この章の目標
- 還元の型ごとの局所因子を定め、L(E,s) のオイラー積が Res>3/2 で絶対収束することを証明できる
- モジュラー性定理の主張を述べ、導手 11 の曲線とモジュラー形式の係数の一致を確かめられる
- 関数等式と根数、BSD 予想の精密な公式を各項の正規化まで含めて説明し、導手 11 と 37 の曲線で両辺を比べられる
- コーツ–ワイルズ、グロス–ザギエ、コリヴァギンの定理を仮定とともに述べられる
- 合同数とタネルの定理の関係、フェルマーの最終定理の証明の流れを説明できる
前提:第4章、第6章、第8章、第9章、19 第3章。BSD 予想は15 第6章の類数公式と比べるとよい。
リーマンゼータ関数 ζ(s)=∏p(1−p−s)−1 が素数の分布を、デデキントゼータ関数が類数や単数を記録するように、楕円曲線 E/Q の各素数での情報 ap を 1 つの解析関数にまとめたものが L 関数 L(E,s) である。1960 年代前半、バーチとスウィンナートン=ダイアーは計算機 EDSAC による数値実験から、L(E,s) の s=1 での振る舞いが有理点の群 E(Q) の大きさを決めているという予想に到達した。これが BSD 予想であり、クレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題(2000 年)の一つにも選ばれている。
本章ではまず局所因子と L 関数を定義し、オイラー積の収束を証明する。L(E,s) を s=1 まで延ばすにはモジュラー性定理が必要で、これはフェルマーの最終定理の証明の核心でもある。そのうえで BSD 予想の精密な公式を述べ、既知の結果と合同数問題への応用を見る。
10.1 局所因子と導手
E/Q の大域極小モデル(第6章 定理 6.5)を 1 つとり、素数 p での還元を E~ とする。E~ が非特異なら良い還元、結節点をもてば乗法的還元(結節点での 2 本の接線が Fp 上定義されるなら分裂、そうでなければ非分裂)、尖点をもてば加法的還元であった。すべての素数 p について
ap=p+1−∣E~(Fp)∣
とおく。ここで ∣E~(Fp)∣ は特異点も含めた点の個数である。良い還元なら ap はフロベニウスのトレースで、ハッセの定理より ∣ap∣≤2p である(第4章 定理 4.7)。
命題 10.1 悪い還元の素数 p について、ap は分裂乗法的還元なら 1、非分裂乗法的還元なら −1、加法的還元なら 0 である。
証明. p が奇素数の場合に示す(p=2 も含めた ∣E~ns(Fp)∣ の計算は第6章の系 6.14 にある)。平方完成と平行移動により E~:y2=x3+ax2(特異点が原点)としてよい。非特異なアフィン点 (x0,y0) は x0=0 を満たし、t=y0/x0 とおくと x0=t2−a, y0=tx0 である。逆に t2=a となる t∈Fp ごとに非特異点 (t2−a,t(t2−a)) がちょうど 1 つ得られる。よって ∣E~ns(Fp)∣=1+p−∣{t∈Fp∣t2=a}∣(1 は O)。原点での接線は y=±ax だから、a=0(尖点)、a が 0 でない平方数(分裂)、非平方数(非分裂)に応じて ∣E~ns(Fp)∣=p,p−1,p+1。特異点を加えると ∣E~(Fp)∣=p+1,p,p+2、すなわち ap=0,1,−1。□
定義 10.2(L 関数)E/Q の導手を N とする(第6章 定義 6.27。N=∏ppfp で、fp は良い還元なら 0、乗法的還元なら 1、加法的還元なら 2 以上)。局所因子を Lp(T)=1−apT+pT2(p∤N)、Lp(T)=1−apT(p∣N)とし、
L(E,s)=p∏Lp(p−s)1=p∣N∏1−app−s1p∤N∏1−app−s+p1−2s1
を E の L 関数(ハッセ–ヴェイユの L 関数)という。
良い還元の p では Lp(T) は E~ の合同ゼータ関数の分子であり(第4章 定理 4.13)、Lp(1/p)=∣E~(Fp)∣/p である。同種な曲線はすべての p で同じ ap と同じ導手をもち、同じ L 関数をもつ(主張)。導手が平方因子をもたない(悪い還元がすべて乗法的な)曲線を半安定 (semistable) という。
例 10.3(局所因子) (1) 11a1 :y2+y=x3−x2−10x−20(Δ=−115, N=11)を 11 で還元すると、特異点は (5,5) で、X=x−5, Y=y−5 とおくと Y2≡X3+3X2(mod11)。3≡52 だから分裂乗法的還元で a11=1(小平記号 I5, 玉河数 c11=5)、局所因子は (1−11−s)−1。p=2 では ∣E~(F2)∣=5, a2=−2 で、(1+2⋅2−s+21−2s)−1。
(2) 37a1 :y2+y=x3−x(Δ=37)は 37 で非分裂乗法的還元をもち(問題 10.2)、a37=−1、局所因子は (1+37−s)−1。
(3) 32a2 :y2=x3−x(Δ=26)は mod2 で y2=x3+x となり、(1,0) に尖点をもつ加法的還元である(f2=5。PARI/GP の elllocalred)。a2=0 で局所因子は 1。
10.2 オイラー積の絶対収束
定理 10.4 L(E,s) のオイラー積は Res>3/2 で絶対収束し、0 にならない。それを展開したディリクレ級数 L(E,s)=∑n≥1ann−s の係数は乗法的(gcd(m,n)=1 なら amn=aman)で、
apk+1=apapk−papk−1 (p∤N),apk=apk (p∣N),∣an∣≤d(n)n
を満たす(d(n) は n の約数の個数)。この級数も Res>3/2 で絶対収束する。
証明. Lp(T)=(1−αpT)(1−βpT) と分解する。p∤N なら αp,βp は T2−apT+p の根で、ハッセの定理 ap2≤4p より互いに複素共役であり ∣αp∣=∣βp∣=p。p∣N なら αp=ap, βp=0 で ∣αp∣≤1。いずれの場合も
Lp(T)1=k≥0∑cp,kTk,cp,k=i+j=k∑αpiβpj,∣cp,k∣≤(k+1)pk/2
で、Lp(T)∑kcp,kTk=1 の係数を比べると漸化式が得られる。an=∏pk∥ncp,k とおけば乗法的で、∣an∣≤∏pk∥n(k+1)pk/2=d(n)n。
実数 σ>3/2 を固定し、xp=p1/2−σ とおくと xp<p−1≤21 で、∑k∣cp,k∣p−kσ≤∑k(k+1)xpk=(1−xp)−2。n≤X ならその素因数はすべて X 以下だから、0≤x≤21 で −log(1−x)≤2x であることを使って
n≤X∑nσ∣an∣≤p≤X∏k≥0∑pkσ∣cp,k∣≤p∏(1−xp)21≤exp(4p∑xp)
を得る。∑pxp≤∑nn1/2−σ<∞ だから、∑ann−s は Res≥σ で絶対収束する。∏p≤XLp(p−s)−1 は素因数がすべて X 以下の n についての ann−s の和だから、級数との差は ∑n>X∣an∣n−σ→0 で抑えられ、積と級数は一致する。各因子は 0 でなく、∑p∣Lp(p−s)−1−1∣≤∑p((1−xp)−2−1)≤∑p8xp<∞ だから、無限積は 0 でない値に収束する。□
s=1 はこの範囲の外にある。L(E,s) を s=1 まで延ばすには、次節のモジュラー性が必要になる。
10.3 モジュラー性定理と関数等式
19 第3章の 3.10 節のように、Γ0(N)={γ∈SL2(Z)∣c≡0(modN)} に関する重さ 2 の尖点形式の空間を S2(Γ0(N)) と書く。その元 f は H 上の正則関数で、γ∈Γ0(N) について f(γτ)=(cτ+d)2f(τ) を満たし、すべての尖点で消える。ヘッケ作用素の同時固有形式で a1=1 と正規化され、より低いレベルから来ないものを新形式 (newform) という。新形式の係数も定理 10.4 と同じ乗法性と漸化式を満たす。L(f,s)=∑nan(f)n−s とおく。
定理 10.5(モジュラー性定理, modularity theorem. 主張)E/Q の導手を N とすると、整数係数の新形式 f=∑n≥1an(f)qn∈S2(Γ0(N)) で、すべての n について an(f)=an(E)、すなわち L(E,s)=L(f,s) となるものが存在する。
半安定な場合をワイルズ(1995)とテイラー–ワイルズ(1995)が証明し、ブルイユ–コンラッド–ダイアモンド–テイラー(2001)が一般の場合を完成させた。かつては谷山–志村予想と呼ばれた。定理 10.5 は、モジュラー曲線からの非定数の射 X0(N)→E(モジュラー・パラメータ付け)の存在と同値であることが知られている。
例 10.6(導手 11)S2(Γ0(11)) は 1 次元で(PARI/GP の mfdim)、
f=qn≥1∏(1−qn)2(1−q11n)2=q−2q2−q3+2q4+q5+2q6−2q7−2q9−2q10+q11−2q12+4q13+⋯
がその基底である(19 第3章 例 3.33)。11a1 の点の個数から求めた ap と、f の qp の係数を比べる(p=11 では特異点も数えた)。
| p |
2 |
3 |
5 |
7 |
11 |
13 |
17 |
19 |
23 |
29 |
31 |
37 |
41 |
43 |
47 |
| ∣E~(Fp)∣ |
5 |
5 |
5 |
10 |
11 |
10 |
20 |
20 |
25 |
30 |
25 |
35 |
50 |
50 |
40 |
| ap |
−2 |
−1 |
1 |
−2 |
1 |
4 |
−2 |
0 |
−1 |
0 |
7 |
3 |
−8 |
−6 |
8 |
| f の係数 |
−2 |
−1 |
1 |
−2 |
1 |
4 |
−2 |
0 |
−1 |
0 |
7 |
3 |
−8 |
−6 |
8 |
PARI/GP で無限積を q110 まで展開し、n≤110 のすべての an が ellan と一致することを確かめた。19 第3章 例 3.33 の曲線 y2+y=x3−x2 は 11a3 で、11a1 と同種なので同じ L 関数をもつ。
定理 10.7(関数等式。主張)Λ(E,s)=Ns/2(2π)−sΓ(s)L(E,s) は C 全体の正則関数に延び、ある w∈{±1} について Λ(E,s)=wΛ(E,2−s) を満たす。
w を E の根数 (root number) という。これはモジュラー性からヘッケの理論で従う。Λ(E,s)=Ns/2∫0∞f(iy)ys−1 dy(メリン変換)であり、f がフリッケ対合 τ↦−1/(Nτ) の固有関数であることから関数等式が得られる。半安定なら w=−∏p∣N(−ap) である(主張。導手 2000 以下の半安定曲線 4154 個で PARI/GP の ellrootno と一致することを確かめた)。11a1 では w=−(−1)=1、37a1 では w=−(+1)=−1。PARI/GP の lfuncheckfeq でも関数等式を数値的に確かめられる。
命題 10.8 ran=ords=1L(E,s)(解析的階数)とすると w=(−1)ran。特に w=−1 なら L(E,1)=0。
証明. Ns/2(2π)−sΓ(s) は s=1 で正則かつ 0 でないから、r=ran として Λ(E,1+u)=cur+O(ur+1)(c=0)と書ける。関数等式より Λ(E,1+u)=wΛ(E,1−u)=wc(−u)r+O(ur+1) で、ur の係数を比べて c=(−1)rwc。□
10.4 BSD 予想
p∤N なら Lp(1/p)−1=p/Np(Np=∣E~(Fp)∣)だから、形式的には L(E,1) は ∏pp/Np のようなものである。有理点が多ければ Np は平均して大きくなり、∏p≤xNp/p は増大すると期待される。バーチとスウィンナートン=ダイアーは、この積が (logx)r(r は階数)に比例して増えることを観察した。s=1 はオイラー積の絶対収束域の外なので、これは発見的な議論である。PARI/GP で計算すると次のようになる(389a1 :y2+y=x3+x2−2x、5077a1 :y2+y=x3−7x+6 の階数 2, 3 は ellrank の上界と下界の一致で確かめた)。
| 曲線 |
階数 |
x=103 |
104 |
105 |
106 |
106 での積 /(logx)r |
| 11a1 |
0 |
5.73 |
6.24 |
6.12 |
6.27 |
6.27 |
| 37a1 |
1 |
45.7 |
74.7 |
92.3 |
107.0 |
7.75 |
| 389a1 |
2 |
329 |
638 |
828 |
1149 |
6.02 |
| 5077a1 |
3 |
1830 |
3096 |
6801 |
11603 |
4.40 |
(表の値は良い還元の素数 p≤x にわたる ∏Np/p。)
予想 10.9(バーチ–スウィンナートン=ダイアー予想, BSD 予想)E/Q と r=rankE(Q) について、
- ords=1L(E,s)=r である。
- Ш(E/Q) は有限で、次が成り立つ。
s→1lim(s−1)rL(E,s)=∣E(Q)tors∣2ΩE⋅Reg(E)⋅∣Ш(E/Q)∣⋅∏pcp
右辺の各項は次のとおりである。
- ΩE=∫E(R)∣ω∣。ω=dx/(2y+a1x+a3) は大域極小モデルの不変微分である。E(R) の連結成分の数を c∞(Δ>0 なら 2、Δ<0 なら 1)とすると、各成分での積分は実周期 ω1(第9章 系 9.27)に等しいから ΩE=c∞ω1。
- Reg(E)=det(⟨Pi,Pj⟩)i,j。P1,…,Pr は E(Q)/E(Q)tors の基底、⟨P,Q⟩=21(h^(P+Q)−h^(P)−h^(Q))、h^(P)=limn→∞4−nh(2nP), h(P)=logH(x(P))(第8章 定理 8.35, 定義 8.38)。r=0 なら Reg(E)=1。
- cp=[E(Qp):E0(Qp)] は玉河数(第6章 定義 6.24)で、良い還元なら 1。
- Ш(E/Q) はテイト–シャファレビッチ群(第8章 定理 8.31)。
左辺は類数公式(15 第6章 定理 6.19)の留数にあたり、Ш は類群に、E(Q) とレギュレーターは単数群と単数規準に、ねじれ部分は 1 のべき根に対応する。
注意
正規化の流儀に注意する。(1) レギュレーターは、対角成分 ⟨P,P⟩ が本書の h^(P)=limn→∞4−nh(2nP) に等しいペアリングで計算する(第8章の正規化。37a1 では Reg(E)=0.0511114082…)。h^ を本書の 21 倍で定義する本もあるが、そこでペアリングを 21 なしの h^(P+Q)−h^(P)−h^(Q) と定めていれば、レギュレーターは本書と同じ値になる。h^ を 21 倍にしたうえでペアリングにも 21 をつけると、レギュレーターは本書の 2−r 倍になり、公式に 2r を補う必要がある。(2) 実周期 ω1 を Ω と書き、連結成分の数 c∞ を別の因子として書く流儀もある。(3) ω は極小モデルのものでなければならない。PARI/GP では、ellheight(E, P) は本書の h^(P) を、ellbsd(E) は ΩE∏cp/∣E(Q)tors∣2 を返す。
例 10.10(BSD 予想の数値的な検証) 次の値は PARI/GP(ellrank, ellanalyticrank, lfun, ellheight, ellglobalred, elltors, ellbsd)で 30 桁の精度で計算した。
|
11a1 |
37a1 |
| rankE(Q), 根数 w |
0, +1 |
1(生成元 (0,0)), −1 |
| 左辺 |
L(E,1)=0.2538418608559106843 |
L′(E,1)=0.3059997738340523018 |
| c∞, ω1 |
1, 1.2692093042795534217 |
2, 2.9934586462319596298 |
| ΩE |
1.2692093042795534217 |
5.9869172924639192597 |
| Reg(E) |
1 |
h^((0,0))=0.0511114082399688402 |
| ∏cp, ∣E(Q)tors∣ |
5(I5), 5 |
1(I1), 1 |
| ΩEReg∏cp/∣Etors∣2 |
0.2538418608559106843 |
0.3059997738340523018 |
どちらの曲線でも、∣Ш∣=1 とおくと両辺は 30 桁一致する(11a1 では L(E,1)/ΩE=1/5)。逆にいえば、BSD 予想は ∣Ш∣=1 を予言する。ran≤1 なので、次節の定理により Ш は有限であり、階数も解析的階数に等しいことが証明されている。
10.5 既知の結果
定理 10.11(コーツ–ワイルズ, 1977。主張)E/Q が虚数乗法をもち、L(E,1)=0 ならば、E(Q) は有限である。
コーツとワイルズは End(E) が虚二次体の整数環 OK である場合に示した。Q 上の CM 曲線はそのような曲線と Q 上同種で、L 関数と階数は同種で変わらないから、上の形で成り立つ。
定理 10.12(グロス–ザギエ, 1986/コリヴァギン, 1988。主張)E/Q を導手 N の楕円曲線とする。
- (グロス–ザギエ)K を N のすべての素因数が分解する虚二次体(ヒーグナー条件)とし、yK∈E(K) をモジュラー・パラメータ付け X0(N)→E によるヒーグナー点の像(の K 上のトレース)とする。このとき L′(E/K,1) は h^(yK) の 0 でない明示的な定数倍に等しい。ここで L(E/K,s)=L(E,s)L(E(K),s), E(K) は K による二次ツイストである(グロスとザギエの原論文は K の判別式が奇数の場合で、この仮定はのちに S.-W. チャンが外した)。
- (コリヴァギン) 1 の状況で yK が無限位数ならば、E(K) の階数は 1 で、Ш(E/K) は有限である。
- (系)解析的階数 ran が 0 または 1 ならば、rankE(Q)=ran であり、Ш(E/Q) は有限である。
3 は、1, 2 と、L(E(K),s) の s=1 での位数を指定できる K の存在(ブンプ–フリードバーグ–ホフスタイン、マーティ–マーティによる L 関数の非消滅の結果)とモジュラー性定理を組み合わせて得られる。一方、ran≥2 の場合については、一般にはほとんど何もわかっていない。
10.6 合同数とタネルの定理
第1章の例 1.1 で見たように、正の整数 n が合同数であることは En:y2=x3−n2x が y=0 の有理点をもつことと同値である。En(Q) のねじれ部分群は y=0 の 4 点だけなので(第7章 問題 7.10。Koblitz, Introduction to Elliptic Curves and Modular Forms 第 I 章も参照)、これは En(Q) の階数が正であることと同値である(第8章 命題 8.28)。En は E1:y2=x3−x の二次ツイストで(第1章 例 1.21、問題 10.3)、[i](x,y)=(−x,iy) による虚数乗法をもつ。根数については、平方因子をもたない n で w(En)=−1⟺n≡5,6,7(mod8) が成り立つ(主張。n≤3000 で ellrootno と一致)。したがって命題 10.8 と BSD 予想から、平方因子をもたない n≡5,6,7(mod8) はすべて合同数であると予想される。
定理 10.13(タネル, 1983。主張)n を平方因子をもたない正の整数とし、整数の組 (x,y,z) の個数を
AnCn=∣{n=2x2+y2+32z2}∣,=∣{n/2=4x2+y2+32z2}∣,BnDn=∣{n=2x2+y2+8z2}∣=∣{n/2=4x2+y2+8z2}∣(n が奇数),(n が偶数)
とおく。
- n が合同数ならば、2An=Bn(n が奇数)、2Cn=Dn(n が偶数)である。
- En について BSD 予想の 1(階数の部分)が正しければ、逆も成り立つ。
さらに、ϖ=2.6220575542…(E1 の実周期)について
L(En,1)=16nϖ(2An−Bn)2 (n が奇数),L(En,1)=8nϖ(2Cn−Dn)2 (n が偶数)
L 値の公式は、重さ 3/2 のモジュラー形式の係数とツイストの L 値を結ぶヴァルトシュプルガーの定理から導かれる(n≤30 で lfun と 30 桁一致することを確かめた)。2An=Bn なら L(En,1)=0 で、En は虚数乗法をもつからコーツ–ワイルズの定理により En(Q) は有限、すなわち n は合同数でない。これが 1 である。2An=Bn なら L(En,1)=0 で、BSD 予想の 1 から階数は正になる。これが 2 である(偶数の n も同様)。
例 10.14 平方因子をもたない n≤15 について、python の全探索で個数を数え、PARI/GP の ellrank(上界と下界の一致)と ellrootno で階数と根数を求めた。
| n |
1 |
2 |
3 |
5 |
6 |
7 |
10 |
11 |
13 |
14 |
15 |
| An または Cn |
2 |
2 |
4 |
0 |
0 |
0 |
4 |
4 |
0 |
0 |
0 |
| Bn または Dn |
2 |
2 |
4 |
0 |
0 |
0 |
4 |
12 |
0 |
0 |
0 |
| 2An−Bn など |
2 |
2 |
4 |
0 |
0 |
0 |
4 |
−4 |
0 |
0 |
0 |
| rankEn(Q) |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
1 |
| w(En) |
+ |
+ |
+ |
− |
− |
− |
+ |
+ |
− |
− |
− |
1, 2, 3, 10, 11 が合同数でないことは定理 10.13 の 1 から無条件に従う。5, 6, 7, 13, 14, 15 は実際に合同数で、たとえば (23,320,641), (3,4,5), (524,1235,60337), (323780,30323,9690106921), (221,38,665), (215,4,217) が面積 5,6,7,13,14,15 の直角三角形である。
10.7 フェルマーの最終定理の証明の流れ
フェルマーの最終定理(n≥3 なら xn+yn=zn は xyz=0 の整数解をもたない)の証明の流れを概略で述べる。各段階の深い定理は主張として認める。
- n=4(フェルマー)と n=3(オイラー)は古典的に示されているので、素数 p≥5 について ap+bp=cp, abc=0 の解がないことを示せばよい。解があれば、約分と符号・順序の入れ替えにより、a,b,c は互いに素、b は偶数、a≡−1(mod4) としてよい。
- フライ曲線 E:y2=x(x−ap)(x+bp) を考える(フライ, 1986)。判別式は 16(abc)2p で(問題 10.7)、1 の正規化のもとで E は半安定、極小判別式は 2−8(abc)2p、導手は abc の素因数の積である(主張)。たとえば A+B=C が 3+32=35 のとき(同じ正規化を満たす)、y2=x(x−3)(x+32) の導手は PARI/GP で 210=2⋅3⋅5⋅7、極小判別式は 44100=(3⋅32⋅35)2/28 となる。
- ワイルズとテイラー–ワイルズ(1995)により、半安定な E はモジュラーである(定理 10.5)。
- E[p] へのガロア表現 ρˉE,p は既約である。実際、可約なら、半安定性から E または E と p-同種な曲線(奇数次の同種写像で移るので、これも 2 等分点がすべて有理点)が位数 p の有理点をもち(セール。主張)、そのねじれ部分群は Z/2⊕Z/2p(p≥5)を含むことになって、メイザーの定理(第7章 定理 7.13)に反する。また奇素数 ℓ∣abc では vℓ(Δmin)=2p vℓ(abc) は p の倍数であり、v2(Δmin)=2p v2(b)−8 は p の倍数でない。リベットの定理(1990。E/Q が半安定かつモジュラーで、奇素数 p について ρˉE,p が既約ならば、導手から p∣vℓ(Δmin) となる素因数 ℓ をすべて取り除いたレベルの重さ 2 の新形式 f があって、ℓ∤Np について aℓ(f)≡aℓ(E)(f の係数体の p の上の素イデアルを法として)となる)により、レベル 2 のそのような新形式 f が存在することになる。
- しかし S2(Γ0(2))=0 である(問題 10.8。
mfdim でも確かめられる)。矛盾。
10.8 ラングランズ・プログラムへの展望
p∤Nℓ なら ap=trρE,ℓ(Frobp) であり(第9章 9.6 節の ℓ 進表現)、L(E,s) はガロア表現 ρE,ℓ の L 関数とみなせる。モジュラー性定理は、GQ の 2 次元表現 ρE,ℓ が保型的な対象(新形式、あるいは GL2 の保型表現)と L 関数が一致する形で対応する、と言い換えられる。1 次元の表現についてのこの対応が類体論であり(15 第7章)、2 次元のアルティン表現と重さ 1 の保型形式の対応はその次の例である(15 第7章 例 7.18)。一般に「GQ や数体のガロア群の n 次元表現と GLn の保型表現が L 関数を保って対応する」と予想するのがラングランズ・プログラムである。楕円曲線の対称積の L 関数の性質から佐藤–テイト予想(第4章 定理 4.22)が証明されたように、この対応は個々の曲線の算術にも具体的な帰結をもたらしている。
まとめ
- 還元の型に応じて ap=p+1−∣E~(Fp)∣ は、良い還元ではフロベニウスのトレース、分裂・非分裂乗法的還元では ±1、加法的還元では 0 となり、局所因子 Lp(T) が定まる。
- ハッセの定理 ∣αp∣=p から ∣an∣≤d(n)n が従い、L(E,s) は Res>3/2 で絶対収束する。
- モジュラー性定理(ワイルズ、テイラー–ワイルズ、ブルイユ–コンラッド–ダイアモンド–テイラー)により L(E,s)=L(f,s) となる新形式 f∈S2(Γ0(N)) がある。導手 11 では f=q∏(1−qn)2(1−q11n)2。
- Λ(E,s)=Ns/2(2π)−sΓ(s)L(E,s) は整関数で Λ(E,s)=wΛ(E,2−s)、w=(−1)ran。
- BSD 予想:階数は s=1 での零点の位数に等しく、主要項は ΩEReg∣Ш∣∏cp/∣Etors∣2。11a1, 37a1 で 30 桁一致する。
- ran≤1 なら階数は ran に等しく Ш は有限(グロス–ザギエ、コリヴァギン)。CM 曲線で L(E,1)=0 なら E(Q) は有限(コーツ–ワイルズ)。
- タネルの定理:合同数なら 2An=Bn(偶数では 2Cn=Dn)、BSD のもとで逆も成り立つ。
- フライ曲線、リベットの定理、半安定曲線のモジュラー性、S2(Γ0(2))=0 からフェルマーの最終定理が従う。
演習問題
問題 10.1 ★ 11a1 について、a2=−2, a3=−1, a5=1, a11=1 と定理 10.4 の漸化式から a4,a8,a9,a16,a25,a121 を求め、例 10.6 の f の係数(q4 の係数は 2、q8 は 0、q9 は −2)と比べよ。
解答
a4=a22−2=2, a8=a2a4−2a2=−4+4=0, a16=a2a8−2a4=−4, a9=a32−3=−2, a25=a52−5=−4。11 は悪い還元なので a121=a112=1。f の係数と一致する(PARI/GP の ellan でも a16=−4, a25=−4, a121=1)。
問題 10.2 ★ 37a1 :y2+y=x3−x を 37 で還元した曲線の特異点が (5,18) であることを確かめ、非分裂乗法的還元であることを示せ。
解答
F=y2+y−x3+x とすると Fy=2y+1, Fx=−3x2+1。y=18 で 2y+1=37≡0、x=5 で 3⋅25−1=74≡0、F(5,18)=342−120=222=6⋅37≡0。x=X+5, y=Y+18 とおくと Y2+37Y+342≡Y2+9、X3+15X2+74X+120≡X3+15X2+9 だから Y2≡X3+15X2。接線は Y2=15X2 で、(3715)=(373)(375)=(337)(537)=(31)(52)=−1(相互法則。37≡1(mod4))。よって接線は F37 上定義されず非分裂で、a37=−1。
問題 10.3 ★★ E1:y2=x3−x, En:y2=x3−n2x とし、p を 2n を割らない素数とする。ap(En)=(pn)ap(E1) を示せ。
解答
x=nu と置換すると x3−n2x=n3(u3−u) だから、(px3−n2x)=(pn)3(pu3−u)=(pn)(pu3−u)。u は Fp 全体を動くので、ap=−∑x(pf(x))(定理 9.18 の証明の式)より主張を得る。
問題 10.4 ★★ 11a1 は位数 5 の有理点 (5,5) をもつ。p=5,11 について 5∣∣E~(Fp)∣、したがって ap≡p+1(mod5) であることを示し、例 10.6 の表で確かめよ。
解答
良い還元の素数 p について、p と素な位数のねじれ点は還元で単射に写る(第7章 定理 7.1)。よって p=5,11 なら E~(Fp) は位数 5 の元をもち、ラグランジュの定理より 5∣∣E~(Fp)∣=p+1−ap。表では ∣E~(Fp)∣=5,5,10,10,20,… はすべて 5 の倍数で(p=5 でも 5)、たとえば p=31 で a31=7≡32, p=41 で −8≡42(mod5)。
問題 10.5 ★★ 例 10.10 と同種な曲線 11a2, 11a3 について、PARI/GP によれば次の値をとる:11a2 は ∣Etors∣=1, c11=1, ΩE=0.2538418608…、11a3 は ∣Etors∣=5, c11=1, ΩE=6.3460465213…(いずれも Δ<0)。同種な曲線は同じ L(E,1) をもつことを使って、BSD 予想が 3 曲線で同じく ∣Ш∣=1 を予言することを確かめよ。
解答
L(E,1)=0.2538418608… は 3 曲線で共通。r=0 だから右辺は ΩE∏cp∣Ш∣/∣Etors∣2。11a1:1.2692093042⋅5/25=0.2538418608。11a2:0.2538418608⋅1/1。11a3:6.3460465213⋅1/25=0.2538418608。いずれも ∣Ш∣=1 で一致する。周期・玉河数・ねじれ部分は個別には変わるが、組み合わせは同種で不変になっている。
問題 10.6 ★★ (1) 定理 10.13 の An,Bn を n=1,3,5,11 について手で数え、1, 3, 11 が合同数でないことを結論せよ。(2) 直角三角形 (23,320,641) の面積が 5 であることを確かめ、E5 の点 (x,y)=(1441681,−172862279) が E5 上にあることを確かめよ(x=(c/2)2, y=c(a2−b2)/8)。
解答
(1) n=1:A では y=±1 の 2 個、B も 2 個で 2A−B=2。n=3:2x2+y2=3 の解 (±1,±1) で A=B=4。n=5:2x2+y2=5 は解がなく(y2=5,3 は平方数でない)、8z2,32z2>5 なので A=B=0。n=11:A は 2x2+y2=11 の解 (±1,±3) で 4 個。B はさらに z=±1 で 2x2+y2=3 の解 4 個ずつが加わり 12 個。2A−B=−4。よって n=1,3,11 では 2An=Bn で、定理 10.13 の 1 から合同数でない。
(2) 面積は 21⋅23⋅320=5、49+9400=361681=(641)2。a2−b2=−361519 より y=641⋅(−361519)/8=−172862279。一般に x−5=(a−b)2/4, x+5=(a+b)2/4 だから x3−25x=x(x−5)(x+5)=c2(a2−b2)2/64=y2 となる(PARI/GP の ellisoncurve でも確かめられる)。
問題 10.7 ★★ A,B を互いに素な 0 でない整数、C=A+B=0 とし、E:y2=x(x−A)(x+B) とする。(1) Δ=16A2B2C2 を示せ。(2) 奇素数 ℓ について、ℓ∤ABC なら良い還元、ℓ∣ABC なら乗法的還元であることを示せ。
解答
(1) y2=f(x)(f はモニックな 3 次式、根 ei)の判別式は 16∏i<j(ei−ej)2。根 0,A,−B の差は A, B, A+B=C だから Δ=16A2B2C2。
(2) ℓ∤ABC なら ℓ∤Δ で良い還元。ℓ∣A なら A,B は互いに素で ℓ∤B。modℓ で f(x)≡x2(x+B) は二重根 0 と単根 −B≡0 をもつので、(0,0) は結節点(y2≡Bx2+x3 で B≡0)であり、乗法的還元である。ℓ∣B や ℓ∣C の場合も、0,A,−B のうちちょうど 2 つが modℓ で一致するので同様である。(Δ が ℓ12 で割れることもあるが、c4=16(A2+AB+B2) は ℓ で割れないので方程式は ℓ で極小である。)
問題 10.8 ★★★ S2(Γ0(2))=0 を示せ。(ヒント:f∈S2(Γ0(2)) に対し、SL2(Z) の Γ0(2) による剰余類の代表 γ1,γ2,γ3 をとり、F=∏if∣2γi((f∣2γ)(τ)=(cτ+d)−2f(γτ))を考える。)
解答
[SL2(Z):Γ0(2)]=3(mod2 で SL2(F2) の位数 6 を、上三角行列のなす位数 2 の部分群で割る)。f∣2γ は γ の Γ0(2) による剰余類 Γ0(2)γ だけで決まるので、F は代表の選び方によらない。δ∈SL2(Z) について F∣6δ=∏if∣2(γiδ) で、γiδ も剰余類の代表系をなすから F∣6δ=F。各 f∣2γi は尖点形式の定義により ∞ で正則かつ 0 に近づく(q1/2 の正べきで展開される)から、F は ∞ で消える重さ 6 のモジュラー形式、すなわち F∈S6(SL2(Z)) である。19 第3章の定理 3.18 より S6=0 だから F=0。H は連結で、正則関数の積が恒等的に 0 なら 1 つの因子が恒等的に 0 だから、ある i で f∣2γi=0、したがって f=0。
問題 10.9 ★★ 命題 10.8 と BSD 予想を認めて、半安定な曲線の根数の公式 w=−∏p∣N(−ap) から 11a1 と 37a1 の階数の偶奇を予想し、例 10.10 と比べよ。また、w=−1 の曲線について L(E,1)=0 を BSD 予想を使わずに示せ。
解答
11a1 は N=11, a11=1 で w=−(−1)=1、37a1 は N=37, a37=−1 で w=−(1)=−1。命題 10.8 より ran はそれぞれ偶数・奇数で、BSD 予想は階数が偶数・奇数であることを予言する。実際の階数は 0 と 1 である。w=−1 なら関数等式で s=1 とおいて Λ(E,1)=−Λ(E,1)、よって Λ(E,1)=0。N1/2(2π)−1Γ(1)=0 だから L(E,1)=0。