この章の目標
- リーマン曲率テンソルを定義し、テンソル性・座標表示・対称性(第 1 ビアンキ恒等式)を証明できる
- 断面曲率・リッチ曲率・スカラー曲率を定義し、断面曲率が曲率テンソルを決めることを証明できる
- 球面・ユークリッド空間・双曲空間の曲率を、ガウスの方程式と座標計算の両方で求められる
- 曲面の断面曲率がガウス曲率に一致することから、驚異の定理を再解釈できる
- 第 2 ビアンキ恒等式を証明してシューアの補題を導き、アインシュタイン計量を説明できる
前提:第2章、第3章(正規座標)、多様体 第1章(ガウス曲率)
第2章の最後で、球面上の平行移動が経路に依存し、小さな閉曲線を回るとベクトルが囲んだ面積に比例して回転することを見た。ユークリッド空間ではこのようなことは起きない。成分ごとの 2 階微分が可換だからである。本章では、共変微分の非可換性として曲率を定義し、その代数的性質と計算法を学ぶ。以下 (M,g) はリーマン多様体、∇ はレヴィ–チヴィタ接続である。
4.1 曲率テンソル
Rn の Dˉ では DˉXDˉYZ−DˉYDˉXZ=Dˉ[X,Y]Z が成り立つ(成分 Zk に対する XY−YX=[X,Y])。一般の多様体でのそのずれを考える。
定義 4.1(リーマン曲率テンソル)
R(X,Y)Z:=∇X∇YZ−∇Y∇XZ−∇[X,Y]Z
をリーマン曲率テンソル (Riemann curvature tensor) という。また R(X,Y,Z,W):=⟨R(X,Y)Z,W⟩ とおく。
補足
本教材の規約は Lee の Introduction to Riemannian Manifolds と同じである。do Carmo の Riemannian Geometry は R の符号を逆にとり、断面曲率を ⟨R(X,Y)X,Y⟩/∣X∧Y∣2 と定めるので、断面曲率の値は一致する(どの流儀でも球面の断面曲率は正)。座標成分の添字の順序も本によって異なる。
命題 4.2 R(X,Y)Z は X,Y,Z のそれぞれについて C∞(M) 線形であり、(1,3) 型テンソル場を定める。
証明. X について:[fX,Y]=f[X,Y]−(Yf)X より
R(fX,Y)Z=f∇X∇YZ−∇Y(f∇XZ)−f∇[X,Y]Z+(Yf)∇XZ=fR(X,Y)Z.
Y については R(X,Y)=−R(Y,X) から従う。Z について:∇X∇Y(fZ)=(XYf)Z+(Yf)∇XZ+(Xf)∇YZ+f∇X∇YZ を X,Y について反対称化すると ([X,Y]f)Z+f(∇X∇Y−∇Y∇X)Z となり、∇[X,Y](fZ)=([X,Y]f)Z+f∇[X,Y]Z を引けば fR(X,Y)Z。□
座標で R(∂i,∂j)∂k=Rijkl ∂l, Rijkl:=R(∂i,∂j,∂k,∂l)=glmRijkm とおく。[∂i,∂j]=0 と ∇∂i(Γjkm∂m)=∂iΓjkm ∂m+ΓjkmΓiml∂l から
Rijkl=∂iΓjkl−∂jΓikl+ΓjkmΓiml−ΓikmΓjml(4.1)
である。曲率は計量の 2 階微分を含む量であり、正規座標の中心では Γ=0 なので Rijkl=∂iΓjkl−∂jΓikl となる。
2 階共変微分 ∇X,Y2Z:=∇X∇YZ−∇∇XYZ(テンソル的)を使うと、捩れがないことから
∇X,Y2Z−∇Y,X2Z=R(X,Y)Z(4.2)
と書ける(リッチ恒等式)。曲率は「2 階共変微分の非可換性」である。1 形式 ω に対しては ∇X,Y2ω−∇Y,X2ω=−ω(R(X,Y) ⋅ ) となる(ω(Z) に (4.2) とライプニッツ則を適用する)。
曲率が消えることの意味は次の定理で与えられる。
定理 4.3(平坦性)リーマン多様体 (M,g) が各点の近傍で Rn と等長であるための必要十分条件は R≡0 であることである。
証明. Rn では Γ=0 なので R=0 であり、R は等長写像で保たれる(命題 2.15)。逆に R≡0 とし、点 p のまわりの座標立方体 C={∣xi∣<ε} をとる。v∈TpM を x1 軸に沿って平行移動し、次に得られた値を x2 方向の線分に沿って平行移動し、…と xn まで続けて C 上のベクトル場 V を作る。Ck:={xk+1=⋯=xn=0} 上で ∇∂jV=0 (j≤k) を k についての帰納法で示す。k=1 は構成から。Ck−1 で成り立つとし、j<k について W:=∇∂jV を Ck 上で考えると、構成から ∇∂kV=0 なので (4.2) と R=0 より
∇∂kW=∇∂k∇∂jV=∇∂j∇∂kV+R(∂k,∂j)V=0.
W は xk 方向の線分に沿って平行で、xk=0(つまり Ck−1 上)で 0 なので Ck 上で 0。よって V は C 上で平行である。TpM の正規直交基底から作った平行なベクトル場 E1,…,En は各点で正規直交で(命題 2.10)、捩れがないので [Ei,Ej]=∇EiEj−∇EjEi=0。可換な枠は座標枠である(多様体 第4章 4.5 節)ので、∂/∂yi=Ei となる座標 y があり、そこで gij=δij。□
4.2 曲率テンソルの対称性
命題 4.4(曲率の対称性)任意の X,Y,Z,W について
- (a) R(X,Y,Z,W)=−R(Y,X,Z,W)
- (b) R(X,Y,Z,W)=−R(X,Y,W,Z)
- (c) 第 1 ビアンキ恒等式:R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y=0
- (d) R(X,Y,Z,W)=R(Z,W,X,Y)
証明. (a) は定義から明らか。
(b) 双線形性から ⟨R(X,Y)Z,Z⟩=0 を示せばよい。両立条件より X(Y21∣Z∣2)=X⟨∇YZ,Z⟩=⟨∇X∇YZ,Z⟩+⟨∇YZ,∇XZ⟩。X,Y を入れ替えて引くと [X,Y]21∣Z∣2=⟨(∇X∇Y−∇Y∇X)Z,Z⟩。一方 [X,Y]21∣Z∣2=⟨∇[X,Y]Z,Z⟩ なので、差をとって ⟨R(X,Y)Z,Z⟩=0。
(c) テンソル性から座標ベクトル場で示せば十分で、[∂i,∂j]=0 と ∇∂j∂k=∇∂k∂j より
cyc∑R(∂i,∂j)∂k=∇∂i(∇∂j∂k−∇∂k∂j)+∇∂j(∇∂k∂i−∇∂i∂k)+∇∂k(∇∂i∂j−∇∂j∂i)=0.
(d) (c) を W との内積の形 R(X,Y,Z,W)+R(Y,Z,X,W)+R(Z,X,Y,W)=0 で書き、(X,Y,Z,W) を巡回的にずらした 4 つの式 (始点 X,Y,Z,W の各巡回) を足す。(a)(b) により R(X,Y,Z,W)+R(X,Y,W,Z) の形の 4 組が打ち消し合い、2R(Z,X,Y,W)+2R(W,Y,Z,X)=0 が残る。すなわち R(Z,X,Y,W)=R(Y,W,Z,X) であり、文字を付け替えれば (d) を得る。□
座標では Rijkl=−Rjikl=−Rijlk=Rklij, Rijkl+Rjkil+Rkijl=0 である。(a)(b)(c) を満たす 4 重線形形式を代数的曲率テンソルという((d) は (a)(b)(c) から従う)。その空間の次元は n2(n2−1)/12 であり、n=2,3,4 で 1,6,20 である(演習問題 4.7)。
4.3 断面曲率
TpM の 2 次元部分空間 σ(平面)を X,Y が張るとき、∣X∧Y∣2:=∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2>0 である。X′=aX+bY, Y′=cX+dY とすると (a)(b) より R(X′,Y′,Y′,X′)=(ad−bc)2R(X,Y,Y,X)、∣X′∧Y′∣2=(ad−bc)2∣X∧Y∣2 である。
定義 4.5(断面曲率, sectional curvature)平面 σ=span(X,Y)⊂TpM に対し
K(σ)=K(X,Y):=∣X∧Y∣2R(X,Y,Y,X)=∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2⟨R(X,Y)Y,X⟩
は基底のとり方によらない。これを断面曲率という。2 次元では K(p):=K(TpM)=R1221/(g11g22−g122) をガウス曲率という。
定理 4.6 代数的曲率テンソル R,R′ が、すべての X,Y について R(X,Y,Y,X)=R′(X,Y,Y,X) を満たせば R=R′ である。特に断面曲率は曲率テンソルを決める。
証明. D=R−R′ は代数的曲率テンソルで D(X,Y,Y,X)=0。X を X+Z に替えると D(X,Y,Y,Z)+D(Z,Y,Y,X)=0 であり、(d)(a)(b) より D(Z,Y,Y,X)=D(Y,X,Z,Y)=D(X,Y,Y,Z) なので D(X,Y,Y,Z)=0。Y を Y+W に替えると D(X,Y,W,Z)=−D(X,W,Y,Z)=D(W,X,Y,Z)。つまり D は最初の 3 変数の巡回置換で不変であり、ビアンキ恒等式 (c) より 3D(X,Y,W,Z)=0。□
系 4.7 点 p のすべての平面の断面曲率が κ であることは、TpM 上で
R(X,Y)Z=κ(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y)
となることと同値である。
証明. R1(X,Y)Z:=⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y は (a)(b)(c) を満たし(直接確かめられる)、⟨R1(X,Y)Y,X⟩=∣X∧Y∣2 なので断面曲率はすべて 1。定理 4.6 を R と κR1 に適用すればよい。□
4.4 リッチ曲率とスカラー曲率
定義 4.8(リッチ曲率・スカラー曲率)Ric(Y,Z):=tr(X↦R(X,Y)Z) をリッチ曲率、Scal:=trgRic をスカラー曲率という。座標では Rjk=Rijki=gilRijkl, Scal=gjkRjk である。
(d) より Ric は対称である。正規直交基底 e1,…,en で en=v(単位ベクトル)とすると
Ric(v,v)=i=1∑n−1⟨R(ei,v)v,ei⟩=i=1∑n−1K(ei,v),Scal=i=j∑K(ei,ej)
である。リッチ曲率は v を含む平面の断面曲率の和(平均の n−1 倍)であり、スカラー曲率はさらにその和である。n=2 では Ric=Kg, Scal=2K。定曲率 κ なら Ric=(n−1)κg, Scal=n(n−1)κ である。
例 4.9(積多様体)積計量ではレヴィ–チヴィタ接続も曲率も成分ごとに分かれ、TpM1 と TqM2 から 1 本ずつとったベクトルが張る「混合平面」の断面曲率は 0 である。例えば S2×S2(単位球面の積)は Ric=g>0 だが断面曲率が 0 の平面をもち、S2×R は Ric≥0 で Scal=2 である(演習問題 4.2)。断面曲率 > リッチ曲率 > スカラー曲率の順に条件は弱く、得られる大域的帰結も異なる(第5章)。
4.5 定曲率空間の曲率
ガウスの公式(定理 2.16)から、部分多様体の曲率は外側の曲率と第二基本形式で表される。
定理 4.10(ガウスの方程式, Gauss equation)M⊂Mˉ を部分多様体とする。M に接する X,Y,Z,W について
R(X,Y,Z,W)=Rˉ(X,Y,Z,W)+⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩−⟨II(X,Z),II(Y,W)⟩.
特に K(X,Y)=Kˉ(X,Y)+(⟨II(X,X),II(Y,Y)⟩−∣II(X,Y)∣2)/∣X∧Y∣2 である。
証明. ガウスの公式を 2 回使うと ∇ˉX∇ˉYZ=∇ˉX(∇YZ+II(Y,Z))=∇X∇YZ+II(X,∇YZ)+∇ˉX(II(Y,Z))。W との内積をとると第 2 項は消え、第 3 項はワインガルテンの公式により −⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩ になる。X,Y を入れ替えたものを引き、⟨∇ˉ[X,Y]Z,W⟩=⟨∇[X,Y]Z,W⟩ を引けば
Rˉ(X,Y,Z,W)=R(X,Y,Z,W)−⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩+⟨II(X,Z),II(Y,W)⟩.□
この証明は非退化性しか使わないので、ミンコフスキー空間内の空間的超曲面でも成り立つ。
定理 4.11(モデル空間の曲率)Rn は K≡0、半径 r の球面 Sn(r) は K≡1/r2、双曲空間 Hn は K≡−1 である。
証明. Rn は Γ=0 から。Sn(r) では外向き単位法ベクトル N=x/r について、例 2.17 と同様に II(X,Y)=−r1⟨X,Y⟩N であり、Rˉ=0 とガウスの方程式から
R(X,Y,Z,W)=r21(⟨Y,Z⟩⟨X,W⟩−⟨X,Z⟩⟨Y,W⟩),
すなわち R=r−2R1。Hn⊂Rn,1 では法ベクトル N=x が ⟨N,N⟩L=−1 を満たし、II(X,Y)=−⟨DˉXY,N⟩L N=⟨Y,DˉXN⟩L N=⟨X,Y⟩N である(法成分の係数は ⟨⋅,N⟩L/⟨N,N⟩L)。⟨N,N⟩L=−1 なので ⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩L=−⟨Y,Z⟩⟨X,W⟩ となり、R=−R1。□
計量を定数倍 c2g するとレヴィ–チヴィタ接続は変わらず(系 2.12)、K は c−2 倍になる。よって r2gH は K≡−1/r2 である。
例 4.12(座標による検算)抽象的な議論を座標計算で確かめる。
(1) S2(r) の計量 r2(dθ2+sin2θ dϕ2) と例 2.13 のクリストッフェル記号を (4.1) に代入する:
Rθϕϕθ=∂θΓϕϕθ−∂ϕΓθϕθ+ΓϕϕmΓθmθ−ΓθϕmΓϕmθ=(sin2θ−cos2θ)−0+0−cotθ⋅(−sinθcosθ)=sin2θ.
Rθϕϕθ=gθθsin2θ=r2sin2θ なので K=r2sin2θ/(r4sin2θ)=1/r2。
(2) 上半空間 Un (y=xn) では、演習問題 2.3 の公式を f=−logy に適用して Γijk=y−1(−δkiδjn−δkjδin+δijδkn)。i=j として座標平面の断面曲率を求める。i,j<n のとき Γjji=Γiji=Γijm=0, Γjjm=δmn/y, Γini=−1/y なので
Rijji=ΓjjnΓini=−y21.
i<n=j のとき Γnni=0, Γini=−1/y, Γnnm=−δmn/y, Γinm=−δmi/y なので
Rinni=−∂nΓini+ΓnnnΓini−ΓiniΓnii=−y21+y21−y21=−y21.
いずれも Rijji=giiRijji=−y−4, giigjj=y−4 で K(∂i,∂j)=−1 となり、定理 4.11 と合う。
定理 4.13(空間形, キリング–ホップ)断面曲率が一定値 κ の完備連結リーマン多様体は、κ>0,=0,<0 に応じて Sn(1/κ), Rn, Hn に適当に定数倍した計量を与えたもの M~κ を、自由かつ真性不連続に作用する等長変換群 Γ で割った M~κ/Γ と等長である。特に単連結なら M~κ と等長である。(主張のみ。第5章 5.2 節で示す局所的な等長性と、5.6 節の被覆写像の議論を組み合わせて示される)
平坦トーラス、RPn、レンズ空間、種数 2 以上の閉曲面の双曲計量(リーマン面 第6章)はこの形の例である。
4.6 曲面のガウス曲率と驚異の定理
M⊂R3 を曲面、N を単位法ベクトル、h をスカラー値の第二基本形式、S を形作用素とする。Rˉ=0 なのでガウスの方程式から、正規直交基底 X,Y について
K(TpM)=h(X,X)h(Y,Y)−h(X,Y)2=detS=κ1κ2
であり、これは 多様体 第1章 1.4 節で定義したガウス曲率(主曲率の積)にほかならない。一方、左辺は計量 g からレヴィ–チヴィタ接続を通じて定義された量である。したがってガウス曲率は第一基本形式だけで決まる。これが驚異の定理の現代的な証明であり、「外側の空間で定義したものが実は内在的だった」という事実を、「内在的に定義したものを外側で計算するとガウス曲率になる」と読み替えたことになる。
高次元の断面曲率 K(σ) も、σ に接する測地線が掃く曲面 expp(σ∩Bε(0)) の p でのガウス曲率に等しいことが知られている。また、測地円の周長や測地円板の面積のユークリッドからのずれとして曲率を読み取ることもできる(演習問題 1.5、第5章)。コンパクトな向き付けられた曲面では、ガウス–ボネの定理 ∫MK dA=2πχ(M) により曲率の積分が位相で決まる。これを高次元に拡げるのが第6章の特性類の理論である。
4.7 第2ビアンキ恒等式とシューアの補題
∇R は (∇XR)(Y,Z)W=∇X(R(Y,Z)W)−R(∇XY,Z)W−R(Y,∇XZ)W−R(Y,Z)∇XW で定まるテンソルである。
定理 4.14(第 2 ビアンキ恒等式)(∇XR)(Y,Z)+(∇YR)(Z,X)+(∇ZR)(X,Y)=0。
証明. テンソルの等式なので、点 p で X,Y,Z を p を中心とする正規座標の座標ベクトル場として示せばよい。p で ∇XY=∇XZ=⋯=0(命題 3.9)、かつ括弧はすべて 0 なので、p で
(∇XR)(Y,Z)W=∇X∇Y∇ZW−∇X∇Z∇YW−∇Y∇Z∇XW+∇Z∇Y∇XW
である。X→Y→Z→X と巡回させて和をとると、第 1 項と第 3 項(第 3 項は第 1 項を巡回させたもの)、第 2 項と第 4 項(第 4 項は第 2 項を 2 回巡回させたもの)がそれぞれ打ち消し合う。□
成分で書けば Rijkl;m+Rjmkl;i+Rmikl;j=0 である(Rijkl;m は ∇R の成分)。
系 4.15(縮約ビアンキ恒等式)divRic=21dScal。成分では ∇lRlm=21∂mScal である(∇l:=glk∇k)。
証明. 共変微分は縮約と可換である。成分の式を gil で縮約すると、gilRijkl=Rjk, gilRmikl=−Rmk より Rjk;m+∇lRjmkl−Rmk;j=0。さらに gjk で縮約すると、gjkRjmkl=−gjkRjmlk=−Rml より ∂mScal−∇lRml−∇kRmk=0。□
定理 4.16(シューアの補題, Schur)(M,g) を n≥3 次元の連結なリーマン多様体とし、各点 p で断面曲率が平面によらない値 f(p) をとるとする。このとき f は定数である。
証明. 系 4.7 より R=fR1。R1 は g と恒等写像から作られるので ∇R1=0 であり、∇XR=(Xf)R1。第 2 ビアンキ恒等式より
(Xf)R1(Y,Z)W+(Yf)R1(Z,X)W+(Zf)R1(X,Y)W=0.
n≥3 なので、任意の単位ベクトル X に対し X,Y,Z が正規直交となる Y,Z がとれる。W=Y とすると R1(Y,Z)Y=−Z, R1(Z,X)Y=0, R1(X,Y)Y=X なので −(Xf)Z+(Zf)X=0、よって Xf=0。X は任意なので df=0 で、連結性から f は定数。□
n=2 では各点の平面は TpM ただ一つなので仮定は自明に成り立ち、結論は偽である(楕円面のガウス曲率は一定でない)。
4.8 アインシュタイン計量
定義 4.17(アインシュタイン計量)定数 λ について Ric=λg を満たす計量をアインシュタイン計量 (Einstein metric) という。
命題 4.18 n≥3 の連結なリーマン多様体で Ric=fg(f は関数)ならば f は定数である。
証明. Scal=nf であり、div(fg)=df なので、系 4.15 から df=2ndf、n=2 より df=0。□
定曲率空間はアインシュタイン計量である。単位球面の積 S2×S2 は Ric=g を満たすが定曲率ではない。複素射影空間のフビニ–スタディ計量もアインシュタイン計量であり、カラビ–ヤウ多様体には Ric=0 の計量が存在する(主張のみ)。3 次元ではリッチ曲率が曲率テンソルを決めるので、アインシュタイン計量は定曲率に限る(演習問題 4.5)。
アインシュタイン計量は、体積 1 の計量の中での全スカラー曲率 ∫MScal dVg の臨界点として特徴づけられる(ヒルベルトの作用。主張のみ)。一般相対性理論のアインシュタイン方程式 Ric−21Scal g=8πT(ローレンツ計量、T はエネルギー運動量テンソル)の左辺は、縮約ビアンキ恒等式により発散が 0 であり、これがエネルギー運動量の保存と整合する。真空 T=0 ではリッチ平坦 Ric=0 と同値である。
まとめ
- 曲率テンソル R(X,Y)Z=∇X∇YZ−∇Y∇XZ−∇[X,Y]Z はテンソルであり、座標では Rijkl=∂iΓjkl−∂jΓikl+ΓjkmΓiml−ΓikmΓjml。R≡0 は局所的にユークリッドであることと同値である。
- Rijkl は前後の対で反対称、対の交換で対称で、第 1 ビアンキ恒等式を満たす。
- 断面曲率 K(X,Y)=⟨R(X,Y)Y,X⟩/∣X∧Y∣2 は曲率テンソルを完全に決め、定曲率 κ は R(X,Y)Z=κ(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y) と同値である。
- リッチ曲率は断面曲率の部分和、スカラー曲率はそのトレースである。
- ガウスの方程式により Sn(r) は K=1/r2、Hn は K=−1。座標計算でも確かめられる。曲面では断面曲率はガウス曲率であり、これが驚異の定理の内在的な証明になる。
- 第 2 ビアンキ恒等式から divRic=21dScal が従い、n≥3 では点ごとに等方的な曲率は定数になる(シューア)。アインシュタイン計量の比例定数も自動的に定数である。
演習問題
問題 4.1 ★ g=dr2+f(r)2dθ2(f>0)のガウス曲率が K=−f′′/f であることを (4.1) で示せ。f=sinr, r, sinhr の場合を確かめよ。
解答
grr=1, gθθ=f2 より Γθθr=−ff′, Γrθθ=Γθrθ=f′/f、他は 0。
Rrθθr=∂rΓθθr−∂θΓrθr+ΓθθmΓrmr−ΓrθmΓθmr=−(f′2+ff′′)−0+0−ff′(−ff′)=−ff′′
なので K=Rrθθr/(grrgθθ)=−ff′′/f2=−f′′/f。f=sinr,r,sinhr でそれぞれ K=1,0,−1 であり、単位球面の極座標、平面の極座標、例 1.29 の双曲平面の極座標と合う。
問題 4.2 ★ 単位球面の積 S2×S2 と S2×R について、断面曲率のとりうる値の範囲、リッチ曲率、スカラー曲率を求めよ。
解答
積では曲率が成分ごとに分かれ、R(X1+X2,Y1+Y2)(Z1+Z2)=R(1)(X1,Y1)Z1+R(2)(X2,Y2)Z2。S2×S2 で単位ベクトル X=cosα u1+sinα u2, Y=cosβ v1+sinβ v2(ui,vi は第 i 成分の単位ベクトル、ui⊥vi とできる)とすると R(X,Y,Y,X)=cos2αcos2β+sin2αsin2β∈[0,1] で、K は [0,1] の値をとる(接平面 TpS2 で 1、混合平面で 0)。Ric=g, Scal=4。S2×R では K∈[0,1], Ric=gS2⊕0≥0, Scal=2。
問題 4.3 ★★ g=e2f(dx2+dy2) のガウス曲率が K=−e−2fΔ0f(Δ0=∂x2+∂y2)であることを示せ。これを立体射影による球面の計量 4∣du∣2/(1+∣u∣2)2、ポアンカレ円板、上半平面に適用せよ。
解答
演習問題 2.3 より Γijk=δikfj+δjkfi−δijfk(fi=∂if):Γ111=f1, Γ121=f2, Γ221=−f1, Γ112=−f2, Γ122=f1, Γ222=f2。(4.1) より
R1221=−f11−f22+(Γ221Γ111+Γ222Γ121)−(Γ121Γ211+Γ122Γ221)=−Δ0f+(f22−f12)−(f22−f12)=−Δ0f
なので K=e2fR1221/e4f=−e−2fΔ0f。2 次元で Δ0log(1±∣u∣2)=±4/(1±∣u∣2)2(動径関数の公式 Δ0=∂s2+s−1∂s で計算)なので、f=log2−log(1+∣u∣2) では K=4(1+∣u∣2)2⋅(1+∣u∣2)24=1、f=log2−log(1−∣u∣2) では K=−1。上半平面は f=−logy, Δ0f=1/y2 で K=−y2/y2=−1。
問題 4.4 ★★ 演習問題 2.6 の両側不変計量について、左不変な X,Y,Z に対し R(X,Y)Z=−41[[X,Y],Z] および K(X,Y)=41∣[X,Y]∣2/∣X∧Y∣2≥0 を示せ。
解答
∇XY=21[X,Y] と、[X,Y] も左不変であることから
R(X,Y)Z=41[X,[Y,Z]]−41[Y,[X,Z]]−21[[X,Y],Z]=41[[X,Y],Z]−21[[X,Y],Z]=−41[[X,Y],Z]
(ヤコビ恒等式 [X,[Y,Z]]−[Y,[X,Z]]=[[X,Y],Z])。ad 不変性 ⟨[U,Y],X⟩=−⟨Y,[U,X]⟩ を U=[X,Y] に使うと ⟨[[X,Y],Y],X⟩=−⟨Y,[[X,Y],X]⟩=−∣[X,Y]∣2(最後は再び ad 不変性を [[X,Y],X] に使い ⟨Y,[[X,Y],X]⟩=⟨[X,Y],[X,Y]⟩ を得る)。よって ⟨R(X,Y)Y,X⟩=41∣[X,Y]∣2。例えば SU(2)≅S3 の両側不変計量は正の定曲率である。
問題 4.5 ★★ 3 次元リーマン多様体では、正規直交基底 e1,e2,e3 について K(e1,e2)=21(Ric(e1,e1)+Ric(e2,e2)−Ric(e3,e3)) が成り立つことを示し、3 次元の連結なアインシュタイン多様体は定曲率であることを導け。
解答
Kij:=K(ei,ej) とすると Ric(e1,e1)=K12+K13, Ric(e2,e2)=K12+K23, Ric(e3,e3)=K13+K23 なので主張が従う。Ric=λg なら任意の平面(ある正規直交基底の e1,e2 で張られる)の断面曲率は λ/2 である。λ は定数なので定曲率 λ/2(シューアの補題を使うまでもない)。
問題 4.6 ★★ Mn⊂Rn+1 (n≥2) をコンパクトな超曲面とする。原点から最も遠い点 p では、すべての断面曲率が 1/∣p∣2 以上であることを示せ。特に平坦トーラス Tn は Rn+1 の超曲面として等長的に埋め込めないことを導け。
解答
R=∣p∣ とする。p は ∣x∣2 の M 上の最大点なので p⊥TpM、つまり p は法ベクトルである。p を通る M 内の速さ 1 の曲線 c について 0≥dt2d2∣c∣2=2∣c˙∣2+2⟨c¨,p⟩ で、⟨c¨,p⟩=⟨II(c˙,c˙),p⟩(ガウスの公式の法成分)。N=−p/R とすると h(v,v)=⟨II(v,v),N⟩≥1/R(単位ベクトル v)。よって任意の平面 σ で h∣σ の g に関する固有値は 1/R 以上で、ガウスの方程式より K(σ)=det(h∣σ)≥1/R2。平坦トーラスは K≡0 なのでこれと矛盾する。
問題 4.7 ★★★ V を n 次元内積空間とする。代数的曲率テンソル全体の空間の次元が n2(n2−1)/12 であることを示せ。
解答
ヒント. (a)(b)(d) を満たす 4 重線形形式は Λ2V 上の対称双線形形式と同じものであり、その空間 S2(Λ2V) の次元は N(N+1)/2(N=(2n))。ビアンキ写像 b(T)(X,Y,Z,W)=T(X,Y,Z,W)+T(Y,Z,X,W)+T(Z,X,Y,W) は S2(Λ2V) を Λ4V∗ に写し(b(T) が交代的であることを確かめる)、Λ4V∗⊂S2(Λ2V) 上では 3 倍写像なので全射である。代数的曲率テンソルの空間は kerb なので、次元は N(N+1)/2−(4n)。これを展開すると n2(n2−1)/12 になる(n=4 で 21−1=20、n=5 で 55−5=50 と一致する)。