概要
「分数のわり算は、なぜひっくり返してかけるの?」「どうして 0 でわってはいけないの?」——子どもにこう聞かれて、答えに詰まったことはないでしょうか。算数は大人にとって「できて当たり前」のものですが、「なぜそうなるのか」を説明しようとすると、意外なほど難しいものです。
この科目は、小学校 6 年間の算数を、子どもに教える保護者と算数から学び直したい大人のためにまとめ直したものです。計算の練習ではなく、次のことを中心に書いています。
- その計算や公式がなぜ成り立つのか(大人が納得できる説明)
- 子どもがどこでつまずきやすいのか、その原因
- 子どもにどう伝えればよいか(具体物・図・ことばの例)
- その内容が中学・高校・大学の数学でどう育っていくのか
算数は数学全体の土台です。位取り記数法・分数・比例・面積といった内容は、大学の数学(有理数の構成、線形写像、積分)にまでつながっています。そのつながりは各章の「この先の数学では」と、数学の 7 本の糸 で紹介します。
前提知識
- 特にありません。小学校の算数を一度学んだことのある大人なら読めます。
- 本文は大人向けに書いています。子どもと一緒に使うときは、下の「子どもと一緒に使うときは」を参考にしてください。
学年との対応
| 章 | 主に学ぶ学年 |
|---|---|
| 第1章 数と位取り記数法 | 1〜4 年 |
| 第2章 かけ算とわり算の意味 | 2〜4 年 |
| 第3章 計算のきまりと整数の性質 | 3〜5 年(素数と素因数分解は中学 1 年) |
| 第4章 分数と小数 | 2〜6 年 |
| 第5章 割合・比・比例 | 4〜6 年 |
| 第6章 図形と量 | 1〜6 年 |
| 第7章 データの活用と場合の数 | 1〜6 年 |
現行の学習指導要領(2017 年告示、2020 年度から実施)にもとづく目安です。教科書によって扱う時期が多少前後します。
到達目標
- [ ] 位取り記数法のしくみから、たし算・ひき算・かけ算・わり算の筆算の手順を説明できる
- [ ] かけ算の意味(1 つ分の大きさ × いくつ分)と、わり算の 2 つの意味(等分除・包含除)を区別して説明できる
- [ ] 交換・結合・分配法則を使った計算の工夫や、倍数の見分け方が正しい理由を説明できる
- [ ] 分数の 4 つの意味を区別し、分数のわり算で「ひっくり返してかける」理由を 2 通り以上で説明できる
- [ ] 割合の問題で「何をもとにする量(1)とみるか」を、図を使って説明できる
- [ ] 三角形・平行四辺形・台形・円の面積の公式がなぜそうなるかを、図を使って説明できる
- [ ] 平均や代表値の意味と、場合の数を落ちや重なりなく数える方法を説明できる
- [ ] 子どもがつまずいたとき、その原因を推測し、具体物や図を使って説明し直せる
章立て
| 章 | 内容 |
|---|---|
| 第1章 数と位取り記数法 | 数えることの意味、0 の役割、十進位取り記数法、大きな数、たし算・ひき算の意味と筆算のしくみ、ほかの記数法 |
| 第2章 かけ算とわり算の意味 | かけ算の意味、九九の構造、かけ算の式の順序をめぐる議論、わり算の 2 つの意味、あまりのあるわり算、筆算のしくみ、0 でわれない理由 |
| 第3章 計算のきまりと整数の性質 | 交換・結合・分配法則、計算の順序、偶数と奇数、倍数と約数、倍数の見分け方、素数 |
| 第4章 分数と小数 | 小数と位取り、小数のかけ算・わり算、分数の 4 つの意味、約分と通分、分数の計算、分数のわり算はなぜひっくり返すのか、循環小数と 0.999… = 1 |
| 第5章 割合・比・比例 | 単位量あたりの大きさ、速さ、割合と百分率、比、比例と反比例 |
| 第6章 図形と量 | 角と三角形の内角の和、合同・対称・拡大と縮小、面積の公式の理由、円周率と円の面積、体積 |
| 第7章 データの活用と場合の数 | グラフの使い分け、平均と代表値、度数分布、場合の数、確率への入口 |
学習時間の目安と進め方
- 1 章あたり 2〜4 時間(本文と演習問題)、全体で 20〜30 時間ほどです。
- お子さんがいま学んでいる単元の章から読んでかまいません。各章はなるべく単独で読めるように書いています。
- 各章の「子どもに伝えるには」は、そのまま使える言い方の例です。お子さんに合わせてアレンジしてください。
- 演習問題の【説明】は、実際に子どもに説明するつもりで紙に書いてみてください。書けないところが、まだ自分の中で整理できていないところです。
子どもと一緒に使うときは
- 【親子で】の問題は、子どもと一緒に取り組めるように作っています。答えを教えるより、「どうやって考えたの?」と聞いて子どもに説明してもらうと、理解が深まります。
- 子どもが間違えたときは、まず「どう考えたのか」を聞いてください。間違いの多くには、子どもなりの筋の通った理由があります。各章の「つまずきポイント」が、その理由を推測する手がかりになります。
- 学校と違う説明をするときは、どちらも正しいことを伝え、学校のやり方を否定しないようにしましょう。
- 経験値は親子で一緒にためてもかまいません(経験値・レベル・バッジ)。
参考文献
- 遠山啓『数学入門(上・下)』(岩波新書):数学者であり数学教育の改革者でもあった著者が、数とは何かから微積分までを語る古典的な入門書です。量にもとづく算数の見方を学べます。
- 文部科学省『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 算数編』:小学校で何を、何年生で、どんなねらいで学ぶかの公式の解説です。学校の教え方の意図を知りたいときに。
- L. Ma, Knowing and Teaching Elementary Mathematics (Routledge):分数のわり算などを例に、算数を深く理解して教えるとはどういうことかを、教師への聞き取り調査から描いた本です(英語)。
- H. Wu, Understanding Numbers in Elementary School Mathematics (American Mathematical Society):小学校の整数・分数・小数を、数学者が大人向けに正確に解説した本です(英語)。
- S. Beckmann, Mathematics for Elementary Teachers with Activities (Pearson):小学校教員養成のための教科書で、説明のしかたや図の使い方が豊富です(英語)。
次に学ぶもの
- P2 中学数学:負の数・文字式・関数・図形の証明。算数で考えた「なぜ」を、文字と証明で書けるようになります。
- 診断テスト 2(中学数学):中学数学をどのくらい覚えているかを確かめたいときに。