この章の目標
- スペクトル系列の定義・ページ図の読み方・収束の意味を理解し、拡大問題が残ることを説明できる
- フィルター付き複体と二重複体からスペクトル系列が生じるしくみ(構成の概略)を理解する
- 二重複体のスペクトル系列を用いて Tor の平衡性と普遍係数定理を証明し、キュネット公式と 5 項完全列を使える
- グロタンディークのスペクトル系列とルレイ–セールのスペクトル系列の主張を述べ、H∗(CPn) を計算できる
前提:第5章。例で 09-algebraic-topology 第5章〜第6章(ホモロジー・コホモロジーとカップ積)、第8章(ファイブレーション)を使う。
6.1 動機
複体 C のコホモロジーを直接計算するのが難しいとき、C を部分複体の列 C=F0C⊃F1C⊃F2C⊃⋯ でフィルター付けし、各段の商 FpC/Fp+1C のコホモロジー(こちらは計算しやすいことが多い)から出発して、段階的に H(C) に近づくことを考える。2 段のフィルター 0⊂A⊂B なら、これは短完全列 0→A→B→B/A→0 の長完全列(定理 5.4)にほかならない。段数が増えると、長完全列の代わりに「連結射が何段にも分かれて現れる」構造が必要になる。それがスペクトル系列である。
スペクトル系列は、次のような場面で現れる。
- 二重複体(Tor の計算、キュネット公式):行と列のどちらから先にコホモロジーをとるか。
- 関手の合成の導来関手(グロタンディーク):R(F∘G) を RF と RG から計算する。
- ファイブレーション F→E→B(ルレイ–セール):E のコホモロジーを B と F のコホモロジーから計算する。
6.2 定義とページ図
定義 6.1(スペクトル系列, spectral sequence)(コホモロジー的な)スペクトル系列とは、r≥r0 ごとに与えられた対象 Erp,q(p,q∈Z)と射 dr:Erp,q→Erp+r,q−r+1 で dr∘dr=0 を満たすものと、同型
Er+1p,q≅Im(dr:Erp−r,q+r−1→Erp,q)ker(dr:Erp,q→Erp+r,q−r+1)
の組である。Er=(Erp,q)p,q を第 r ページ、p+q を全次数という。dr は全次数を 1 上げる。
ページは、横軸 p・縦軸 q の格子点に Erp,q を置いた図で表す。d2 は「右へ 2、下へ 1」、d3 は「右へ 3、下へ 2」と、ページが進むほど長く斜めに下る矢印になる。たとえば第 2 ページの左下の部分は
q=2q=1q=0E20,2E20,1E20,0p=0E21,2E21,1E21,0p=1E22,2E22,1E22,0p=2E23,2E23,1E23,0p=3
であり、d2:E20,1→E22,0, d2:E21,1→E23,0, d2:E20,2→E22,1 などが矢印である。
p<0 または q<0 で Erp,q=0 となるものを第 1 象限のスペクトル系列という。このとき (p,q) から出る dr の行き先は r>q+1 で q 座標が負になり、(p,q) に入る dr の出発点は r>p で p 座標が負になる。したがって r>max(p,q+1) では Erp,q=Er+1p,q=⋯ となり、この値を E∞p,q と書く。
定義 6.2(収束)第 1 象限のスペクトル系列が対象の列 Hn に収束するとは、各 Hn に有限のフィルター Hn=F0Hn⊃F1Hn⊃⋯⊃Fn+1Hn=0 があって
E∞p,q≅FpHp+q/Fp+1Hp+q
となることをいい、E2p,q⇒Hp+q と書く。
ホモロジー的なスペクトル系列 Ep,qr では dr:Ep,qr→Ep−r,q+r−1r(左へ r、上へ r−1)とし、増大するフィルター FpHn について Ep,q∞≅FpHp+q/Fp−1Hp+q となることを収束という。
6.3 収束と拡大問題
収束によってわかるのは Hn そのものではなく、フィルターの各段の商 E∞p,n−p だけである。Hn を復元するには、短完全列 0→Fp+1Hn→FpHn→E∞p,n−p→0 を順に解く必要がある。これを拡大問題 (extension problem) という。たとえば全次数 n で E∞0,n=E∞1,n−1=Z/2 でほかが 0 なら、Hn は Z/4 か Z/2⊕Z/2 のどちらかだが、スペクトル系列だけではどちらか決まらない(第5章の Ext1 の問題そのものである)。ただし係数が体なら Hn≅⨁p+q=nE∞p,q(次元の和)であり、各 E∞p,n−p が自由アーベル群なら短完全列がすべて分裂して同じ結論が成り立つ。
すべての r≥2 で dr=0 のとき、スペクトル系列は E2 で退化するといい、E2=E∞ である。次の形は頻繁に使う。
命題 6.3 第 1 象限のスペクトル系列 E2p,q⇒Hp+q について:
(1) E2p,q=0(p=0,1)なら、E2=E∞ であり、短完全列 0→E21,n−1→Hn→E20,n→0 がある。
(2) E2p,q=0(q=0)なら、Hn≅E2n,0 である。
証明. (1) dr(r≥2)は列 p から列 p+r への射で、どちらかは 0 なので dr=0。Hn のフィルターの商は E∞0,n と E∞1,n−1 だけなので、F2Hn=0, F1Hn≅E∞1,n−1, Hn/F1Hn≅E∞0,n。(2) 同様に dr は行 0 から行 1−r<0 への射なので 0 であり、Hn のフィルターの商は E∞n,0 だけである。□
6.4 フィルター付き複体のスペクトル系列
余鎖複体 C(n<0 で Cn=0)と部分複体の減少列 C=F0C⊃F1C⊃⋯ で、各 n について Fn+1Cn=0 となるもの(有界なフィルター)を考える。
定理 6.4(主張と構成の概略)上の状況で、第 1 象限のスペクトル系列
E1p,q=Hp+q(FpC/Fp+1C)⇒Hp+q(C)
が存在する。ここで d1 は短完全列 0→Fp+1C/Fp+2C→FpC/Fp+2C→FpC/Fp+1C→0 の連結射であり、Hn(C) のフィルターは FpHn(C)=Im(Hn(FpC)→Hn(C)) である。
構成の概略. 全次数 n=p+q を固定して上付きの q を省き、
Zrp={x∈FpC∣dx∈Fp+rC},Erp=Zrp/(Zr−1p+1+dZr−1p−r+1)
とおき、dr[x]=[dx] と定める(dx∈Fp+rC で d(dx)=0 なので dx∈Zrp+r)。Zrp は「誤差 Fp+r を除いて輪体」である元の全体であり、dr は「dx の Fp+r における主要項」を取り出す。r=0 では E0p=FpC/Fp+1C、r=1 では E1p=H(FpC/Fp+1C) となることは定義からすぐわかる。H(Er,dr)≅Er+1 の確認は、定義に従った直接の(長いが初等的な)計算である(Weibel の第 5 章を参照)。フィルターが有界なので、r が十分大きいと Zrp=Z(C)∩FpC, dZr−1p−r+1=dC∩FpC となり、
E∞p=Z(C)∩Fp+1C+dC∩FpCZ(C)∩FpC≅Fp+1H(C)FpH(C)
が得られる。□
2 段のフィルター 0=F2C⊂F1C=A⊂F0C=B の場合、E10,q=Hq(B/A), E11,q=Hq+1(A) で、d1 は長完全列の連結射 δ である(E11,−1=H0(A) のように q=−1 の項も現れるが、フィルターが有限なので同じ議論が成り立つ)。命題 6.3 (1) の短完全列 0→cokerδ→Hn(B)→kerδ→0 は長完全列と同じ情報をもつ。スペクトル系列は長完全列の一般化である。
6.5 二重複体の 2 つのスペクトル系列
定義 6.5(二重複体, double complex)対象 Cp,q(p,q≥0)と射 dh:Cp,q→Cp+1,q, dv:Cp,q→Cp,q+1 で、dh2=0, dv2=0, dhdv+dvdh=0 を満たすものを(第 1 象限の)二重複体という。Totn(C)=⨁p+q=nCp,q, d=dh+dv とおくと d2=dh2+(dhdv+dvdh)+dv2=0 であり、これを全複体 (total complex) という。
可換な微分 dhdv=dvdh が与えられた場合は、dv を (−1)pdv に取り替えれば反可換になる。
定理 6.6(二重複体のスペクトル系列)第 1 象限の二重複体 C に対し、H∗(TotC) に収束する 2 つのスペクトル系列
IE2p,q=Hhp(Hvq(C))⇒Hp+q(TotC),IIE2p,q=Hvp(Hhq(C))⇒Hp+q(TotC)
が存在する。ここで Hvq(C) は各列 Cp,∙ の dv についてのコホモロジー(p ごとに並べると dh で複体になる)であり、IIE では行と列の役割を入れ替えている(IIE2p,q は行 p の dh についての q 次コホモロジーを、dv についてとったもの)。
証明. 列によるフィルター FpTotn=⨁p′≥pCp′,n−p′ は部分複体の有界な減少列であり、Fp/Fp+1 は列 Cp,∙(微分 dv)そのものである。定理 6.4 により E1p,q=Hvq(Cp,∙) で、d1 は dh から誘導される射なので E2p,q=Hhp(Hvq(C))。行によるフィルターについても同様である。□
二つの計算の順序が同じものに収束するので、一方が簡単に計算できれば他方の情報が得られる。これが次節の応用の原理である。とくに、すべての列が q>0 で完全(Hvq=0)なら IE2 は 1 行だけなので、命題 6.3 (2) により Hn(TotC)≅Hhn(Hv0(C)) となる。以下ではホモロジー的な(添字が下で、微分が次数を下げる)二重複体にも、同じ結果を断りなく使う。
6.6 応用:平衡性・普遍係数定理・キュネット公式・5 項完全列
例 6.7(Tor の平衡性:定理 5.13 の証明)R を可換環、P∙→M と Q∙→N を射影分解とし、ホモロジー的な二重複体 Cp,q=Pp⊗Qq を考える。p を固定すると、Pp は射影的なので Pp⊗− は完全であり、
Hq(Pp⊗Q∙)=Pp⊗Hq(Q∙)={Pp⊗N0(q=0)(q>0)
よって一方のスペクトル系列は Ep,02=Hp(P∙⊗N)=Torp(M,N) の 1 行だけからなり、Hn(Tot)≅Torn(M,N)。同じ議論を q を固定して行えば Hn(Tot)≅Hn(M⊗Q∙)。したがって Torn(M,N)≅Hn(M⊗Q∙) であり、特に Torn(M,N)≅Torn(N,M) である。□
例 6.8(普遍係数定理)C∙ を自由アーベル群の鎖複体(n<0 で 0)、A をアーベル群とし、自由分解 0→Q1→Q0→A→0 をとる。二重複体 Cp⊗Qq を考える。p を固定すると Cp は自由なので例 6.7 と同様に Hn(Tot)≅Hn(C⊗A)。一方 q を固定すると Qq は自由なので Hp(C∙⊗Qq)=Hp(C)⊗Qq であり、もう一方のスペクトル系列は
E2=Torq(Hp(C),A)(q=0,1)
となる。このスペクトル系列のフィルターの添字は q で、q は 0 と 1 の 2 通りしかないので、命題 6.3 (1) と同じ理由で E2=E∞ であり、短完全列
0→Hn(C)⊗A→Hn(C⊗A)→Tor1(Hn−1(C),A)→0
を得る。C を特異鎖複体にとれば、ホモロジーの普遍係数定理である(分裂することは別の議論による)。
定理 6.9(キュネット公式, 主張)R を単項イデアル整域、C,D を自由 R 加群の鎖複体とする。自然な短完全列
0→p+q=n⨁Hp(C)⊗Hq(D)→Hn(C⊗D)→p+q=n−1⨁Tor1R(Hp(C),Hq(D))→0
が存在し、(自然ではないが)分裂する。
これはキュネットのスペクトル系列 Ep,q2=⨁s+t=qTorpR(Hs(C),Ht(D))⇒Hp+q(C⊗D)(Weibel の第 5 章)から、単項イデアル整域では Torp=0(p≥2)なので列が p=0,1 の 2 本しかないこと(命題 6.3 (1) のホモロジー版)により得られる。R が体なら Tor1=0 で Hn(C⊗D)≅⨁p+q=nHp(C)⊗Hq(D) となる。アイレンベルグ–ジルバーの定理 C∙(X×Y)≃C∙(X)⊗C∙(Y) と合わせると、積空間のホモロジーが計算できる(問題 6.5)。
命題 6.10(5 項完全列)第 1 象限のスペクトル系列 E2p,q⇒Hp+q に対し、完全列
0→E21,0→H1→E20,1 d2 E22,0→H2
が存在する。
証明. (1,0) に出入りする dr(r≥2)は q<0 または p<0 の位置とを結ぶので、E∞1,0=E21,0。(0,1) から出る dr は r=2 だけが 0 になりえず、入る dr はないので E∞0,1=kerd2。(2,0) に入る dr は r=2((0,1) から)だけなので E∞2,0=cokerd2。H1 のフィルターから短完全列 0→E∞1,0→H1→E∞0,1→0 があり、E∞2,0=F2H2⊂H2 である。これらを
0→E21,0→H1→kerd2↪E20,1d2E22,0↠cokerd2↪H2
とつなげればよい。□
6.7 グロタンディークのスペクトル系列
定理 6.11(グロタンディークのスペクトル系列, 主張のみ)A,B,C を入射対象を十分もつアーベル圏、G:A→B, F:B→C を左完全な加法関手とし、G は入射対象を F 非輪状な対象(n≥1 で RnF=0 となる対象)に写すとする。このとき各 A∈A について
E2p,q=RpF(RqG(A))⇒Rp+q(F∘G)(A)
が存在する。
証明は、A の入射分解に G を施した複体の「カルタン–アイレンベルグ分解」から二重複体を作り、定理 6.6 を適用するものである(Weibel の第 5 章)。導来関手の合成は合成の導来関手に一致しないが、その食い違いをスペクトル系列が正確に記述する。
例 6.12 (1)(ホッホシルト–セールのスペクトル系列)N を群 G の正規部分群、A を G 加群とする。定理 6.11 の関手 G として (−)N(G 加群から G/N 加群へ)を、F として (−)G/N をとると、合成は (−)G であり((−)N は入射対象を入射対象に写す)、
E2p,q=Hp(G/N,Hq(N,A))⇒Hp+q(G,A)
を得る。5 項完全列(命題 6.10)はインフレーション–制限完全列
0→H1(G/N,AN)→H1(G,A)→H1(N,A)G/N→H2(G/N,AN)→H2(G,A)
を与え、類体論で基本的な役割を果たす。(2)(ルレイのスペクトル系列)連続写像 f:X→Y と X 上のアーベル群の層 F について、G=f∗, F=Γ(Y,−)(大域切断)とすると F∘G=Γ(X,−) であり、E2p,q=Hp(Y,Rqf∗F)⇒Hp+q(X,F)(14-algebraic-geometry 第7章)。
6.8 ルレイ–セールのスペクトル系列
ファイブレーション(ファイバー束など)F→EπB について、E のコホモロジーを B と F から計算する道具がルレイ–セールのスペクトル系列である。
定理 6.13(ルレイ–セールのスペクトル系列, 主張のみ)F→E→B をファイブレーションとし、B は弧状連結かつ単連結とする。R を可換環とすると、第 1 象限のスペクトル系列
E2p,q=Hp(B;Hq(F;R))⇒Hp+q(E;R)
が存在する。さらに各ページ Er は積をもつ次数つき環で、dr は導分(x∈Erp,q に対し dr(xy)=dr(x)y+(−1)p+qx dr(y))であり、E∞ の積は H∗(E;R) のカップ積から誘導される。各 Hq(F;R) が有限生成自由 R 加群なら E2p,q≅Hp(B;R)⊗RHq(F;R) であり、E2 の積はカップ積のテンソル積(符号を除く)である。
例 6.14(H∗(CPn;Z) の計算)n≥1 とし、ホップ・ファイブレーション S1→S2n+1→CPn(S2n+1⊂Cn+1 の点をその張る複素直線に写す)を考える。B=CPn は単連結で、2n 次元の CW 複体なので p>2n で Hp(B)=0 である。H∗(S1)=Z⊕Zu(degu=1)なので、E2 は 2 行 q=0,1 だけからなり、E2p,0=Hp(B), E2p,1=Hp(B)u である。0 でありうる微分は行 1 から行 0 への d2 だけで、E3=E∞ である。
(a) H∗(S2n+1) は次数 0 と 2n+1 にしかないので、全次数 1,…,2n の E∞ はすべて 0 である。
(b) E21,0=H1(B) には d2 の出入りがないので H1(B)=E∞1,0=0。
(c) d2:E20,1=Zu→E22,0=H2(B) の核 E∞0,1 と余核 E∞2,0 はともに 0 なので、d2 は同型であり、x=d2(u) は H2(B)≅Z の生成元である。
(d) a∈E2p,0 について d2(a)∈E2p+2,−1=0 だから、導分の性質により d2(au)=(−1)pax。すなわち d2:E2p,1→E2p+2,0 は(符号を除いて)x を掛ける写像 Hp(B)→Hp+2(B) である。E∞p,1=kerd2(全次数 p+1)と E∞p+2,0=cokerd2(全次数 p+2)が (a) により 0 となる範囲 0≤p≤2n−2 で、x⋅:Hp(B)→Hp+2(B) は同型である。
(b), (c), (d) と p>2n での消滅から、H2k(B)=Zxk(0≤k≤n)、奇数次と 2n より上は 0 であり、環として
H∗(CPn;Z)≅Z[x]/(xn+1),degx=2
を得る。第 2 ページは次のとおりで、d2 は xku↦±xk+1 という右下への矢印である。
q=1q=0ZuZp=0001ZxuZx2⋯⋯⋯002n−1ZxnuZxn2n
生き残るのは E∞0,0=Z と E∞2n,1=Zxnu(全次数 2n+1)だけで、H∗(S2n+1) と合っている。この計算はポアンカレ双対性を使った計算(09-algebraic-topology 第7章)とは独立であり、しかも環構造まで一度に得られる。
6.9 読み方の練習
スペクトル系列の計算は、次の手順で行うのが定石である。
- ページ図を描く。 横軸 p、縦軸 q の格子に E2p,q を書き込み、0 になる領域(第 1 象限の外、既知の消滅)を塗りつぶす。
- 可能な微分を列挙する。 dr の双次数は (r,1−r) なので、出発点と行き先の両方が 0 でない矢印だけが問題になる。行や列が少なければ、ほとんどの dr が自動的に 0 になる(命題 6.3)。
- 既知の答えと突き合わせる。 全空間が可縮なら E∞ は (0,0) 以外 0、全空間の Hn が小さければ全次数 n の E∞ も小さい。これから未知の E2 の項や dr が決まる(例 6.14 の (a)〜(d))。
- 積の構造を使う。 dr が導分であることから、生成元での値だけで dr 全体が決まる。
- 最後に拡大問題を解く。 係数が体なら不要、そうでなければ別の情報(普遍係数定理、ねじれの有無など)を使う。
まとめ
- スペクトル系列はページ Er と微分 dr(双次数 (r,1−r))の列で、Er+1 は Er のコホモロジーである。第 1 象限なら各項は有限回で安定し E∞ に達する。
- 収束 E2⇒H は E∞ が H のフィルターの商であることを意味し、H を復元するには拡大問題が残る。
- フィルター付き複体から E1=H(grC) のスペクトル系列が生じ、2 段のフィルターでは長完全列に一致する。
- 二重複体の全複体のコホモロジーには 2 つのスペクトル系列が収束し、その比較から Tor の平衡性・普遍係数定理・キュネット公式が得られる。
- 5 項完全列は低次の項の関係を与え、群のコホモロジーのインフレーション–制限完全列になる。
- グロタンディークのスペクトル系列は合成関手の導来関手を計算し、ホッホシルト–セールやルレイのスペクトル系列を含む。
- ルレイ–セールのスペクトル系列と積構造により H∗(CPn)=Z[x]/(xn+1) が計算できる。
演習問題
問題 6.1 ★ 第 1 象限のスペクトル系列で、Er2,1 に出入りする微分 dr(r≥2)のうち 0 でありうるものをすべて挙げ、E∞2,1=E32,1 を確かめよ。
解答
出る微分 dr:Er2,1→Er2+r,2−r は r≥3 で q<0 の位置に行くので、0 でありうるのは d2:E22,1→E24,0 だけ。入る微分 dr:Er2−r,r→Er2,1 は r≥3 で p<0 から来るので、0 でありうるのは d2:E20,2→E22,1 だけ。よって r≥3 で Er2,1 は変化せず、E∞2,1=E32,1(max(p,q+1)=2 と一致)。
問題 6.2 ★ (1) アーベル群 H とその部分群 F で F≅H/F≅Z/2 となる例を、H≅Z/4 と H≅(Z/2)2 の両方について挙げよ。(2) ベクトル空間の有限のフィルター H=F0⊃F1⊃⋯⊃Fm=0 について H≅⨁pFp/Fp+1 を示せ。
解答
(1) H=Z/4, F=2Z/4 と、H=(Z/2)2, F=Z/2⊕0。スペクトル系列の E∞ だけではこの二つを区別できない。
(2) 各 p で Fp=Fp+1⊕Wp となる補空間 Wp をとる(基底の延長)。Wp≅Fp/Fp+1 で、帰納的に H=W0⊕W1⊕⋯⊕Wm−1。
問題 6.3 ★★ 第 1 象限のスペクトル系列 E2p,q⇒Hp+q で E2p,q=0(q=0,1)とする。長完全列
⋯→Hn→E2n−1,1 d2 E2n+1,0→Hn+1→E2n,1 d2 E2n+2,0→⋯
を導け(円周束のギシン完全列はこの形である)。
解答
0 でありうる微分は d2:E2p,1→E2p+2,0 だけなので E3=E∞ で、E∞p,1=kerd2, E∞p,0=coker(d2:E2p−2,1→E2p,0)。Hn のフィルターの商は E∞n,0(部分)と E∞n−1,1(商)だけなので、短完全列 0→E∞n,0→Hn→E∞n−1,1→0 がある。これらと完全列 0→kerd2→E2n−1,1d2E2n+1,0→cokerd2→0 を
Hn↠E∞n−1,1=kerd2↪E2n−1,1d2E2n+1,0↠cokerd2=E∞n+1,0↪Hn+1
とつなげると、各点での完全性は構成から直ちに従う。
問題 6.4 ★★ n≥2 とし、道のファイブレーション ΩSn→PSn→Sn(PSn は基点から出る道の空間で可縮)にルレイ–セールのスペクトル系列を適用して、Hq(ΩSn;Z) は q が n−1 の倍数なら Z、それ以外は 0 であることを示せ。
解答
H∗(Sn) は自由なので E2p,q=Hp(Sn;Hq(ΩSn)) は p=0,n で Hq(ΩSn)、それ以外は 0 である(2 本の列)。0 でありうる微分は dn:En0,q→Enn,q−n+1 だけで、En+1=E∞。全空間は可縮なので E∞ は (0,0) 以外 0 である。よって q≥1 で dn は単射、すべての q′≥0 で dn:En0,q′+n−1→Enn,q′ は全射である。1≤q≤n−2 では行き先が q−n+1<0 なので Hq(ΩSn)=0、q≥n−1 では Hq(ΩSn)≅Hq−n+1(ΩSn)。H0=Z(ΩSn は弧状連結)から主張が従う。
問題 6.5 ★★ (1) 次数 1, 0 に置いた C=(0→Z2Z→0) について、H∗(C⊗C) を直接計算し、キュネット公式(定理 6.9)と比べよ。(2) H∗(RP2)=(Z,Z/2,0) を用いて H∗(RP2×RP2;Z) を求めよ。
解答
(1) C の基底を e1,e0(de1=2e0)とする。C⊗C は次数 2, 1, 0 で Z, Z2, Z であり、d(a⊗b)=da⊗b+(−1)∣a∣a⊗db より d(e1⊗e1)=2e0⊗e1−2e1⊗e0、d(e0⊗e1)=d(e1⊗e0)=2e0⊗e0。よって H2=0、H1=⟨e0⊗e1−e1⊗e0⟩/⟨2(e0⊗e1−e1⊗e0)⟩=Z/2、H0=Z/2。キュネット公式では H0=Z/2⊗Z/2、H1=Tor1(Z/2,Z/2)=Z/2(H1(C)=0 なのでテンソルの項はない)で一致する。
(2) H0=Z、H1=H0⊗H1⊕H1⊗H0=(Z/2)2、H2=H1⊗H1=Z/2(Tor の項は Tor1(Z,Z/2)=0)、H3=Tor1(H1,H1)=Z/2、H4=0。F2 係数の普遍係数定理で確かめると、ベッチ数は 1,2,3,2,1 となり、(1+t+t2)2 の係数と一致する。
問題 6.6 ★★★(ワンの完全列)n≥2 とし、F→E→Sn をファイブレーションとする。長完全列
⋯→Hq(E)→Hq(F) θ Hq−n+1(F)→Hq+1(E)→Hq+1(F)→⋯
が存在することを示せ。(ヒント:問題 6.4 と同様に 2 本の列 p=0,n のスペクトル系列を考え、θ=dn とする。)
解答
E2p,q は p=0,n で Hq(F)、それ以外は 0 であり、0 でありうる微分は dn:En0,q→Enn,q−n+1 だけなので、E∞0,q=kerdn, E∞n,q=coker(dn:En0,q+n−1→Enn,q)。Hm(E) のフィルターの商は E∞n,m−n(部分)と E∞0,m(商)なので、0→E∞n,m−n→Hm(E)→E∞0,m→0 が完全である。問題 6.3 の解答と同様に
Hq(E)↠kerdn↪Hq(F)dnHq−n+1(F)↠cokerdn=E∞n,q−n+1↪Hq+1(E)
とつなげればよい。E=PSn の場合が問題 6.4 である。