この章の目標
- 複素数体上の楕円曲線が複素トーラス C/Λ と同型であること(一意化定理)を、j 関数の全射性から証明できる
- 同種写像が格子の包含 αΛ1⊂Λ2 と対応することを証明し、End(E) が Z か虚二次体の整環であることを導ける
- 類数 1 の 13 個の判別式と j の値を知り、eπ163 がほとんど整数である理由を説明できる
- y2=x3−x の ap を、pmod4 と p=a2+b2 で表せる
- セールの開像定理の主張を述べ、虚数乗法をもつ曲線ではガロア群の像が開でないことを証明できる
- 実周期を算術幾何平均で計算できる
前提:第3章、19 第1章、19 第2章、19 第3章。9.5 節では第4章を、9.4 節では15 第1章と15 第7章を使う。
複素数体の上では、E(C) は格子 Λ による商 C/Λ という具体的な群になる。その結果、等分点・同種写像・自己準同型がすべて「複素数を掛ける」操作で記述され、End(E) は Z か虚二次体の整環という小さな環であることがわかる。
後者の曲線は虚数乗法 (complex multiplication, CM) をもつといい、j 不変量が類体を生成し、eπ163 がほとんど整数になるなど豊かな算術をもつ。最後に、第10章の BSD 予想に現れる周期を算術幾何平均で計算する。
9.1 複素トーラスと楕円曲線
19 第2章の結果を本科目の記法に合わせる。格子 Λ に対し g2=60G4(Λ), g3=140G6(Λ) とおくと、℘′(z)2=4℘(z)3−g2℘(z)−g3(19 第2章 定理 2.9)であり、z↦[℘(z):℘′(z):1] は C/Λ から Y2=4X3−g2X−g3 への双正則写像である(19 第2章 定理 2.14)。短い形 y2=x3+Ax+B に合わせるため y=Y/2 とおく。
定義 9.1 格子 Λ に対し、次の楕円曲線 EΛ と写像 ΦΛ:C/Λ→EΛ(C) を定める。
EΛ:y2=x3−4g2(Λ)x−4g3(Λ),ΦΛ(z)=(℘(z),21℘′(z)) (z∈/Λ),ΦΛ(0)=O
命題 9.2 (1) ΦΛ は双正則写像かつ群の同型である。(2) EΛ の判別式と j 不変量は、格子の Δ(Λ)=g23−27g32 と j(Λ)=1728g23/Δ(Λ)(19 第2章 定義 2.20)に等しい。(3) 不変微分 dx/(2y) は ΦΛ で dz に引き戻される。
証明. (1) ΦΛ は 19 第2章 定理 2.14 の写像と射影変換 [X:Y:Z]↦[X:Y/2:Z] の合成である。この変換は直線を直線に写し O を固定するので、19 第2章 系 2.16 により、C/Λ の加法は「一直線上の 3 点の和が O」で定まる群法則(第2章 定義 2.4・定理 2.10)に移る。(2) A=−g2/4, B=−g3/4 を代入すると ΔE=−16(4A3+27B2)=g23−27g32、j(EΛ)=−1728(4A)3/ΔE=1728g23/(g23−27g32)。(3) dx=℘′(z) dz=2y dz。□
逆向きは g2=−4A, g3=−4B である。PARI/GP の ellinit(...).omega は、この正規化(不変微分 dx/(2y+a1x+a3))での格子の基底を返す。
定理 9.3(一意化定理, uniformization theorem)A,B∈C, 4A3+27B2=0 ならば、g2(Λ)=−4A, g3(Λ)=−4B を満たす格子 Λ がただ 1 つ存在する。したがって C 上の任意の楕円曲線 E はある EΛ と同型で、E(C)≅C/Λ(双正則かつ群の同型)となる。
証明. a=−4A, b=−4B とおくと a3−27b2=−16(4A3+27B2)=0、j(E)=1728a3/(a3−27b2) である。19 第3章の定理 3.24(j は SL2(Z)\H→C の全単射)により j(τ)=j(E) となる τ がある。a0=g2(Λτ), b0=g3(Λτ) とおくと、j の等式の分母を払って a03b2=a3b02。a=μ4a0, b=μ6b0 となる μ∈C× を探す。a=0 なら a0=0(j=0)で μ6=b/b0 ととる。b=0 なら b0=0(j=1728)で μ4=a/a0 ととる。ab=0 なら a0b0=0 で、μ4=a/a0 ととると (b/b0)2=(a/a0)3=μ12 より b=±μ6b0。負号なら μ を iμ に替える。斉次性 g2(αΛ)=α−4g2(Λ), g3(αΛ)=α−6g3(Λ) より Λ=μ−1Λτ が求める格子である(19 第3章 系 3.25 と同じ議論)。一意性:同じ g2,g3 をもつ格子では ℘ のローラン係数がすべて一致し(19 第2章 例 2.12)、格子は ℘ の極の集合だから一致する。標数 0 では任意の楕円曲線は短い形と同型だから(第1章 命題 1.8)、命題 9.2 から残りが従う。□
系 9.4 C 上の楕円曲線の同型類、格子の相似類(Λ∼αΛ)、SL2(Z)\H、C は、EΛ↔Λ, Λτ↔τ, τ↦j(τ) によって一対一に対応する。
証明. j による同型類の分類(第1章 定理 1.15)、19 第1章 系 1.31、19 第3章 定理 3.24 と、j(EΛ)=j(Λ)(命題 9.2)による。□
例 9.5 (1) y2=x3−x は g2=4, g3=0 で、格子は ϖZ[i](19 第2章 例 2.19。ϖ=2.6220575542…)。PARI/GP の omega は [ϖ,−ϖi] を返す。(2) 37a1 :y2+y=x3−x では g2=4, g3=−1, Δ=37(問題 9.1)。PARI/GP の基底 ω1=2.9934586462…, ω2=−2.4513893819…i について、τ=ω1/ω2=1.2211273607…i での ellj の値は 110592/37=j(E) である。
9.2 同種写像と格子の包含
定理 9.6 Λ1,Λ2 を格子とし、Ei=EΛi, Φi=ΦΛi とする。
- α∈C× が αΛ1⊂Λ2 を満たせば、φα(Φ1(z))=Φ2(αz) となる同種写像 φα:E1→E2 がある。
- 0 でない同種写像 φ:E1→E2 は、αΛ1⊂Λ2 を満たすただ 1 つの α によって φ=φα と書ける。
- φα↦α は群の同型 Hom(E1,E2)≅{α∈C∣αΛ1⊂Λ2} で、合成は積に対応する。とくに End(EΛ)≅{α∈C∣αΛ⊂Λ}(環の同型)。
- kerφα≅α−1Λ2/Λ1 であり、degφα=[Λ2:αΛ1]。
証明. 1. αΛ1⊂Λ2 より ℘(αz;Λ2) は Λ1 に関する偶な楕円関数だから、19 第2章 定理 2.11 より有理関数 R で R(℘(z;Λ1)) と書ける。同様に偶な楕円関数 ℘′(αz;Λ2)/℘′(z;Λ1) は S(℘(z;Λ1)) と書ける。よって Φ1(z)=(x,y) なら Φ2(αz)=(R(x),yS(x)) で、ψ=Φ2∘(z↦αz)∘Φ1−1 は有限個の点を除いて有理写像で与えられる。滑らかな射影曲線からの有理写像は射に延び(Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves 第 II 章)、延長は連続性により ψ に一致する。ψ(O)=O だから同種写像である。
-
同種写像は局所的に有理関数で与えられるので正則写像であり、Φ2−1∘φ∘Φ1 は 0 を 0 に写す正則写像 C/Λ1→C/Λ2 である。19 第1章 定理 1.30 より、これは αΛ1⊂Λ2, β∈Λ2 を用いて z↦αz+β≡αz と書ける。すべての z で αz≡α′z(modΛ2) なら、(α−α′)z は連結な C 上で離散集合 Λ2 に値をとる連続関数だから 0 で、α=α′。
-
加法は C/Λ2 の加法に対応する(命題 9.2)から、φα+φβ と φβ∘φα は (α+β)z と βαz に対応する。
-
kerφα={z∣αz∈Λ2}/Λ1=α−1Λ2/Λ1 の位数は [Λ2:αΛ1]。標数 0 では同種写像は分離的で、次数は核の位数に等しい(第3章 定理 3.13)。□
例 9.7 α=m は [m] に対応し、E[m]≅m1Λ/Λ≅(Z/mZ)2(19 第2章 注意 2.18), deg[m]=[Λ:mΛ]=m2。また d=[Λ2:αΛ1] なら dΛ2⊂αΛ1 だから φd/α∘φα=[d] であり、φd/α が双対同種写像である(問題 9.3)。
9.3 自己準同型環と虚数乗法
定理 9.6 により、End(E) を調べることは αΛ⊂Λ となる α を調べることに帰着する。
定義 9.8(整環, order) 虚二次体 K の部分環(1 を含む)で、階数 2 の自由 Z 加群であるものを K の整環という。
補題 9.9 OK=Z+Zw、判別式を dK とする(15 第1章 定理 1.26)。K の整環は Z+fOK=Z[fw](f≥1)に限り、その判別式は f2dK である。f を整環の導手という。
証明. 整環 O の元 α について Z[α]⊂O は有限生成だから α は代数的整数である(15 第1章 補題 1.7)。よって Z⊂O⊂OK で、O/Z は OK/Z≅Z(w の類で生成)の 0 でない部分群だから O=Z+Zfw。逆に (a+fβ)(a′+fβ′)=aa′+f(aβ′+a′β+fββ′) より Z+fOK は環である。判別式は 15 第1章 命題 1.19 (2) による。□
判別式 D=f2dK の整環を OD と書く。たとえば O−4=Z[i], O−16=Z[2i], O−28=Z[−7]。
定理 9.10(自己準同型環)E=EΛ, Λ=ω2Λτ(τ∈H)とする。
- τ が二次無理数でなければ End(E)≅Z。
- Aτ2+Bτ+C=0(A,B,C∈Z, A>0, gcd(A,B,C)=1)ならば、K=Q(τ) は虚二次体で、End(E)≅Z[Aτ]=OD, D=B2−4AC である。
とくに End(E) は Z か虚二次体の整環であり、つねに可換である。
証明. 定理 9.6 より End(E)≅R:={α∣αΛτ⊂Λτ}(相似な格子では同じ)。α∈R なら α=α⋅1 と ατ が Λτ に属するので
α=a+bτ,ατ=c+dτ(a,b,c,d∈Z)
b=0 なら α∈Z。b=0 なら代入して bτ2+(a−d)τ−c=0 となり τ は二次無理数である。これで 1 が示された。
- τ∈/R だから K は虚二次体。α=a+bτ について ατ=−AbC+(a−AbB)τ だから、α∈R ⟺ A∣bB かつ A∣bC ⟺ A∣b(⇒ は、A が bA,bB,bC の最大公約数 ∣b∣ を割ることによる)。よって R=Z+ZAτ。Aτ は x2+Bx+AC=0 の根だから R は環で、基底 1,Aτ の判別式は (Aτ−Aτˉ)2=B2−4AC(15 第1章 命題 1.19 (1))。補題 9.9 より R=OD。□
定義 9.11(虚数乗法)End(E)=Z のとき、E は虚数乗法をもつ(CM をもつ)という。End(E)≅OD なら OD による虚数乗法をもつという。
標数 p の超特異曲線で起こる四元数環の整環(第3章 定理 3.34)は、標数 0 では現れない。End(E) はつねに C 上で考える。
例 9.12(虚数乗法をもつ曲線)
- y2=x3−x:τ=i, (A,B,C)=(1,0,1), End(E)≅Z[i]。℘(iz)=i−2℘(z)=−℘(z) とその微分 ℘′(iz)=i℘′(z) から [i](x,y)=(−x,iy)(Q(i) 上定義される)。
- y2=x3+1:g2=0 より j=0=j(Z[ρ])(ρ=e2πi/3)で、系 9.4 より格子は Z[ρ] と相似。End(E)≅Z[ρ], D=−3。℘(ρz)=ρ℘(z), ℘′(ρz)=℘′(z) より [ρ](x,y)=(ρx,y)。
- j=−3375:導手 49 の曲線 49a1 は y2=x3−35x−98 と Q 上同型で、j=1728⋅4(−35)3/(4(−35)3+27⋅982)=−3375。PARI/GP で τ=ω1/ω2 を求め
algdep(tau, 2) を使うと 2τ2−τ+1=0、すなわち τ=(1+−7)/4。D=−7 で、End(E)≅Z[(1+−7)/2] は Q(−7) の整数環である。次数 2 の自己準同型 α=(1+−7)/2 の核は、有理点 (7,0) が生成する部分群ではない((7,0) を核とする 2-同種写像の行き先は j=2553(D=−28)の 49a2。ellisogeny)。
9.4 類数 1 の判別式と j の値
命題 9.13 D<0, D≡0,1(mod4) とする。End(E)≅OD となる E/C の同型類は、
B2−4AC=D,gcd(A,B,C)=1,∣B∣≤A≤C,(∣B∣=A または A=C なら B≥0)
を満たす整数の組(被約な原始的二次形式 Ax2+Bxy+Cy2)と τ=2A−B+D によって一対一に対応する。その個数 h(D) は有限で、各組は A≤∣D∣/3 を満たす。
証明. 系 9.4 と 19 第3章 定理 3.2 より、同型類は基本領域 F の点(境界では Reτ≤0 の側を残す)と対応する。定理 9.10 より End≅OD は τ の原始的な方程式の判別式が D であることと同値で、このとき τ=(−B+D)/(2A)。∣Reτ∣=∣B∣/(2A)≤21, ∣τ∣2=C/A≥1, Reτ≤0 がそれぞれ ∣B∣≤A, A≤C, B≥0 にあたる。また ∣D∣=4AC−B2≥3A2。□
h(D) を判別式 D の類数という。D=dK なら h(dK) はイデアル類数 hK に等しい(主張)。たとえば D=−20 の被約形式は (1,0,5),(2,2,3)、D=−23 では (1,1,6),(2,±1,3) で、15 第3章 例 3.14, 3.15 の類数 2, 3 と一致する。
定理 9.14(虚数乗法の主定理の一部。主張) 命題 9.13 の τ1,…,τh(h=h(D))について jk=j(τk) とおく。
- 各 jk は代数的整数で、HD(x)=∏k(x−jk) は Z[x] の既約多項式である。とくに [Q(jk):Q]=h(D)。
- D=dK なら、K(j(OK)) は K のヒルベルト類体(15 第7章 定理 7.6)である。
証明は Silverman, Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves 第 II 章(主に D=dK の場合)を参照。HD をヒルベルト類多項式という(PARI/GP の polclass(D))。
したがって CM をもつ曲線の j が有理数になるのは h(D)=1 のときに限り、そのとき j は整数である。
定理 9.15(類数 1 の判別式。主張)h(D)=1 となる負の判別式は D=−3,−4,−7,−8,−11,−12,−16,−19,−27,−28,−43,−67,−163 の 13 個に限る。
基本判別式の 9 個についてはヘーグナー(1952)、ベイカー(1966)、スターク(1967)による。極大でない 4 個(f=2,2,3,2)は整環の類数の公式から従う。∣D∣≤104 では被約形式の全探索で確かめた。
例 9.16(h(D)=1 の j の値)D≡1(mod4) なら τ=(1+D)/2、D≡0(mod4) なら τ=D/2 とする(Z[τ]=OD)。PARI/GP の ellj(tau) は 60 桁の精度で整数に一致し、polclass(D) は x−j を返す。
| D |
τ |
f |
j(τ) |
分解 |
| −3 |
(1+−3)/2 |
1 |
0 |
0 |
| −4 |
i |
1 |
1728 |
123 |
| −7 |
(1+−7)/2 |
1 |
−3375 |
−153 |
| −8 |
−2 |
1 |
8000 |
203 |
| −11 |
(1+−11)/2 |
1 |
−32768 |
−323 |
| −12 |
−3 |
2 |
54000 |
2⋅303 |
| −16 |
2i |
2 |
287496 |
663 |
| −19 |
(1+−19)/2 |
1 |
−884736 |
−963 |
| −27 |
(1+3−3)/2 |
3 |
−12288000 |
−3⋅1603 |
| −28 |
−7 |
2 |
16581375 |
2553 |
| −43 |
(1+−43)/2 |
1 |
−884736000 |
−9603 |
| −67 |
(1+−67)/2 |
1 |
−147197952000 |
−52803 |
| −163 |
(1+−163)/2 |
1 |
−262537412640768000 |
−6403203 |
例 9.17 H−20(x)=x2−1264000x−681472000 の根は j(−5)=632000+2828805 と j((1+−5)/2)=632000−2828805 で(ellj と一致)、K(j)=Q(−5,5) は 15 第7章 例 7.7 のヒルベルト類体である。H−23 は 3 次式で、nfisisom によれば Q(j) は x3−x−1 の根が生成する体と同型である(同 例 7.8)。
eπ163 がほとんど整数である理由
τ=(1+−163)/2 では q=e2πiτ=−e−π163 である。19 第3章 3.7 節の展開 j(τ)=q−1+744+196884q+21493760q2+⋯ と j(τ)=−6403203 から
eπ163=6403203+744−196884e−π163+21493760e−2π163−⋯
e−π163=3.81×10−18 だから第 3 項は 7.4993×10−13、第 4 項は 3×10−28 程度である。PARI/GP で計算すると eπ163=262537412640768743.99999999999925007… で、6403203+744=262537412640768744 との差は 196884e−π163 と 15 桁一致する。理由は、(i) 類数 1 なので j(τ) が整数であること(定理 9.14)、(ii) q が非常に小さいこと、の 2 つである。163 は h(D)=1 となる最大の ∣D∣ なので最も顕著に現れる(eπ67,eπ43,eπ19 と整数の差は 1.3×10−6, 2.2×10−4, 0.22)。
9.5 虚数乗法をもつ曲線の ap
CM 曲線では ap=p+1−∣E(Fp)∣ が、p の虚二次体での分解の仕方で記述できる。y2=x3−x(導手 32。Cremona のラベルで 32a2)で見よう。
定理 9.18 E:y2=x3−x、p≡3(mod4) を素数とすると ∣E(Fp)∣=p+1、すなわち ap=0。
証明. これは第4章 定理 4.18(2) の A=−1 の場合で、証明も同じである。f(x)=x3−x とおくと ∣E(Fp)∣=p+1+∑x∈Fp(pf(x))(ルジャンドル記号。第4章 命題 4.1)。f(−x)=−f(x) と (p−1)=−1 より (pf(−x))=−(pf(x)) だから、x=0 を {x,−x} の組に分けると和は打ち消し合う。x=0 の項は 0 である。□
定理 9.20(主張)E:y2=x3−x、p≡1(mod4) を素数とする。p=a2+b2(a は奇数、b は偶数)と書き、a の符号を a+b≡1(mod4) となるように選ぶと、ap=2a、すなわち ∣E(Fp)∣=p+1−2a である。
表し方は符号と順序を除いて一意で(Z[i] での素因数分解の一意性。15 第2章 例 2.19)、b は偶数だから条件は b の符号によらず、a の符号をちょうど 1 つに決める。
証明の方針. (i) p≡1(mod4) なら [i] は Fp 上定義され、ϕp と可換である。第3章の自己準同型環の分類(定理 3.34)を使うと ϕp=[a]+[b][i](a,b∈Z)となり、次数をとって p=a2+b2、∣E(Fp)∣=deg(1−ϕp)=(1−a)2+b2(第4章 定理 4.5)、ap=2a を得る。この段階は認める。(ii) 符号を決める。i∈Fp を −1 の平方根とすると、P=(i,i−1) は (i−1)2=−2i=i3−i より E 上にあり、接線の傾き (3i2−1)/(2(i−1))=1+i から 2P=((1+i)2−2i, (1+i)i−(i−1))=(0,0)。よって E(Fp) は P と (1,0) で生成される位数 8 の部分群を含み、8∣(1−a)2+b2。p は奇数だから a,b の一方だけが奇数で、a が偶数なら右辺は ≡2(mod4) となるので a は奇数。1−a=2s, b=2t とおくと 8∣4(s2+t2) より s≡t(mod2)、すなわち a+b≡1(mod4)。□
例 9.21 p≡1(mod4) について、PARI/GP の ellap と定理 9.20 を比べる。
| p |
5 |
13 |
17 |
29 |
37 |
41 |
53 |
61 |
| (a,b) |
(−1,2) |
(3,2) |
(1,4) |
(−5,2) |
(−1,6) |
(5,4) |
(7,2) |
(−5,6) |
| ap |
−2 |
6 |
2 |
−10 |
−2 |
10 |
14 |
−10 |
| ∣E(Fp)∣ |
8 |
8 |
16 |
40 |
40 |
32 |
40 |
72 |
p<2×105 のすべての奇素数(17983 個)で、定理 9.18, 9.20 が ellap と一致することを確かめた。
9.6 ガロア表現とセールの開像定理
E/Q と素数 ℓ に対し、テイト加群 Tℓ(E)=limnE[ℓn]≅Zℓ2 への GQ=Gal(Q/Q) の作用から ρE,ℓ:GQ→GL2(Zℓ) が得られる(第3章 3.10 節)。E[ℓ] への作用を ρˉE,ℓ:GQ→GL2(Fℓ) と書く。複素数体上では E[ℓn]=ℓ−nΛ/Λ≅Λ/ℓnΛ だから Tℓ(E)≅Λ⊗Zℓ で、自己準同型 α は Λ の α 倍として作用する。
命題 9.23 E:y2=x3−x と素数 ℓ について、ρE,ℓ(GQ) は GL2(Zℓ) の開部分群でない。
証明. σ∈GQ(i) は i を固定するから σ([i]P)=[i]σ(P) で、ρE,ℓ(σ) は [i] の作用 J と可換である。Λ=ϖZ[i] の基底 ϖ,iϖ に関して
J=(01−10)
で、J と可換な行列は aI+bJ の形に限るから、ρE,ℓ(GQ(i)) は可換群である。ρE,ℓ(GQ) が開なら、その指数 2 以下の閉部分群 ρE,ℓ(GQ(i))(コンパクト群の像)も開で、十分大きい n について I+ℓnM2(Zℓ) を含む。しかしその元 I+ℓnE12, I+ℓnE21(Eij は行列単位)は可換でない。□
同じ議論で、一般の CM 曲線でも像は開でない。CM をもたない曲線については逆のことが成り立つ。
定理 9.24(セールの開像定理, Serre's open image theorem. 主張)E/Q が虚数乗法をもたないとする。
- すべての素数 ℓ について ρE,ℓ(GQ) は開部分群であり、有限個を除くすべての ℓ で ρE,ℓ(GQ)=GL2(Zℓ)(とくに ρˉE,ℓ は全射)。
- すべての等分点への作用 ρE:GQ→GL2(Z) の像は指数有限の開部分群である。
セール(1972)による。数体上でも同様である。
例 9.25 11a1 :y2+y=x3−x2−10x−20 は位数 5 の有理点 T=(5,5) をもつ(elltors)。E[5] の基底を T,S とすると σ(T)=T だから、ρˉE,5(GQ) は第 1 列が (1,0) の行列からなり、位数は 5⋅4=20 以下で、∣GL2(F5)∣=480 より小さい。
逆に CM 曲線では像の可換性から類体が得られ、虚二次体 K の最大アーベル拡大は j(OK) と CM 曲線の等分点の座標(の適当な関数)で生成される(クロネッカーの青春の夢。主張)。
9.7 周期と算術幾何平均
a,b>0 に対し a0=a, b0=b, an+1=(an+bn)/2, bn+1=anbn とおく。相加相乗平均の不等式から n≥1 で bn≤bn+1≤an+1≤an であり、an+1−bn+1=(an−bn)2/(2(an+bn)2) だから、両者は共通の極限に 2 次収束する。この極限を算術幾何平均 (arithmetic-geometric mean) M(a,b) という。M(λa,λb)=λM(a,b) である。
定理 9.26(ガウス)a,b>0 について
I(a,b):=∫0∞(t2+a2)(t2+b2)dt=2M(a,b)π
証明. a1=(a+b)/2, b1=ab とし、t=21(s−ab/s) と置換する。s が (0,∞) を動くと t は R 全体を単調に動き、
t2+a12=4s2(s2+a2)(s2+b2),t2+b12=4s2(s2+ab)2,dt=2s2s2+abds
だから、被積分関数は 2/(s2+a2)(s2+b2)(ds について)に変わる。t について偶関数なので 2I(a1,b1)=2I(a,b) で、繰り返して I(a,b)=I(an,bn)。I は各変数について減少し bn≤M(a,b)≤an だから、2anπ=I(an,an)≤I(a,b)≤I(bn,bn)=2bnπ。n→∞ とすればよい。□
系 9.27(実周期)E:y2=f(x), f(x)=(x−e1)(x−e2)(x−e3) を実係数とし、E の格子(不変微分 dx/(2y) に関するもの)について Λ∩R=Zω1(ω1>0)とする。最大の実根を e1 とすると ω1=∫e1∞dx/f(x) であり、
- Δ>0(e1>e2>e3 が実数)なら ω1=π/M(e1−e3,e1−e2)、
- Δ<0(e2=eˉ3∈/R)なら、r=∣e1−e2∣, c=e1−Ree2 として ω1=π/M(r,(r+c)/2)。
証明. x の平行移動で積分も不変微分も変わらないので、f に x2 の項はないとしてよい。gk(Λˉ)=gk(Λ)=gk(Λ) と定理 9.3 の一意性より Λˉ=Λ で、℘(zˉ)=℘(z)。ω∈Λ∖iR について ω+ωˉ∈Λ∩R∖{0} だから Λ∩R=Zω1 と書ける。(0,ω1/2) には半周期がないので ℘′=0 で、℘ は +∞ から ℘(ω1/2) まで単調減少する。℘′(ω1/2)=0 より ℘(ω1/2) は f の根で、それより大きい x では f(x)=℘′(z)2/4>0 だから ℘(ω1/2)=e1。この区間で y=21℘′(z)=−f(x) だから 2ω1=∫0ω1/2dz=∫e1∞2f(x)dx。1 は x=e1+t2 と置換すると 2I(e1−e3,e1−e2) になることから従う。2 では x=e1+s2 とおくと f(x)=s2(s4+2cs2+r2) だから ω1=2∫0∞ds/s4+2cs2+r2。s4+2cs2+r2=(s2+a2)(s2+aˉ2), aaˉ=r, Rea>0 となる a をとると、定理 9.26 の証明の置換 t=21(s−r/s) と恒等式は b=aˉ でもそのまま成り立ち、(a+aˉ)2=2c+2r だから ω1=2I((r+c)/2,r)。定理 9.26 から 2 を得る。□
例 9.28 (1) y2=x3−x(e=1,0,−1)では ω1=π/M(2,1)。(an,bn) は (1.41421,1), (1.20711,1.18921), (1.198157,1.198124), (1.19814023479,1.19814023468) と急速に収束し、π/M(2,1)=2.6220575542921198…=ϖ は omega の値と一致する(19 第2章 例 2.19 のガウスの発見)。
(2) 37a1(f=x3−x+41, Δ=37>0)では e1=0.8375654353, e2=0.2695944364, e3=−1.1071598717 で、ω1=2.9934586462…。虚軸方向の周期 π/M(e1−e3,e2−e3)=2.4513893819… も例 9.5 と合う(主張)。
(3) 11a1(f=x3−x2−10x−479, Δ=−115)では e1=4.3463081582, e2,3=−1.6731540791±1.3208489223i, r=6.1626753526, c=6.0194622373 で、系 9.27 の 2 から ω1=1.2692093042…。これは omega の値と 30 桁一致する。
まとめ
- ΦΛ(z)=(℘(z),21℘′(z)) は C/Λ≅EΛ:y2=x3−4g2x−4g3 を与え、j の全射性から C 上のすべての楕円曲線はこの形に書ける(一意化定理)。
- 同種写像は αΛ1⊂Λ2 となる α 倍と対応し、degφα=[Λ2:αΛ1]。
- End(E) は Z か虚二次体の整環で、原始的な Aτ2+Bτ+C=0 に対し Z[Aτ]=OB2−4AC。
- End(E)≅OD の同型類は h(D) 個で、CM の j は次数 h(D) の代数的整数、K(j(OK)) はヒルベルト類体(主張)。
- h(D)=1 の D は 13 個で j は整数。eπ163≈6403203+744 はその帰結である。
- y2=x3−x では p≡3(mod4) で ap=0、p≡1(mod4) で ap=2a(p=a2+b2, a+b≡1(mod4))。
- CM 曲線のガロア像は開でなく、CM のない曲線では開である(セール)。実周期は算術幾何平均で高速に計算できる。
演習問題
問題 9.1 ★ y2=x3+Ax+B に対応する格子の g2,g3 を求め、37a1 :y2+y=x3−x では g2=4, g3=−1 となることを確かめよ。Δ(Λ) と j(Λ) も求めよ。
解答
命題 9.2 より g2=−4A, g3=−4B。Y=y+21 とおくと Y2=x3−x+41 で、不変微分 dx/(2y+1)=dx/(2Y) は変わらない。A=−1, B=41 より g2=4, g3=−1, Δ(Λ)=64−27=37, j(Λ)=1728⋅64/37=110592/37 で、37a1 の判別式・j 不変量と一致する。
問題 9.2 ★ τ=2i, (1+i)/2, (1+−7)/4 のそれぞれについて End(C/Λτ) と判別式を求めよ。
解答
定理 9.10 を使う。τ=2i:τ2+4=0 で Z[2i], D=−16。τ=(1+i)/2:τ2=i/2 より 2τ2−2τ+1=0 で Z[2τ]=Z[1+i]=Z[i], D=−4(Λτ=21+iZ[i] は Z[i] と相似)。τ=(1+−7)/4:τ2=(−3+−7)/8 より 2τ2−τ+1=0 で Z[(1+−7)/2], D=−7(例 9.12 の 49a1)。
問題 9.3 ★★ (1) 例 9.7 の φd/α が φα の双対同種写像であることを確かめよ。(2) α∈End(EΛ) について degφα=∣α∣2 で、双対は φαˉ であることを示せ。
解答
(1) Λ2/αΛ1 は位数 d の群だから dΛ2⊂αΛ1、すなわち (d/α)Λ2⊂Λ1 で、φd/α∘φα は z↦dz、つまり [d]。双対は φ^∘φα=[degφα]=[d] を満たし(第3章 定理 3.14)、φα は全射だからそのような写像は 1 つしかない。よって φ^α=φd/α。
(2) α=u+iv 倍は R2 の線形写像として行列式 u2+v2 をもち、[Λ:αΛ] は基本平行四辺形の面積比だから ∣α∣2。(1) より双対は φ∣α∣2/α=φαˉ。
問題 9.4 ★★ E:y2=x3+1 と素数 p≥5, p≡2(mod3) について ∣E(Fp)∣=p+1 を示せ。
解答
gcd(3,p−1)=1 だから x↦x3 は巡回群 Fp× の自己同型で、Fp の全単射である。よって各 y に対し x3=y2−1 となる x はちょうど 1 つで、アフィン点は p 個、O を加えて p+1 個(第4章 定理 4.18(1) の B=1 の場合。p は Q(−3) で惰性的で、注意 9.22 と整合)。
問題 9.5 ★★ E:y2=x3−x の ∣E(F13)∣ をルジャンドル記号で数え、定理 9.20 と一致することを確かめよ。
解答
mod13 の平方剰余は 1,3,4,9,10,12。f(x)=x3−x は x=0,1,12 で 0(各 1 点)。x=2,…,11 では f(x)=6,11,8,3,2,11,10,5,2,7 で、平方剰余は x=5(f=3)と x=8(f=10)だけ(各 2 点)。合計 7 個のアフィン点と O で 8 個、a13=14−8=6。一方 13=32+22 で a+2≡1(mod4) となるのは a=3 だから、定理 9.20 も a13=6 を与える。
問題 9.6 ★★ 判別式 −163 の被約な原始的二次形式は (1,1,41) だけであることを示せ。
解答
命題 9.13 より 3A2≤163 で A≤7。B2≡−163(mod4) より B は奇数で ∣B∣≤A、C=(B2+163)/(4A) は整数でなければならない。B2+163 は ∣B∣=1,3,5,7 で 4⋅41,4⋅43,4⋅47,4⋅53(いずれも 4 × 素数)だから、4A で割れるのは A=1 のときだけで、B=1, C=41。よって (1,1,41) だけで、h(−163)=1。
問題 9.7 ★★ En:y2=x3−n2x(n>0)の実周期が ϖ/n であることを示せ(ϖ は y2=x3−x の実周期)。
解答
根は e1=n>e2=0>e3=−n で Δ=64n6>0。系 9.27 の 1 より ω1=π/M(2n,n)=π/(nM(2,1))=ϖ/n。n=5 では 1.1726197865 で、PARI/GP の値と一致する。第10章の合同数の議論(定理 10.13)で使う。
問題 9.8 ★★ E:y2=x3−x の点 P=(x,y)(x=0)について、P+[i]P を計算して x([1+i]P)=2xi(1−x2) を示せ。また ker[1+i]={O,(0,0)} を確かめよ。
解答
[i]P=(−x,iy) だから傾きは λ=−2xiy−y=2x(1−i)y、λ2=4x2−2iy2=2x2−i(x3−x)。x 座標は λ2−x−(−x)=2xi(1−x2) で、[1+i]=[1]+[i](定理 9.6 の 3)だから主張を得る。これが ∞ になるのは x=0 のときで、実際 [i](0,0)=(0,0) より (0,0)+[i](0,0)=O。核の位数 2 は ∣1+i∣2=2 と合う(ellmul(E, P, 1+I) でも確かめられる)。
問題 9.9 ★★★ E/C が虚数乗法をもてば j(E) は代数的数であることを、h(D) の有限性を用いて示せ。
解答
End(E)≅OD とする。σ∈Aut(C) を方程式の係数に施した曲線 Eσ について j(Eσ)=σ(j(E))。自己準同型は有理式で与えられるので ψ↦ψσ は環同型 End(E)≅End(Eσ) を与え、Eσ も OD による虚数乗法をもつ。命題 9.13 よりそのような j は h(D) 個だから、σ(j(E)) は有限個の値しかとらない。j(E) が超越数なら、任意の超越数 t について同型 Q(j(E))→Q(t) は C の自己同型に延びる(超越基底をとって延ばし、代数閉包へ延ばす)から、σ(j(E)) は無数の値をとり矛盾する。よって j(E) は代数的数である。