この章の目標
- 対称式の基本定理とニュートンの恒等式を証明し、根の対称式を係数で表せるようになる
- 判別式を定義し、2 次式・3 次式の判別式の公式を導く
- 終結式の根による表示と共通根の判定を証明し、消去法に使える
- 判別式と 3 次分解式で、3 次式・4 次式のガロア群を係数の計算から決定できる
前提:第9章、02-linear-algebra 第4章(ヴァンデルモンドの行列式、余因子展開、可換環上の行列式)。10.9 節は21-elliptic-curves 第1章への橋渡しである。
2 次方程式 ax2+bx+c=0 が重根をもつかどうかは、根を求めなくても b2−4ac=a2(α1−α2)2 でわかる。右辺は根の入れかえで変わらない。「根について対称な式は係数で書ける」ことを保証するのが対称式の基本定理で、第9章では定理 9.28 の後でその証明を省略した。本章ではこれを証明し、重根を判定する判別式と、共通根を判定し変数を消去する終結式を導く。判別式と 3 次分解式を使うと、3 次式・4 次式のガロア群は係数の計算だけで決まる。
本章では A は可換環、K は体を表す。
10.1 対称式の基本定理
σ∈Sn に対し、ti↦tσ(i) で定まる A[t1,…,tn] の A 上の環準同型(第5章 定理 5.27)を f↦σf と書く。これは Sn の作用である。
定義 10.1(対称式, symmetric polynomial)すべての σ∈Sn について σf=f となる f を対称式という。1≤k≤n に対し sk=∑i1<⋯<ikti1⋯tik を基本対称式 (elementary symmetric polynomial) といい、s0=1、k>n なら sk=0 とする。pk=t1k+⋯+tnk(p0=n)を冪和 (power sum) という。
展開すれば
i=1∏n(x−ti)=xn−s1xn−1+s2xn−2−⋯+(−1)nsn(1)
なので、f=anxn+⋯+a0∈K[x](an=0)が分解体で an∏i(x−αi) と分解すれば sk(α1,…,αn)=(−1)kan−k/an である(解と係数の関係)。
単項式 ta=t1a1⋯tnan に辞書式順序 (lexicographic order) を入れる:a−b の 0 でない最初の成分が正のとき ta>tb。これは全順序で、ta>tb なら tatc>tbtc。f=0 に現れる最大の単項式を先頭単項式、その係数を先頭係数という。順序が積と両立するので、先頭係数の積が 0 でなければ、積の先頭単項式・先頭係数はそれぞれの積である。
補題 10.2
- s1k1⋯snkn の先頭単項式は t1k1+⋯+knt2k2+⋯+kn⋯tnkn で、先頭係数は 1 である。
- 対称式 f=0 の先頭単項式を ta とすると a1≥a2≥⋯≥an。
証明. (1) sk の先頭単項式は t1⋯tk(係数 1)。(2) ai<ai+1 なら、互換 (i i+1) で f は不変なので、ti,ti+1 の指数を入れかえた単項式も f に現れるが、それは ta より大きい。□
定理 10.3(対称式の基本定理, fundamental theorem of symmetric polynomials)対称式 f∈A[t1,…,tn] に対し、f=g(s1,…,sn) となる g∈A[y1,…,yn] がただ一つ存在する。さらに f の t1 についての次数が d 以下なら、g の各単項式 y1k1⋯ynkn は k1+⋯+kn≤d をみたす。
証明. 存在:f=0 の先頭単項式を ta、先頭係数を c とし、ki=ai−ai+1≥0(an+1=0。補題 10.2(2))とおく。補題 10.2(1) より f1=f−cs1k1⋯snkn は 0 か、先頭単項式が ta より小さい対称式である。s1k1⋯snkn は全次数 a1+⋯+an の斉次式で、t1 についての次数は k1+⋯+kn=a1≤d なので、f1 の全次数は degf 以下、t1 についての次数は d 以下である。全次数 degf 以下の単項式は有限個なので、これを繰り返すと有限回で 0 に達する。
一意性:先頭単項式の指数 a から ki=ai−ai+1 で k が復元できるので、相異なる k に対する sk=s1k1⋯snkn の先頭単項式は相異なる。g=∑ckyk=0 の項のうち sk の先頭単項式が最大のものは g(s) の他の項に現れないので、g(s)=0。□
一意性は、s1,…,sn が A 上代数的に独立であること(第9章 定理 9.28 の後で用いた事実)にほかならない。
例 10.4 n=3, f=∑i=jti2tj の先頭単項式は t12t2 で、f−s1s2=−3t1t2t3 より f=s1s2−3s3。
系 10.5 f=anxn+⋯+a0∈K[x] の根を重複度込みで α1,…,αn とし、h∈K[t1,…,tn] を対称式とすると、h(α1,…,αn) は an−1/an,…,a0/an の K 係数多項式であり、K に属する。
証明. h=g(s1,…,sn)(定理 10.3)に sk(α)=(−1)kan−k/an を代入する。□
10.2 ニュートンの恒等式
定理 10.6(ニュートンの恒等式, Newton's identities)A[t1,…,tn] において、すべての k≥1 について
pk−s1pk−1+s2pk−2−⋯+(−1)k−1sk−1p1+(−1)kksk=0
証明. (1) の左辺を F(x) とする。k≥n なら、∑itik−nF(ti)=0 を (1) の右辺で展開すると ∑j=0n(−1)jsjpk−j=0 で、これが主張である(k=n のとき j=n の項は (−1)nsnp0=(−1)nnsn)。k<n なら、左辺 P は全次数 k の斉次式で、各単項式に現れる変数は k 個以下である。k 個の変数を選んで残りに 0 を代入すると、sj,pj は k 変数のものに移るので、k=n の場合より P の像は 0。P の各単項式はその変数を含む代入で消えずに残るので、P=0。□
はじめのいくつかは p1=s1, p2=s12−2s2, p3=s13−3s1s2+3s3。k! が A で可逆なら、逆に sk は p1,…,pk の多項式で書ける(s2=(p12−p2)/2 など)が、正標数では成り立たない(F2 で (t1,t2)=(0,0),(1,1) は冪和が等しく s2 が異なる)。
例 10.7 x3−x−1 の根では s1=0, s2=−1, s3=1 なので、p0,p1,p2,p3=3,0,2,3 で、k>3 では pk=pk−2+pk−3。pk は 3,0,2,3,2,5,5,7,10,12,17,…(ペラン数列)である。
10.3 判別式
定義 10.8(判別式, discriminant)f=anxn+⋯+a0∈K[x](n≥1, an=0)の分解体における根を重複度込みで α1,…,αn とするとき、D(f)=an2n−2∏i<j(αi−αj)2 を判別式という(n=1 なら D(f)=1)。
補足
判別式の流儀は本によって異なる。本書の D(f) は PARI/GP の poldisc と同じ正規化である。モニック多項式に対してだけ定義する本や、Res(f,f′) を(符号と an 倍を除いて)判別式とよぶ本もある(定理 10.18)。
命題 10.9
- D(f)=0 ⟺ f は重根をもつ ⟺ gcd(f,f′)=1。
- 全次数 2n−2 の斉次な Δn∈Z[A0,…,An] で、任意の体 K 上の任意の n 次式 f=∑aixi について D(f)=Δn(a0,…,an) となるものがある。特に D(f)∈K。
- c∈K×, h∈K について D(cf)=c2n−2D(f), D(f(x+h))=D(f)。
証明. (1) 定義と第8章 命題 8.36(1) による。(2) ∏i<j(ti−tj)2 は t1 について 2n−2 次の対称式なので、定理 10.3 より、各単項式が ∑ki≤2n−2 をみたす g∈Z[y] によって g(s1,…,sn) と書ける。Δn=An2n−2g(−An−1/An,…,(−1)nA0/An) とおくと、y1k1⋯ynkn は ±An2n−2−∑kiAn−1k1⋯A0kn に移るので、Δn は全次数 2n−2 の斉次な整数係数多項式で、解と係数の関係より D(f)=Δn(a0,…,an)。(3) f(x+h) の根は αi−h である。□
(2) により、Δn についての恒等式は、係数を不定元とする体 Q(A0,…,An) 上で示せばすべての体で成り立つ。
命題 10.10 モニックな f の根の冪和を pk とすると D(f)=det(pi+j−2)1≤i,j≤n。
証明. V=(αij−1)i,j とすると detV=∏i<j(αj−αi)(ヴァンデルモンドの行列式。02-linear-algebra 第4章 定理 4.33)で、tVV=(pi+j−2) なので det(tVV)=(detV)2=D(f)。□
定理 10.11(2 次式・3 次式の判別式)
- D(ax2+bx+c)=b2−4ac。
- D(x3+px+q)=−4p3−27q2。
- D(ax3+bx2+cx+d)=b2c2−4ac3−4b3d−27a2d2+18abcd。
証明. (1) a2((α1+α2)2−4α1α2)=a2(b2/a2−4c/a)。(2) s1=0, s2=p, s3=−q なので、根の冪和を Pk と書くと、定理 10.6 より P0,…,P4=3,0,−2p,−3q,2p2。命題 10.10 で第 1 行について展開すると
D=det30−2p0−2p−3q−2p−3q2p2=3(−4p3−9q2)+(−2p)(−4p2)=−4p3−27q2
(環の演算だけなので標数によらない)。(3) 命題 10.9(2) の後の注意により Q(a,b,c,d) 上で示せばよい。D(f)=a4D(x3+Bx2+Cx+E)(B=b/a など)で、x を x−B/3 に置き換えると x3+Px+Q(P=C−B2/3, Q=E−BC/3+2B3/27)になるので、(2) より D(f)=a4(−4P3−27Q2)。これを展開すればよい。□
10.4 終結式
定義 10.12(シルベスター行列・終結式)n,m≥0, n+m≥1、f=anxn+⋯+a0, g=bmxm+⋯+b0∈A[x] とする(an,bm は 0 でもよい。n,m を形式的な次数という)。xm−1f,…,f,xn−1g,…,g の xm+n−1,…,x,1 についての係数を行として並べた m+n 次正方行列をシルベスター行列 (Sylvester matrix) Syl(f,g) といい、Res(f,g)=detSyl(f,g) を終結式 (resultant) という。次数を明示するときは Resn,m と書く。
たとえば n=2, m=3 では
Syl(f,g)=a200b30a1a20b2b3a0a1a2b1b20a0a1b0b100a00b0
m=0 なら Res(f,b0)=b0n、n=0 なら Res(a0,g)=a0m。可換環上でも行列式の基本性質と余因子展開は成り立つ(02-linear-algebra 第4章 注意 4.22)。
補題 10.13 f,g の形式的な次数を n,m とする。
- Resm,n(g,f)=(−1)nmResn,m(f,g)。
- degh≤m−n ならば Resn,m(f,g+hf)=Resn,m(f,g)。
- m≥1, bm=0 ならば Resn,m(f,g)=anResn,m−1(f,g)。
証明. (1) g の n 行を前に移すには行の入れかえが nm 回要る。(2) deg(xn−jh)≤m−1 なので xn−jhf は f の行の一次結合であり、その分を g の行に加えても行列式は変わらない。(3) 第 1 列 (an,0,…,0) で展開すると、残る小行列は Syln,m−1(f,g)。□
定理 10.14(根による表示)f=an∏i=1n(x−αi)∈K[x](an=0)、g∈K[x] の形式的な次数を m とすると
Res(f,g)=anmi=1∏ng(αi)
である。さらに g=bm∏j=1m(x−βj)(bm=0)なら
Res(f,g)=anmbmni,j∏(αi−βj)=(−1)nmbmnj=1∏mf(βj)
証明. 後半は前半と g(αi)=bm∏j(αi−βj), f(βj)=an∏i(βj−αi) から従う。前半を N=n+m についての帰納法で示す(fg の分解体で計算する)。n=0 なら両辺は a0m、m=0 なら b0n。n,m≥1 とする。
(i) bm=0 なら、補題 10.13(3) と帰納法の仮定より Resn,m(f,g)=an⋅anm−1∏ig(αi)。
(ii) bm=0, m≥n なら、g=hf+r(degh=m−n, degr<n)と割ると、補題 10.13(2) より Resn,m(f,g)=Resn,m(f,r)。r の xm の係数は 0 なので、(i) よりこれは anm∏ir(αi) で、r(αi)=g(αi)。
(iii) bm=0, m<n なら、補題 10.13(1) より Resn,m(f,g)=(−1)nmResm,n(g,f) で、右辺の終結式は f,g の役割を入れかえた (ii) の場合なので bmn∏jf(βj) に等しい。よって Resn,m(f,g)=(−1)nmbmn∏jf(βj)=anmbmn∏i,j(αi−βj)=anm∏ig(αi)。□
系 10.15(共通根の判定)f,g∈K[x] の形式的な次数を n,m とし、an=0 または bm=0 とする。次は同値である: (1) Res(f,g)=0、(2) f,g は K のある拡大体に共通根をもつ、(3) gcd(f,g)=1。
証明. 補題 10.13(1) より an=0 としてよい。n=0 なら Res=a0m=0 で、(2)(3) も成り立たない。n≥1 なら定理 10.14 より (1) ⟺ ある i で g(αi)=0 ⟺ (2)。(2)⇒(3) は共通根の最小多項式が両方を割ることから、(3)⇒(2) は公約因子が拡大体に根をもつこと(第8章 定理 8.21)から従う。□
an=bm=0 なら第 1 列が 0 なので Res=0 である。
命題 10.16(Res(f,g)∈(f,g))f,g∈A[x] の形式的な次数を n,m とすると、degu≤m−1, degv≤n−1 の u,v∈A[x] で uf+vg=Res(f,g) となるものがある。
証明. Syl(f,g) を A[x] 上の行列とみて、第 k 列(k<m+n)の xm+n−k 倍を最後の列に加えると、行列式は変わらず、最後の列は (xm−1f,…,f,xn−1g,…,g) になる。最後の列で余因子展開すると、余因子は A の元なので主張を得る。□
例 10.17 定理 10.14 より Res(x2−2,x3−3)=∏α=±2(α3−3)=(22−3)(−22−3)=1。命題 10.16 の u,v を連立一次方程式で求めると、Z[x] で (2x2+3x+4)(x2−2)−(2x+3)(x3−3)=1。よってどの素数 p でも、法 p で両者は共通根をもたない。
10.5 判別式と終結式
定理 10.18 f∈K[x] を最高次係数 an の n 次式(n≥1)とし、f′ の形式的な次数を n−1 とすると
Res(f,f′)=(−1)n(n−1)/2anD(f)
特に f がモニックなら D(f)=(−1)n(n−1)/2∏i=1nf′(αi)。
証明. 定理 10.14 の前半(f′ の xn−1 の係数 nan が 0 となる標数でも使える)より Res(f,f′)=ann−1∏if′(αi)。積の微分により f′(αi)=an∏j=i(αi−αj) で、i<j ごとに (αi−αj)(αj−αi)=−(αi−αj)2 なので、∏if′(αi)=(−1)n(n−1)/2ann∏i<j(αi−αj)2。□
例:Res(ax2+bx+c,2ax+b)=−a(b2−4ac)。
例 10.19 D(xn+a)=(−1)n(n−1)/2nnan−1。根の積は (−1)na なので ∏if′(αi)=nn(∏iαi)n−1=nnan−1 による。たとえば D(x3−2)=−108, D(x4−2)=−2048, D(x4+1)=256。
命題 10.20 g,h∈K[x] を 1 次以上とすると D(gh)=D(g)D(h)Res(g,h)2。
証明. g,h の次数・最高次係数・根を k,a,αi と l,b,βj とする。gh の根の差を α どうし・β どうし・α と β に分け、(ab)2(k+l)−2=a2k−2b2l−2(albk)2 と定理 10.14 を使えばよい。□
10.6 消去法
F,G∈K[x,y] を K[x] 上の y の多項式とみて終結式 Resy(F,G)∈K[x] をつくることは、F=G=0 から y を消去する操作である。
定理 10.21 F=∑i≤nfi(x)yi, G=∑j≤mgj(x)yj(fn,gm=0)、R=Resy(F,G) とし、L を K の拡大体とする。
- (x0,y0)∈L2 が F=G=0 の解なら R(x0)=0。
- R(x0)=0, (fn(x0),gm(x0))=(0,0) なら、F(x0,y0)=G(x0,y0)=0 となる y0 が L の拡大体に存在する。
証明. (1) 命題 10.16 より R=uF+vG である。(2) 代入と行列式は交換するので R(x0)=Resn,m(F(x0,y),G(x0,y)) で、系 10.15 を使う。□
例 10.22 x2+y2=5, xy=2 では、K(x) 上で xy−2=x(y−2/x) と分解して定理 10.14 の後半を使うと、Resy(y2+x2−5,xy−2)=x2((2/x)2+x2−5)=(x2−1)(x2−4)。y2 の係数は 1 なので各 x0=±1,±2 に解があり、(1,2), (−1,−2), (2,1), (−2,−1) を得る。
例 10.23(陰関数表示)x=t2, y=t3 から t を消去すると
Rest(t2−x,t3−y)=(xx−y)(−xx−y)=y2−x3
t2−x はモニックなので定理 10.21(2) と同じ議論で逆も成り立ち、この曲線は(代数閉体上で)原点に尖点 (cusp) をもつ 3 次曲線 y2=x3 である。
10.7 判別式とガロア群
charK=2、f∈K[x] を分離的な n 次式、L を分解体、α1,…,αn を根、G=Gal(f)⊂Sn とし(第9章 注意 9.8)、δ=∏i<j(αi−αj) とおく。D(f)=(ann−1δ)2 である。
定理 10.25 (1) σ∈G について σ(δ)=sgn(σ)δ。(2) G⊂An ⟺ D(f) は K の元の平方。(3) G∩An の固定体は K(D(f))。
証明. (1) σ(δ)=∏i<j(ασ(i)−ασ(j)) の因子は δ の因子を符号を除いて 1 回ずつ尽くし、−1 倍になるのは転倒 σ(i)>σ(j) のときなので、σ(δ)=(−1)ℓ(σ)δ(02-linear-algebra 第4章 定義 4.5)。(2) δ=0(分離的)かつ δ=−δ(標数 =2)なので、σ(δ)=δ ⟺ σ は偶置換。よって δ∈LG=K ⟺ G⊂An。D(f) の平方根は ±ann−1δ である。(3) G∩An=Gal(L/K(δ))(第9章 注意 9.10)。□
定理 10.26(3 次式のガロア群)charK=2、f を分離的な 3 次式とする。f が既約なら、D(f) が K で平方のとき Gal(f)=A3≅Z/3Z、そうでないとき S3 である。f が 1 次式と既約 2 次式の積なら Gal(f)≅Z/2Z(互換)、1 次式の積なら 1 である。
証明. f が既約なら 3=[K(α1):K] は ∣G∣ を割るので、G=A3 または S3 で、定理 10.25 で決まる。残りは分解体の次数が 2, 1 であることによる。□
例 10.27(PARI/GP の polgalois と一致)x3−2 は D=−108 で S3(第9章 例 9.12)。x3−3x+1 は D=81=92 で A3(第9章 問題 9.3)。x3+x2−2x−1(2cos(2π/7) の最小多項式。第9章 例 9.19)は定理 10.11(3) より D=49 で A3。x3−x−1 は D=−23 で S3。既約性はいずれも有理根がないことからわかる(第6章 例 6.28(3))。
カルダノの公式の解釈. 標数 0 で f=x3+px+q を既約、ω を 1 の原始 3 乗根とする。ラグランジュの分解式 u=α1+ωα2+ω2α3, v=α1+ω2α2+ωα3 について、α1+α2+α3=0 を使って展開すると
uv=−3p,u3+v3=−27q,u3−v3=3−3 δ,α1=3u+v
(−3=ω−ω2)。u=v=0 なら α1=0 となり既約性に反するので、必要なら α2,α3 を入れかえて u=0 とする。すると v=−3p/u で、3α2=ω2u+ωv, 3α3=ωu+ω2v なので L(ω)=K(ω,u)。(1 2 3) は u を ω2u に写すので u3∈K(ω,D) で、冪根拡大の列 K⊂K(ω)⊂K(ω,D)⊂K(ω,D,u)=L(ω) を得る(最後の段はクンマー拡大。第9章 定理 9.21)。[L(ω):K(ω)]=6 なら、後の 2 段は S3⊃A3⊃{e} に対応する(x3−2 では D=6−3 なので K(ω)=K(D) となり、中央の段は自明)。(u/3)3=−q/2±−D/108(−D/108=q2/4+p3/27)と (u/3)(v/3)=−p/3 からカルダノの公式
α1=3−2q+4q2+27p3+3−2q−4q2+27p3
(立方根は積が −p/3 となるように選ぶ)を得る。根が 3 つとも実数なら D>0 で根号の中は負になり、x3−3x+1 では α1=3e2πi/3+3e−2πi/3=2cos40∘ と虚数を経由する(還元不能の場合, casus irreducibilis。既約なら避けられないことが知られている。主張のみ)。
10.8 4 次式:3 次分解式とガロア群
charK=2、f=x4+ax3+bx2+cx+d∈K[x] を分離的とし、根から
θ1=α1α2+α3α4,θ2=α1α3+α2α4,θ3=α1α4+α2α3
をつくって、R(x)=(x−θ1)(x−θ2)(x−θ3) を3 次分解式 (resolvent cubic) という((α1+α2)(α3+α4) などを使う流儀もある)。V={e,(1 2)(3 4),(1 3)(2 4),(1 4)(2 3)}(クラインの四元群。V4 とも書く)、C4 を位数 4 の巡回群、D4 を位数 8 の二面体群とする。
命題 10.28
- R(x)=x3−bx2+(ac−4d)x−(a2d−4bd+c2)∈K[x]。
- θ1−θ2=(α1−α4)(α2−α3), θ1−θ3=(α1−α3)(α2−α4), θ2−θ3=(α1−α2)(α3−α4)。よって D(R)=D(f) で、θi は相異なる。
- S4 は {θ1,θ2,θ3} を置換し、その核は V、θ1 の固定部分群は D4(1)={e,(1 2),(3 4),(1 2)(3 4),(1 3)(2 4),(1 4)(2 3),(1 3 2 4),(1 4 2 3)}≅D4。
証明. (1) ∑θi=s2, θ1θ2+θ1θ3+θ2θ3=s1s3−4s4, θ1θ2θ3=s12s4+s32−4s2s4(展開して確かめられる)に s1=−a, s2=b, s3=−c, s4=d を代入する。(2) たとえば θ1−θ3=α1(α2−α4)−α3(α2−α4)。(3) θk は {1,2,3,4} を 2 元ずつに分ける 3 つの組分けに対応し、S4 は組分けを置換する。V の元はすべての組分けを保ち、互換と長さ 3, 4 の巡回置換はどれかを動かすので核は V で、像は位数 6 の S3 全体。θ1 の固定部分群は位数 8 で、上の 8 元は組分け {1,2}∪{3,4} を保つ。□
系 10.29(4 次式の判別式)D(x4+px2+qx+r)=16p4r−4p3q2−128p2r2+144pq2r−27q4+256r3。
証明. D(f)=D(R)、R=x3−px2−4rx+4pr−q2 に定理 10.11(3) を使って展開する。□
定理 10.30(4 次式のガロア群)charK=2、f を既約で分離的な 4 次式、G=Gal(f)、D=D(f) とする。
| K 上の R |
D |
G |
| 既約 |
平方でない |
S4 |
| 既約 |
平方 |
A4 |
| 根をちょうど 1 つもつ |
平方でない |
D4 または C4 |
| 1 次式の積 |
平方 |
V |
3 行目で R の K における根を θ とすると、G=C4 ⟺ x2−θx+d と x2+ax+(b−θ) がともに K(D) 上で 1 次式の積に分解する(カッペ–ウォレンの判定法, Kappe–Warren)。
証明. M=K(θ1,θ2,θ3) とすると、命題 10.28(3) より Gal(L/M)=G∩V で、Gal(M/K) は G の S4/V≅S3 における像 G と同型である。G は推移的なので 4∣∣G∣。
- R が既約 ⟺ 3∣∣G∣ で、このとき 12∣∣G∣。位数 12 の部分群 H は指数 2 なので g2∈H(すべての g)で、長さ 3 の巡回置換 c=(c2)2 をすべて含むから A4 に等しい(第4章 命題 4.20(3))。よって定理 10.25 より、D が平方なら A4、そうでなければ S4。
- R が 1 次式の積 ⟺ G⊂V で、4∣∣G∣ より G=V⊂A4。
- R の根がちょうど 1 つ(番号をつけかえて θ1)なら ∣G∣=2, G⊂D4(1)。D4(1) の位数 4 の部分群は C4=⟨(1 3 2 4)⟩、V、推移的でない {e,(1 2),(3 4),(1 2)(3 4)} なので、G⊂V(G=1)と合わせて G=D4(1) または C4 で、どちらも奇置換を含む。
カッペ–ウォレン:K′=K(D) とすると Gal(L/K′)=G∩A4 は、G=D4(1) なら V、G=C4 なら {e,(1 2)(3 4)}。α1α2,α3α4 は x2−θ1x+d の根、α1+α2,α3+α4 は x2+ax+(b−θ1) の根である。G=C4 ならこれらは (1 2)(3 4) で固定されるので K′ に属する。G=D4(1) で両方が K′ 上で分解すれば、根は (1 3)(2 4) で固定され α1α2=α3α4, α1+α2=α3+α4 となって、{α1,α2}={α3,α4} に矛盾する。□
S4 の推移的部分群の分類は第12章(定理 12.4)で扱う。第12章では D4=⟨(1 2 3 4),(2 4)⟩, C4=⟨(1 2 3 4)⟩ をとる。これは組分け {1,3}∪{2,4}(θ2 に対応する)を保つ群とその巡回部分群で、上の D4(1), ⟨(1 3 2 4)⟩ を (2 3) で共役にしたもの(根の番号 2 と 3 の入れかえ)である。実際、第9章 例 9.13 の番号づけでは、x4−2 の 3 次分解式の有理根は θ2=α1α3+α2α4=0 である。
系 10.31(複二次式)charK=2、f=x4+px2+r を既約とする。r が K で平方なら G=V、r(p2−4r) が平方なら G=C4、それ以外なら G=D4。
証明. R=(x−p)(x2−4r), D=16r(p2−4r)2 で、p2−4r は平方でない(平方なら f=(x2−u)(x2−v), u,v∈K)。r が平方なら G=V。そうでなければ θ=p、K(D)=K(r) で、2 つの 2 次式は x2−px+r と x2。(y+zr)2=y2+rz2+2yzr(y,z∈K)より、λ∈K× が K(r) で平方 ⟺ λ か λr が K で平方なので、G=C4 ⟺ r(p2−4r) が平方。□
例 10.32(すべて polgalois と一致)
- x4−2:r(p2−4r)=−16 は平方でないので D4(第9章 例 9.13)。R=x(x2+8), D=−2048。
- x4+1:r=1 は平方なので V(分解体 Q(ζ8))。D=256=162。
- x4−4x2+2(アイゼンシュタイン):r(p2−4r)=16 なので C4、D=211。実際、根 ±2±2 はすべて Q(2+2) に属する。
- x4+8x+12=(x2−2)2+4(x+1)2+4 は実根をもたず、法 5 で (x+1)(x3+4x2+x+2)(3 次因子は F5 に根をもたない)と分解するので 2 次式の積にもならず、既約である。R=x3−48x−64 は法 5 で根をもたないので既約(第6章 定理 6.27)で、D=331776=5762。よって A4。
- Φ5=x4+x3+x2+x+1:R=(x−2)(x2+x−1), θ=2, D=125。x2−2x+1 と x2+x−1(判別式 5)は Q(5) 上で分解するので C4。一方 x4+3x+3(アイゼンシュタイン、p=3)では R=(x+3)(x2−3x−3), θ=−3, D=4725=33⋅52⋅7 で、x2+3x+3 の判別式 −3 は Q(21) で平方でないので D4。
フェラーリの方法. f=x4+px2+qx+r=0 は (x2+θ/2)2=(θ−p)x2−qx+(θ2/4−r) と書ける。右辺が 1 次式の平方になる条件 q2=(θ−p)(θ2−4r) は R(θ)=0 と同値なので、3 次分解式の根を 1 つカルダノの公式で求めれば、f は 2 つの 2 次式に分かれる。これは可解列 S4⊃A4⊃V⊃{e,(1 2)(3 4)}⊃{e}(第4章 例 4.17(2) の列を細かくしたもの)を体の側から見たものである。
10.9 楕円曲線の判別式への橋渡し
charK=2、E:y2=f(x)=x3+Ax+B とする。点 (x0,y0) で偏微分 2y と f′(x) がともに 0 になる(特異点)のは y0=0, f(x0)=f′(x0)=0 のときなので、E が特異点をもつ ⟺ D(f)=−4A3−27B2=0。21-elliptic-curves 第1章では判別式を Δ=−16(4A3+27B2)=16D(f) と定める。
例 10.33 y2=x3−x は Δ=64、y2=x3+17 は Δ=−124848=−24⋅33⋅172(PARI/GP の ellinit と一致)で、後者は素数 p≥5, p=17 を法とする還元も非特異である(問題 10.7 と同じ理由)。y2=x3(例 10.23)や y2=x2(x+1)(問題 10.4)は D=0 の特異 3 次曲線である。
まとめ
- 対称式は基本対称式の多項式としてただ一通りに書ける。
- 冪和と基本対称式はニュートンの恒等式で結ばれ、モニック多項式では D(f)=det(pi+j−2)。
- D(f)=an2n−2∏i<j(αi−αj)2 は係数の整数係数多項式で、D(x3+px+q)=−4p3−27q2。
- 終結式 Res(f,g)=am∏g(αi)=ambn∏(αi−βj) は共通根を判定し、(f,g) に属し、変数の消去に使える。Res(f,f′)=(−1)n(n−1)/2anD(f)。
- 標数 =2 で Gal(f)⊂An ⟺ D(f) が平方。既約 4 次式のガロア群は 3 次分解式と D で決まり、D4 と C4 はカッペ–ウォレンの判定法で区別する。
- y2=x3+Ax+B が非特異 ⟺ 4A3+27B2=0。
演習問題
問題 10.1 ★ α,β,γ を x3−2x−5 の根とする。α2+β2+γ2, α3+β3+γ3, α4+β4+γ4 と判別式を求めよ。
解答
s1=0, s2=−2, s3=5。定理 10.6 より p2=−2s2=4, p3=3s3=15, p4=−s2p2+s3p1=8。定理 10.11(2) より D=−4(−2)3−27⋅25=−643。
問題 10.2 ★ f=x2+1, g=x2+x+1 の終結式をシルベスター行列と定理 10.14 の両方で計算し、uf+vg=1 となる u,v∈Z[x] を求めよ。
解答
Res(f,g)=det1010011110110101=1
根 ±i では g(α)=α なので Res=i⋅(−i)=1。g−f=x より 1=f−x2=f−x(g−f)=(x+1)f−xg。
問題 10.3 ★ カルダノの公式で x3−6x−9=0 の実根を求め、この多項式の Q 上のガロア群と判別式を求めよ。
解答
q2/4+p3/27=81/4−8=49/4 より、実根は 39/2+7/2+39/2−7/2=2+1=3(積 2=−p/3)。x3−6x−9=(x−3)(x2+3x+3) で、2 次因子は判別式 −3 で既約なので、ガロア群は Z/2Z。D=−4(−6)3−27⋅81=−1323=−33⋅72 は平方でない(互換は奇置換)。
問題 10.4 ★★ x=t2−1, y=t3−t で表される曲線の方程式を終結式で求め、原点で曲線が交わる 2 本の接線を求めよ。
解答
t2−1−x の根は t=±x+1 で、そこで t3−t=t(t2−1)=tx なので
Rest(t2−1−x,t3−t−y)=(xx+1−y)(−xx+1−y)=y2−x2(x+1)
で、曲線は y2=x3+x2(定理 10.21)。原点での最低次の項は y2−x2=(y−x)(y+x) なので、接線は y=±x である(t=±1 がともに原点に移る)。
問題 10.5 ★★ x3−7x+7 と x3−4x+1 の Q 上のガロア群を求めよ。
解答
x3−7x+7 はアイゼンシュタインの判定法(p=7)で既約で、D=4⋅343−27⋅49=49=72 なので A3。x3−4x+1 は ±1 が根でない(値は −2,4)ので既約で、D=256−27=229 は平方でないので S3。
問題 10.6 ★★ x4+5x2+5, x4−10x2+1, x4−x−1 の Q 上のガロア群を求めよ(x4−10x2+1 の既約性は第8章 例 8.15)。
解答
x4+5x2+5 はアイゼンシュタインの判定法(p=5)で既約で、r=5 は平方でなく r(p2−4r)=25 は平方なので、系 10.31 より C4。x4−10x2+1 は r=1 が平方なので V(第9章 例 9.11 と一致)。x4−x−1 は法 2 で x4+x+1 となり既約(第6章 例 6.28(2))。R=x3+4x−1 は ±1 が根でない(値は 4,−6)ので既約、系 10.29 より D=−27−256=−283 は平方でないので S4。
問題 10.7 ★★ f∈Z[x] をモニック、p を素数とする。f を法 p で還元した f が Fp で重根をもつことと p∣D(f) は同値であることを示せ。x3−2 についてそのような p をすべて求めよ。
解答
Δn は整数係数なので(命題 10.9(2))、D(f)=Δn(a0,…,an) を法 p で還元したものは Δn(a0,…,an)=D(f)(f もモニックで n 次)。よって p∣D(f) ⟺ D(f)=0 ⟺ f が重根をもつ。D(x3−2)=−22⋅33 なので p=2,3 で、実際 F2 で x3、F3 で x3+1=(x+1)3。
問題 10.8 ★★★ p を奇素数とする。例 10.19 と命題 10.20 を使って D(Φp)=(−1)(p−1)/2pp−2 を示し、p∗=(−1)(p−1)/2p とおくと Q(p∗) が Q(ζp) のただ一つの 2 次部分体であることを示せ(第9章 例 9.19 の −7 の一般化)。
解答
例 10.19 より D(xp−1)=(−1)p(p−1)/2pp(−1)p−1=(−1)(p−1)/2pp(p は奇数)。xp−1=(x−1)Φp に命題 10.20 を使うと、Res(x−1,Φp)=Φp(1)=p より D(xp−1)=D(Φp)p2。
G=Gal(Q(ζp)/Q)≅(Z/pZ)× は位数 p−1 の巡回群(第1章 定理 1.44)で、生成元は p−1 個の根を長さ p−1(偶数)の巡回置換で動かす奇置換である。定理 10.25(3) より指数 2 の部分群 G∩Ap−1 の固定体は Q(D(Φp))=Q(p∗)(pp−2=p⋅(p(p−3)/2)2)。巡回群の指数 2 の部分群はただ一つ(第2章 定理 2.23(3))なので、2 次部分体はこれに限る。