck(E)=[σk(2πiF∇)] を第 k チャーン類という。特に c1(E)=[2πitrF∇]。
エルミート計量と計量接続をとると F∇ は歪エルミートで 2πiF∇ はエルミートなので、σk の値は実形式になる。定理 6.9 より類は接続によらないので、ck(E) は実コホモロジー類である。さらに ck(E) は整係数コホモロジーの像に入ることが知られている(主張のみ。2π の正規化はこのために選ばれている)。
チャーン類は次の性質をもつ。(i) 自然性 c(f∗E)=f∗c(E)。(ii) 自明束では c=1(平坦な接続 d をとればよい)。(iii) ホイットニーの和公式 c(E⊕E′)=c(E)c(E′)(直和接続の曲率はブロック対角なので行列式が積になる)。(iv) 直線束では c1(L⊗L′)=c1(L)+c1(L′), c1(L∗)=−c1(L)(演習問題 6.5)。
定義 6.11(ポントリャーギン類)実ベクトル束 E に計量と計量接続をとり、曲率形式 Ω(交代行列値)について
p(E):=[det(I−2π1Ω)]=1+p1(E)+p2(E)+⋯,pk(E)∈HdR4k(M)
と定め、pk(E) を第 k ポントリャーギン類という。
Ω が交代行列なので σj(−Ω)=σj(Ω⊤)=σj(Ω) となり、奇数次の σj(Ω) は 0 である。これが次数が 4 の倍数だけになる理由である。定義から pk(E)=(−1)kc2k(E⊗C) であり、σ2(A)=21((trA)2−tr(A2)) より p1(E)=−8π21[tr(Ω∧Ω)]。
オイラー類には、向きと計量を使う SO(2m) 不変な多項式が必要である。交代行列 A (2m 次) のパフィアンを
Pf(A):=2mm!1σ∈S2m∑sgn(σ)Aσ(1)σ(2)⋯Aσ(2m−1)σ(2m)
で定めると、Pf(A)2=detA、Pf(gAg⊤)=det(g)Pf(A) が成り立つ(主張のみ)。m=1 では Pf(A)=A12、m=2 では Pf(A)=A12A34−A13A24+A14A23 である。
定義 6.12(オイラー類)向き付けられた階数 2m の実ベクトル束 E に計量と計量接続をとり、正の向きの正規直交枠に関する曲率形式を Ω とする。e(E):=[Pf(Ω/2π)]∈HdR2m(M) をオイラー類という。
正の向きの正規直交枠どうしは SO(2m) 値の g で移り合い Ω′=g−1Ωg なので、Pf(Ω) は大域的な形式である。定理 6.9 の証明は、ゲージ変換を g=exp(−xiωi(p))∈SO(2m) に、接続の道を計量接続の道に制限すればそのまま通用する。Pf2=det より e(E)2=pm(E) である。2 次元の TM では e(TM)=[2π1Ω12]=[2πKdA] であり、ガウス–ボネの定理は ∫Me(TM)=χ(M) と言い換えられる。
命題 6.13 エルミート計量をもつ複素直線束 L を、向き付けられた実階数 2 の束 LR とみなすと、e(LR)=c1(L) である。
証明. 計量接続をとり、局所的な単位切断 s について ∇s=ia s(a は実 1 形式)と書くと、曲率は F=i da で c1 の代表は 2πii da=−2πda。実の正規直交枠 e1=s, e2=is(複素構造の定める向き)では ∇e1=a e2, ∇e2=i⋅ia s=−a e1 なので ω21=a, ω12=−a, Ω12=−da。よって Pf(Ω/2π)=−2πda で、両者の代表形式は一致する。□
6.6 例:CP1 上のタウトロジカル束
γ⊂CP1×C2 に C2 の標準エルミート内積を制限し、自明束の微分 d を直交射影 Px で γ に落とした接続 ∇s:=P(ds) を考える(計量接続になる)。U0 上の枠 s0=(1,z) について ds0=(0,dz) で、直線 Cs0 への射影は P(v)=⟨v,s0⟩s0/∣s0∣2 なので
∇s0=1+∣z∣2zˉdzs0,ω=1+∣z∣2zˉdz.
直線束では ω∧ω=0 なので F=dω。dz∧dz=0 に注意して ∂ˉ の部分だけを計算すると ∂zˉ(zˉ/(1+zzˉ))=1/(1+∣z∣2)2 より
F=(1+∣z∣2)2dzˉ∧dz=(1+∣z∣2)22idx∧dy,2πiF=−π1(1+x2+y2)2dx∧dy
(dzˉ∧dz=2i dx∧dy)。U0 は CP1 から 1 点を除いたもので測度 0 の差しかなく、∫R2(1+x2+y2)−2dx dy=2π∫0∞r(1+r2)−2dr=π なので
∫CP1c1(γ)=−1
である(CP1 には複素構造の向きを与える)。c1(γ)=0 なので γ は自明でなく、演習問題 6.5 より γ⊗k (k=0) もすべて自明でない。双対 γ∗(超平面束)は ∫c1=1 をもつ。
一方、接束 TCP1 は複素直線束で、実束としては TS2 である(CP1≅S2 は立体射影による)。命題 6.13 とガウス–ボネの定理(単位球面の計量で計算してよい)から ∫c1(TCP1)=∫e(TS2)=2π1∫S2K dA=2。実際 ∂z=−w2∂w から TCP1≅(γ∗)⊗2 となり、c1 の加法性とも整合する。
6.7 ガウス–ボネ–チャーンの定理
定理 6.14(ガウス–ボネ–チャーン, Gauss–Bonnet–Chern)M を向き付けられた 2m 次元のコンパクトなリーマン多様体とし、Ω をレヴィ–チヴィタ接続の(正の向きの正規直交枠に関する)曲率形式とすると
∫MPf(2πΩ)=χ(M)
である。(主張のみ)
m=1 では Ω12=Kθ1∧θ2 より曲面のガウス–ボネの定理そのものである。単位球面 S2m では Ωij=θi∧θj で、左辺は 2=χ(S2m) になる(演習問題 6.7)。チャーンによる内在的な証明は、単位接球面束の上で Pf(Ω) が完全形式になること(超越)と、ポアンカレ–ホップの定理(ベクトル場の零点の指数の和 =χ(M))を組み合わせるものである。第7章では、この定理がアティヤ–シンガーの指数定理の特別な場合として再び現れる。
計量によらない左辺の積分値が、曲率の符号の仮定と組み合わさると位相的な制約を与える。例えば閉曲面で K>0 なら χ>0 なので S2 か RP2 であり、K≤0 なら χ≤0 である。
6.8 主束とゲージ理論への言及
リー群 G が右から自由に作用し、局所的に U×G の形をした多様体 P→M を主 G 束という。ベクトル束 E の枠全体は主 GLr 束(計量があれば主 O(r) 束)Fr(E) をなし、逆に主束と G の表現から同伴ベクトル束が作られる。主束の接続は P 上の g 値 1 形式として定義され、その局所的な引き戻しが本章の接続形式 ω、ゲージ変換則が命題 6.4 である。物理学ではこれをゲージ場、曲率 F を場の強さと呼ぶ。G=U(1) の場合が電磁気学(F が電磁場、ビアンキ恒等式 dF=0 がマクスウェル方程式の半分)であり、非可換な G=SU(2),SU(3) の場合が素粒子の標準模型を記述するヤン–ミルズ理論である。ヤン–ミルズ汎関数 ∫M∣F∣2 dV の臨界点、特に 4 次元多様体上の反自己双対接続(インスタントン)のモジュライ空間は、ドナルドソンによる 4 次元多様体の微分構造の研究に用いられた。これらの詳細は小林昭七『接続の微分幾何とゲージ理論』を参照。
まとめ
- ベクトル束は局所自明化と、コサイクル条件を満たす変換関数で記述される。タウトロジカル束は射影空間上の基本的な非自明直線束である。
- 接続は ∇(fs)=df⊗s+f∇s を満たす微分作用素で、局所的には接続形式 ω で表され、ω′=g−1ωg+g−1dg と変換する。
- 曲率 F∇=d∇∘∇ は EndE 値 2 形式で、局所的に Ω=dω+ω∧ω、Ω′=g−1Ωg、ビアンキ恒等式 dΩ=Ω∧ω−ω∧Ω を満たす。
- 不変多項式 P について P(F) は閉形式で、そのコホモロジー類は接続によらない(チャーン–ヴェイユ)。
- チャーン類 det(I+2πiF)、ポントリャーギン類 det(I−2π1Ω)、オイラー類 Pf(Ω/2π) が定義され、e2=pm、直線束では e=c1。
- CP1 上のタウトロジカル束は ∫c1=−1、接束は ∫c1=2=χ(S2)。
- ガウス–ボネ–チャーンの定理 ∫MPf(Ω/2π)=χ(M) は曲面のガウス–ボネの定理の高次元化である。
演習問題
問題 6.1 ★ RP1 上のタウトロジカル束 γ は自明でないことを、消えない切断が存在しないことを示して証明せよ。
解答
切断は s([x])=( [x], f(x)x )(x∈S1, f:S1→R 連続)と書け、[x]=[−x] での well-defined 性から f(−x)(−x)=f(x)x、すなわち f(−x)=−f(x)。f が消えなければ、連結な S1 上で符号一定となり、奇関数であることに反する。よって消えない切断はなく、階数 1 の自明束(消えない切断をもつ)ではない。
問題 6.2 ★ trΩ が大域的に定義された閉 2 形式であることを、定理 6.6 から直接示せ。
解答
(2) より trΩ′=tr(g−1Ωg)=trΩ(2 形式は可換なので行列のトレースの巡回性が使える)。(3) より dtrΩ=tr(Ω∧ω)−tr(ω∧Ω) で、Ωij∧ωji=ωji∧Ωij(2 形式と 1 形式は可換)より両者は等しく、dtrΩ=0。
問題 6.3 ★ 2 つの接続の差を A=∇1−∇0∈Ω1(EndE) とすると、trF∇1−trF∇0=dtrA であることを示せ。
解答
局所枠で ω1=ω0+a(a は A の行列)とすると Ω1=Ω0+da+ω0∧a+a∧ω0+a∧a。1 形式の行列 α,β について tr(α∧β)=αij∧βji=−βji∧αij=−tr(β∧α) なので、tr(ω0∧a+a∧ω0)=0, tr(a∧a)=0。よって trΩ1−trΩ0=dtra であり、tra=trA は大域的な 1 形式である。
問題 6.4 ★★ (1) g=dr2+f(r)2dθ2 について、θ1=dr, θ2=f dθ として ω12 を求め、K=−f′′/f を導け(演習問題 4.1 の検算)。(2) 単位球面 (f=sinr) の半径 R の測地円板上で ∫K dA を計算し、第2章 2.7 節のホロノミー角と比較せよ。
解答
(1) dθ1=0, dθ2=f′ dr∧dθ。ω12=−f′ dθ とおくと −ω12∧θ2=f′f dθ∧dθ=0, ω12∧θ1=−f′ dθ∧dr=f′ dr∧dθ で (6.1) を満たす。dω12=−f′′ dr∧dθ=−(f′′/f)θ1∧θ2 より K=−f′′/f。
(2) ∫02π∫0R1⋅sinr dr dθ=2π(1−cosR)。これは極角 R の緯線に沿った平行移動の回転角(2.7 節)に等しい。一般に、境界に沿った平行移動の回転角は、ω12 の境界上の積分(とストークスの定理)で ∫K dA と結びつく。
問題 6.5 ★★ 複素直線束 L,L′ について c1(L⊗L′)=c1(L)+c1(L′), c1(L∗)=−c1(L) を示し、∫CP1c1(γ⊗k)=−k を導け。
解答
L,L′ の接続から L⊗L′ に ∇(s⊗s′)=∇s⊗s′+s⊗∇s′ を入れると、局所枠 s⊗s′ の接続形式は ω+ω′、曲率は dω+dω′ なので c1 は和になる。L∗ の双対枠 s∗ では 0=d⟨s∗,s⟩=⟨∇s∗,s⟩+ω より接続形式は −ω、曲率は −dω。γ⊗k (k≥0) は加法性、k<0 は γ⊗k=(γ∗)⊗(−k) と双対の公式から ∫c1=−k。
問題 6.6 ★★ 定曲率 κ のリーマン多様体では、TM のポントリャーギン形式 σ2k(Ω) (k≥1) がすべて 0 であることを示せ。
解答
系 4.7 より Ωij(X,Y)=κ⟨⟨Y,ej⟩X−⟨X,ej⟩Y,ei⟩、すなわち Ωij=κ θi∧θj。Ω2 の成分は κ2∑lθi∧θl∧θl∧θj=0 なので Ωm=0 (m≥2) で、tr(Ωm)=0 (m≥2)、また trΩ=0。σ2k はニュートンの恒等式により tr(Ωm) の多項式で定数項をもたないので 0。したがって例えば p1(TS4)=0 である。
問題 6.7 ★★★ 単位球面 S2m について Pf(Ω)=(2m−1)!! dV を示し、vol(S2m)=2m+1πm/(2m−1)!! を用いて ∫S2mPf(Ω/2π)=2 を確かめよ。
解答
ヒント. 演習問題 6.6 より Ωij=θi∧θj なので、パフィアンの定義から Pf(Ω)=2mm!1∑σsgn(σ)θσ(1)∧⋯∧θσ(2m)=2mm!(2m)!dV=(2m−1)!! dV(各項は sgn(σ)2 dV=dV)。m=2 なら A12A34−A13A24+A14A23 の 3 項がそれぞれ dV になることを直接確かめよ。体積は vol(S2m)=2πm+1/2/Γ(m+21) と Γ(m+21)=(2m−1)!!π/2m から得られる。よって ∫Pf(Ω/2π)=(2m−1)!!⋅2m+1πm/((2m−1)!!(2π)m)=2=χ(S2m)。m=2 では vol(S4)=8π2/3, 3⋅(8π2/3)/(4π2)=2。