Lemma数学ロードマップ

08 · ステージ 5 学部専門

微分方程式

求積法、解の存在と一意性、線形系、安定性、境界値問題、フーリエ級数、熱・波動・ラプラス方程式

7 章目安 60〜80 時間演習 49 問実験 1

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前提となる科目∫01 微分積分λ02 線形代数
この科目の次にΔu18 偏微分方程式

章の一覧

  1. 1 常微分方程式入門と求積法目安 9〜12 時間 · 演習 6 問
  2. 2 解の存在と一意性目安 9〜12 時間 · 演習 6 問
  3. 3 線形微分方程式系目安 9〜12 時間 · 演習 8 問
  4. 4 安定性と力学系目安 9〜12 時間 · 演習 6 問
  5. 5 境界値問題とスツルム–リウヴィル理論目安 7〜10 時間 · 演習 8 問
  6. 6 フーリエ級数目安 8〜11 時間 · 演習 8 問 · 実験 1
  7. 7 古典的偏微分方程式目安 9〜12 時間 · 演習 7 問

概要

自然法則の多くは「量そのもの」ではなく「量の変化率」についての法則として述べられます。放射性物質の崩壊速度は残っている量に比例し、ばねにつながれた物体の加速度は変位に比例し、棒の中の温度は曲がり具合(2 階導関数)に比例して変化します。こうした法則を式にしたものが微分方程式 (differential equation) です。

この科目の標語は 「解けるものは解き、解けないものは理論で理解する」 です。第1章では求積法(積分の計算に帰着させる方法)で解ける方程式を一通り解きます。しかし y′=x2+y2y' = x^2 + y^2 のような一見単純な方程式でさえ求積法では解けないことが知られており、解ける方程式はむしろ例外です。そこで第2章では、解を具体的に書かずに解の存在と一意性を証明し(ピカール–リンデレフの定理、ペアノの定理)、解がどこまで延長できるか、初期値にどう依存するかを調べます。第3章は解の空間がベクトル空間になる線形方程式の構造論、第4章は解を求めずに平衡点の安定性や周期軌道の存在を判定する力学系の方法です。

後半では境界値問題に進みます。第5章のスツルム–リウヴィル理論は、線形代数の「対称行列は直交行列で対角化できる」を微分作用素に拡張したものです。第6章のフーリエ級数はその最も重要な実例であり、第7章ではこれらを使って熱方程式・波動方程式・ラプラス方程式という古典的な偏微分方程式を解き、最大値原理やエネルギー法によって解の一意性と安定性を示します。

微分方程式は解析学のほぼすべての分野と結びついています。解の存在定理は完備距離空間とコンパクト性(03-topology)の応用であり、境界値問題の固有関数展開は関数解析(10-functional-analysis)のコンパクト作用素のスペクトル理論で完成します。多様体上のベクトル場のフロー(07-manifolds)、偏微分方程式論(18-pde)、確率論のブラウン運動(11-probability)も本科目の直接の続きです。

前提知識

  • 01-calculus 微分積分学:1 変数の微分と積分(第4・5章)、関数列の一様収束と項別微分(第6章)、多変数の微分・陰関数定理(第7・8章)。第4・7章ではグリーンの定理・発散定理(第10章)も使う。
  • 02-linear-algebra 線形代数:固有値と対角化(第5章)、ジョルダン標準形と行列の指数関数(第6章)、内積空間(第7章)。
  • 03-topology 集合と位相:アスコリ–アルツェラの定理(第5章)、縮小写像の原理(第7章)。第2章の存在定理で使う。
  • 複素関数論(05-complex-analysis)は必須ではないが、第3章のべき級数解と第7章のポアソン積分の背景として知っていると見通しがよい。

到達目標

  • [ ] 物理・生物の現象から常微分方程式を立て、変数分離形・1 階線形・完全微分形・2 階定数係数線形などの方程式を求積法で解ける
  • [ ] 共鳴・うなり・特異解といった現象を具体的な解の式で説明できる
  • [ ] ピカール–リンデレフの定理を逐次近似と縮小写像の両方で証明し、リプシッツ条件が崩れると一意性が失われる例を挙げられる
  • [ ] グロンウォールの不等式を証明し、解の延長・爆発・初期値への連続依存性の議論に使える
  • [ ] ペアノの存在定理をアスコリ–アルツェラの定理から証明できる
  • [ ] 線形系の解空間が nn 次元であることを示し、基本解行列・リウヴィルの公式・定数変化法を使える
  • [ ] 行列の指数関数を用いて定数係数線形系を解き、フロケの定理で周期係数系の安定性を議論できる
  • [ ] 2 次元線形系の相図を分類し、線形化とリャプノフ関数で平衡点の安定性を判定できる
  • [ ] 極限集合・ポアンカレ–ベンディクソンの定理・ラサールの不変性原理を使って、ファン・デル・ポール方程式やロトカ–ヴォルテラ方程式の振る舞いを説明できる
  • [ ] グリーン関数を構成し、スツルム–リウヴィル問題の固有値の実数性・固有関数の直交性・比較定理を証明できる
  • [ ] フーリエ級数の各点収束・フェイエールの定理・パーセヴァルの等式を証明し、バーゼル問題や等周不等式に応用できる
  • [ ] 熱方程式・波動方程式・ラプラス方程式を変数分離・ダランベールの公式・ポアソン核で解き、最大値原理やエネルギー法で一意性を示せる
  • [ ] アダマールの例を用いて、偏微分方程式の問題が適切であるとはどういうことかを説明できる

章立て

  1. 第1章 常微分方程式入門と求積法 — 人口・放射性崩壊・振動・ロジスティックのモデル、方向場、変数分離形、同次形、1 階線形方程式(積分因子・定数変化法)、ベルヌーイ型・リッカチ型、完全微分形と積分因子、2 階定数係数線形方程式と共鳴、クレロー型と特異解。
  2. 第2章 解の存在と一意性 — 初期値問題と積分方程式、リプシッツ条件、ピカール–リンデレフの定理(逐次近似・縮小写像による 2 通りの証明)、グロンウォールの不等式、一意性の破れ、解の延長と最大存在区間、爆発解、初期値とパラメータへの連続依存性、微分可能性(概略)、ペアノの存在定理。
  3. 第3章 線形微分方程式系 — 解空間の次元、基本解行列、ロンスキアンとリウヴィルの公式、定数変化法、行列の指数関数による定数係数系の解法、nn 階線形方程式、フロケの定理とヒル方程式・マシュー方程式、べき級数解とフロベニウスの方法(ベッセル方程式・ルジャンドル方程式)。
  4. 第4章 安定性と力学系 — 自励系と相空間、2 次元線形系の相図の分類、リャプノフ安定性、線形化による安定性判定、リャプノフ関数、ハートマン–グロブマンの定理(主張)、ハミルトン系と振り子、極限集合とラサールの不変性原理、ポアンカレ–ベンディクソンの定理(主張)とファン・デル・ポール方程式、ロトカ–ヴォルテラ方程式。
  5. 第5章 境界値問題とスツルム–リウヴィル理論 — 境界値問題の非存在・非一意性、グリーン関数の構成、スツルム–リウヴィル問題と自己随伴性、固有値の実数性・単純性と固有関数の直交性、スツルムの比較定理と振動定理、固有関数展開(主張)、レイリー商。
  6. 第6章 フーリエ級数 — フーリエ係数、ベッセルの不等式、リーマン–ルベーグの補題、ディリクレ核と各点収束、ギブス現象、フェイエールの定理、完全性とパーセヴァルの等式、一様収束と項別微分、バーゼル問題・等周不等式・ワイエルシュトラスの近似定理への応用、発散する例(主張)。
  7. 第7章 古典的偏微分方程式 — 2 階線形偏微分方程式の分類、特性曲線法、熱方程式(フーリエ級数による解、熱核、最大値原理)、波動方程式(ダランベールの公式、エネルギー保存、有限伝播速度)、ラプラス方程式(平均値の性質、最大値原理、ポアソン核)、フーリエ変換の導入、適切性とアダマールの例。

学習時間の目安と進め方

  • 目安は 1 章あたり 8〜12 時間、全体で 60〜80 時間です。学部 2〜3 年次の「常微分方程式」「フーリエ解析・偏微分方程式入門」の 2 科目分に相当します。
  • 第1章は手を動かす章です。 例題の計算を自分でたどり、得られた解を元の方程式に代入して確かめる習慣をつけてください。解の式が正しいかどうかは代入すれば必ずわかります。
  • 第2章が理論の中心です。 ピカール–リンデレフの定理の 2 つの証明、グロンウォールの不等式、解の延長定理は、以降のすべての章で使います。定理の仮定(リプシッツ条件、領域が開集合であること)を外すと何が起こるかを、本文の反例で確認してください。
  • 第3章と第4章は線形代数の知識をよく使います。ジョルダン標準形と行列の指数関数(線形代数 第6章)を復習してから読むとよいでしょう。
  • 第5〜7章は一続きの話です。熱方程式を変数分離で解くと固有値問題(第5章)とフーリエ級数(第6章)が現れる、という流れを意識してください。先に第7章の 7.3 節を眺めてから第5・6章を読むのも一つの方法です。
  • 本科目では測度論を仮定せず、リーマン積分の範囲で議論します。L2L^2 空間の完備性など、ルベーグ積分が必要になる箇所ではその旨を明記しています(06-measure-integration)。

参考文献

  • 高橋陽一郎『微分方程式入門』(東京大学出版会) — 常微分方程式の入門書。求積法から力学系的な見方までを扱い、解の定性的な振る舞いの理解を重視している。
  • 笠原晧司『微分方程式の基礎』(朝倉書店) — 常微分方程式の基礎理論(存在と一意性、線形方程式など)を丁寧に述べた標準的な教科書。
  • 柳田英二・栄伸一郎『常微分方程式論』(朝倉書店) — 常微分方程式の理論を、安定性や力学系の観点も含めて学部上級向けに解説している。
  • 金子晃『偏微分方程式入門』(東京大学出版会) — 古典的な偏微分方程式から現代的な理論への橋渡しとなる入門書。本科目第7章の続きとして読める。
  • V. I. Arnold, Ordinary Differential Equations (Springer) — ベクトル場と相流という幾何学的な視点から常微分方程式を論じた古典的名著。図と直観が豊富。
  • M. W. Hirsch, S. Smale, R. L. Devaney, Differential Equations, Dynamical Systems, and an Introduction to Chaos (Academic Press) — 線形系から力学系・カオスまでを、多くの応用例とともに解説した英語の標準的教科書。
  • E. M. Stein, R. Shakarchi, Fourier Analysis (Princeton University Press) — フーリエ級数とフーリエ変換の入門書。良い核(近似単位元)の考え方と多彩な応用が特徴。
  • W. A. Strauss, Partial Differential Equations: An Introduction (Wiley) — 熱・波動・ラプラス方程式を中心とする偏微分方程式の標準的な入門書。演習問題が豊富。

次に学ぶもの

  • 10-functional-analysis 関数解析 — 第5章のスツルム–リウヴィル問題の固有関数展開はコンパクト自己共役作用素のスペクトル定理(関数解析 第5章)で証明され、第6章の「フーリエ級数が発散する連続関数の存在」は一様有界性原理(関数解析 第3章)から従う。熱方程式は作用素半群(関数解析 第7章)の典型例である。
  • 18-pde 偏微分方程式論 — 超関数・フーリエ変換・ソボレフ空間を用いて、第7章の古典的な方程式を一般の領域・一般の係数へ拡張する。
  • 07-manifolds 多様体 — 第2章の存在と一意性の定理から、多様体上のベクトル場のフロー(多様体 第4章)が構成される。
  • 11-probability 確率論 — 熱核はブラウン運動の推移確率密度であり、熱方程式と確率論は深く結びついている(確率論 第7章)。
  • 20-problems 総合演習 第7章 — 大学院入試レベルの微分方程式の問題で力試しをする。