Lemma

第3章点推定

目安 8〜12 時間定理など 8演習 6 問
ここまでの道

この章の目標

  • 推定量を不偏性・一致性・平均二乗誤差で比べ、バイアス–バリアンス分解を使える
  • モーメント法と最尤法で推定量を作り、正規・ポアソン・指数・二項分布の最尤推定量を導ける
  • 十分統計量を分解定理で見つけ、ラオ–ブラックウェルの定理で推定量を改良できる
  • フィッシャー情報量を計算し、クラメール–ラオの不等式をその仮定(正則条件)とともに説明できる
  • 最尤推定量の漸近正規性を仮定つきで述べ、標準誤差の計算に使える
  • 正則条件が崩れる例や、不偏性にこだわると困る例を挙げられる

前提:第1章、第2章。積分記号下の微分の十分条件は 06 第3章 定理 3.25 にあるが、本章ではそれを仮定として扱うので、測度論は使わない。

製造ラインの不良率、Web サイトの購入率、1 時間あたりの問い合わせ件数、機械が故障するまでの時間。実務で知りたい量の多くは確率分布のパラメータであり、データからその値を一つの数で推し量ることを点推定 (point estimation) という。推定に使う式(推定量)は標本の関数なので確率変数であり、その良し悪しは一回の推定値ではなく分布で判断しなければならない。

本章では良さの基準と推定量の作り方(モーメント法・最尤法)を学び、十分統計量とフィッシャー情報量を使って、不偏推定量の分散の下界(クラメール–ラオの不等式)と推定量の改良法(ラオ–ブラックウェルの定理)を証明する。これらの定理の仮定が崩れたときに何が起こるかにも注意を払う。

本章を通じて、観測値 x1,…,xnx_1, \dots, x_n を、確率関数または密度 f(x;θ)f(x; \theta) をもつ分布からの i.i.d. 標本 X1,…,XnX_1, \dots, X_n の実現値とみなす。θ\theta は未知のパラメータ (parameter) で、パラメータ空間 Θ\Theta を動く。真の値が θ\theta のときの確率・期待値・分散を PθP_\theta, EθE_\theta, Var⁡θ\operatorname{Var}_\theta と書き、離散の場合は積分を和に読み替える。分布の記号は第1章に従う(Exp⁡(λ)\operatorname{Exp}(\lambda), Gamma⁡(α,λ)\operatorname{Gamma}(\alpha, \lambda) の λ\lambda は率)。

3.1 推定量の良さ

定義 3.1(推定量, estimator)統計量(第2章)のうち、θ\theta やその関数 g(θ)g(\theta) を推し量るために用いるものを推定量といい、θ^=θ^(X1,…,Xn)\hat{\theta} = \hat{\theta}(X_1, \dots, X_n) などと書く。観測値を代入した値 θ^(x1,…,xn)\hat{\theta}(x_1, \dots, x_n) を推定値 (estimate) という。

定義 3.2 Θ⊂R\Theta \subset \mathbb{R} とし、θ^\hat{\theta} を θ\theta の推定量とする。

  1. b(θ)=Eθ[θ^]−θb(\theta) = E_\theta[\hat{\theta}] - \theta をバイアス (bias) という。すべての θ∈Θ\theta \in \Theta で b(θ)=0b(\theta) = 0 のとき、θ^\hat{\theta} を不偏推定量 (unbiased estimator) という。
  2. MSE⁡θ(θ^)=Eθ[(θ^−θ)2]\operatorname{MSE}_\theta(\hat{\theta}) = E_\theta[(\hat{\theta} - \theta)^2] を平均二乗誤差 (mean squared error) という。
  3. 標本の大きさ nn ごとの推定量の列 θ^n\hat{\theta}_n が、すべての θ∈Θ\theta \in \Theta について θ^n→Pθ\hat{\theta}_n \xrightarrow{P} \theta(n→∞n \to \infty)を満たすとき、一致推定量 (consistent estimator) という。

「すべての θ\theta で」が要点である。つねに 55 と答える推定量は、真の値がたまたま 55 なら誤差が 00 だが、不偏でも一致的でもない。

定理 3.3(バイアス–バリアンス分解, bias–variance decomposition)Eθ[θ^2]<∞E_\theta[\hat{\theta}^2] < \infty ならば

MSE⁡θ(θ^)=Var⁡θ(θ^)+b(θ)2\operatorname{MSE}_\theta(\hat{\theta}) = \operatorname{Var}_\theta(\hat{\theta}) + b(\theta)^2

証明. m=Eθ[θ^]m = E_\theta[\hat{\theta}] とおくと (θ^−θ)2=(θ^−m)2+2(θ^−m)(m−θ)+(m−θ)2(\hat{\theta} - \theta)^2 = (\hat{\theta} - m)^2 + 2(\hat{\theta} - m)(m - \theta) + (m - \theta)^2。期待値をとると中央の項は 2(m−θ)Eθ[θ^−m]=02(m - \theta)E_\theta[\hat{\theta} - m] = 0 になり、第 1 項は Var⁡θ(θ^)\operatorname{Var}_\theta(\hat{\theta})、第 3 項は b(θ)2b(\theta)^2 である。□\square

命題 3.4 すべての θ\theta で MSE⁡θ(θ^n)→0\operatorname{MSE}_\theta(\hat{\theta}_n) \to 0 ならば、θ^n\hat{\theta}_n は一致推定量である。特に、バイアスと分散がともに 00 に収束すれば一致推定量である。

証明. マルコフの不等式(第1章 定理 1.25)を (θ^n−θ)2(\hat{\theta}_n - \theta)^2 に使うと、ε>0\varepsilon > 0 について Pθ(∣θ^n−θ∣≥ε)≤MSE⁡θ(θ^n)/ε2→0P_\theta(\lvert \hat{\theta}_n - \theta \rvert \geq \varepsilon) \leq \operatorname{MSE}_\theta(\hat{\theta}_n)/\varepsilon^2 \to 0。後半は定理 3.3 による。□\square

例 3.5(分散の推定量の比較)Xi∼N(μ,σ2)X_i \sim N(\mu, \sigma^2)、n≥2n \geq 2 とし、Q=∑i=1n(Xi−Xˉ)2Q = \sum_{i=1}^n (X_i - \bar{X})^2 の定数倍 cQcQ で σ2\sigma^2 を推定する。第2章の定理 2.8 より Q/σ2∼χ2(n−1)Q/\sigma^2 \sim \chi^2(n-1) で、その平均は n−1n - 1、分散は 2(n−1)2(n - 1) だから、定理 3.3 より

MSE⁡(cQ)=σ4{2(n−1)c2+((n−1)c−1)2}\operatorname{MSE}(cQ) = \sigma^4 \bigl\lbrace 2(n-1)c^2 + \bigl((n-1)c - 1\bigr)^2 \bigr\rbrace

cc で微分して 00 とおくと 2c+(n−1)c−1=02c + (n-1)c - 1 = 0 となり、c=1/(n+1)c = 1/(n+1) で最小になる。

cc 推定量 バイアス 平均二乗誤差
1/(n−1)1/(n-1) 不偏分散 S2S^2 00 2σ4/(n−1)2\sigma^4/(n-1)
1/n1/n σ^2=Q/n\hat{\sigma}^2 = Q/n(例 3.13) −σ2/n-\sigma^2/n (2n−1)σ4/n2(2n-1)\sigma^4/n^2
1/(n+1)1/(n+1) Q/(n+1)Q/(n+1) −2σ2/(n+1)-2\sigma^2/(n+1) 2σ4/(n+1)2\sigma^4/(n+1)

n=10n = 10 なら平均二乗誤差は順に 0.222σ40.222\sigma^4, 0.190σ40.190\sigma^4, 0.182σ40.182\sigma^4 である。少し小さめに推定してバイアスを入れると、分散の減少がそれを上回る。不偏推定量が平均二乗誤差の意味で最良とは限らない(この比較は正規分布の 4 次モーメントによるもので、裾の重い分布では変わりうる)。一方、すべての θ\theta で平均二乗誤差を最小にする推定量は一般に存在しない(μ\mu を cXˉc\bar{X} で推定するとき、平均二乗誤差 c2σ2/n+(c−1)2μ2c^2\sigma^2/n + (c-1)^2\mu^2 を最小にする cc は未知の μ,σ2\mu, \sigma^2 に依存する)。そこで不偏推定量の中で比べる、漸近的に比べる、などの工夫をする。

注意 3.6 不偏性は変数変換で保たれない。S2S^2 は σ2\sigma^2 の不偏推定量だが、SS が定数でなければ 0<Var⁡(S)=σ2−E[S]20 < \operatorname{Var}(S) = \sigma^2 - E[S]^2 なので E[S]<σE[S] < \sigma であり、SS は σ\sigma の不偏推定量ではない。

ヒント

実務では 推定量を選ぶ基準は目的で決まる。一つの値を正確に当てたいなら平均二乗誤差が基準で、機械学習の正則化(第6章)はわざとバイアスを入れて分散を減らす。一方、店舗ごとの推定売上を全社で合計するように多数の推定値を合算するときは、独立な kk 個の誤差の標準偏差は k\sqrt{k} 倍にしかならないが、同じ向きのバイアスは kk 倍に積み上がる。

3.2 モーメント法

最も素朴な推定法は、母集団のモーメントを標本のモーメントで置き換えることである。

定義 3.7(モーメント法, method of moments)θ=(θ1,…,θk)\theta = (\theta_1, \dots, \theta_k) とし、μj(θ)=Eθ[X1j]\mu_j(\theta) = E_\theta[X_1^j]、mj=1n∑i=1nXijm_j = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n X_i^j とする。連立方程式 μj(θ)=mj\mu_j(\theta) = m_j(j=1,…,kj = 1, \dots, k)の解 θ~\tilde{\theta} をモーメント推定量という。

例 3.8 (1) Gamma⁡(α,λ)\operatorname{Gamma}(\alpha, \lambda) では E[X]=α/λE[X] = \alpha/\lambda、Var⁡(X)=α/λ2\operatorname{Var}(X) = \alpha/\lambda^2 なので、σ^2=m2−m12=1n∑i(Xi−Xˉ)2\hat{\sigma}^2 = m_2 - m_1^2 = \frac{1}{n}\sum_i (X_i - \bar{X})^2 とおいて λ~=Xˉ/σ^2\tilde{\lambda} = \bar{X}/\hat{\sigma}^2, α~=Xˉ2/σ^2\tilde{\alpha} = \bar{X}^2/\hat{\sigma}^2。α\alpha の最尤推定量は閉じた式で書けないので、これは数値計算の初期値にも使われる。

(2) U(0,θ)U(0, \theta) では E[X]=θ/2E[X] = \theta/2 だから θ~=2Xˉ\tilde{\theta} = 2\bar{X}。これは不偏で、分散は 4⋅θ212n=θ23n4 \cdot \frac{\theta^2}{12n} = \frac{\theta^2}{3n} である。ただし観測値が 0.1,0.1,0.90.1, 0.1, 0.9 なら θ~=0.733…\tilde{\theta} = 0.733\ldots と、観測された 0.90.9 より小さい。データと矛盾する推定値を出しうるのはモーメント法の弱点である。

モーメント推定量は多くの場合に一致推定量である。Eθ[∣X1∣k]<∞E_\theta[\lvert X_1 \rvert^k] < \infty で、θ=h(μ1(θ),…,μk(θ))\theta = h(\mu_1(\theta), \dots, \mu_k(\theta)) となる hh がその点で連続ならば、大数の法則(第1章 定理 1.27)より各 mj→Pμj(θ)m_j \xrightarrow{P} \mu_j(\theta) であり、hh の連続性から h(m1,…,mk)→Pθh(m_1, \dots, m_k) \xrightarrow{P} \theta となる(第1章 定理 1.29 の連続写像定理と同じ議論)。

3.3 最尤推定

定義 3.9(尤度・最尤推定量)観測値 x=(x1,…,xn)x = (x_1, \dots, x_n) を固定して θ\theta の関数とみた L(θ)=∏i=1nf(xi;θ)L(\theta) = \prod_{i=1}^n f(x_i; \theta) を尤度関数 (likelihood function)、ℓ(θ)=log⁡L(θ)\ell(\theta) = \log L(\theta) を対数尤度 (log-likelihood) という。LL を Θ\Theta 上で最大にする θ^=θ^(x)\hat{\theta} = \hat{\theta}(x) を最尤推定値、xx に標本 XX を代入した θ^(X)\hat{\theta}(X) を最尤推定量 (maximum likelihood estimator, MLE) という。

観測されたデータが最も起こりやすくなるパラメータを選ぶ、という考え方である。尤度は θ\theta についての確率分布ではない(θ\theta で積分しても 11 になるとは限らない)。以下の 4 つの例では、候補が本当に最大を与えることまで確かめる。

例 3.10(ベルヌーイ分布・二項分布)Xi∼B(1,p)X_i \sim B(1, p)、Θ=[0,1]\Theta = [0, 1]、s=∑ixis = \sum_i x_i とすると L(p)=ps(1−p)n−sL(p) = p^s(1-p)^{n-s}。0<s<n0 < s < n なら L(0)=L(1)=0L(0) = L(1) = 0 で、0<p<10 < p < 1 において

ℓ′(p)=sp−n−s1−p=s−npp(1−p)\ell'(p) = \frac{s}{p} - \frac{n-s}{1-p} = \frac{s - np}{p(1-p)}

は p<s/np < s/n で正、p>s/np > s/n で負だから、LL は p=s/np = s/n で最大になる。s=0s = 0 なら L=(1−p)nL = (1-p)^n は p=0p = 0 で、s=ns = n なら L=pnL = p^n は p=1p = 1 で最大。いずれの場合も p^=Xˉ\hat{p} = \bar{X}(標本比率)である。mm を既知として Xi∼B(m,p)X_i \sim B(m, p) なら、尤度は定数倍を除いて ps(1−p)nm−sp^s(1-p)^{nm - s} なので p^=Xˉ/m\hat{p} = \bar{X}/m。

例 3.11(ポアソン分布)Xi∼Po⁡(λ)X_i \sim \operatorname{Po}(\lambda)、Θ=[0,∞)\Theta = [0, \infty) とする(Po⁡(0)\operatorname{Po}(0) は 00 に確率 11 をもつ分布と約束する)。s=∑ixi>0s = \sum_i x_i > 0 なら L(0)=0L(0) = 0 で、λ>0\lambda > 0 では ℓ′(λ)=s/λ−n\ell'(\lambda) = s/\lambda - n が λ=s/n\lambda = s/n の前後で正から負に変わる。s=0s = 0 なら L(λ)=e−nλL(\lambda) = e^{-n\lambda} は λ=0\lambda = 0 で最大。いずれの場合も λ^=Xˉ\hat{\lambda} = \bar{X}。

例 3.12(指数分布)Xi∼Exp⁡(λ)X_i \sim \operatorname{Exp}(\lambda)、Θ=(0,∞)\Theta = (0, \infty)、s=∑ixi>0s = \sum_i x_i > 0 とすると、ℓ(λ)=nlog⁡λ−λs\ell(\lambda) = n\log\lambda - \lambda s で ℓ′(λ)=n/λ−s\ell'(\lambda) = n/\lambda - s は λ=n/s\lambda = n/s の前後で正から負に変わるので、λ^=1/Xˉ\hat{\lambda} = 1/\bar{X}。これは不偏ではなく、n≥2n \geq 2 なら Eλ[1/Xˉ]=nn−1λE_\lambda[1/\bar{X}] = \frac{n}{n-1}\lambda と過大に推定する(問題 3.3)。

例 3.13(正規分布)θ=(μ,v)\theta = (\mu, v), v=σ2v = \sigma^2、Θ=R×(0,∞)\Theta = \mathbb{R} \times (0, \infty) とし、観測値のすべてが等しくはないとする(n≥2n \geq 2 なら確率 11)。Q=∑i(xi−xˉ)2>0Q = \sum_i (x_i - \bar{x})^2 > 0 とおくと ∑i(xi−μ)2=Q+n(xˉ−μ)2\sum_i (x_i - \mu)^2 = Q + n(\bar{x} - \mu)^2 だから

ℓ(μ,v)=−n2log⁡(2πv)−Q+n(xˉ−μ)22v≤−n2log⁡(2πv)−Q2v=:g(v)\ell(\mu, v) = -\frac{n}{2}\log(2\pi v) - \frac{Q + n(\bar{x} - \mu)^2}{2v} \leq -\frac{n}{2}\log(2\pi v) - \frac{Q}{2v} =: g(v)

で、等号は μ=xˉ\mu = \bar{x} のときに限る。g′(v)=(Q−nv)/(2v2)g'(v) = (Q - nv)/(2v^2) は v=Q/nv = Q/n の前後で正から負に変わる。よって最尤推定量は μ^=Xˉ\hat{\mu} = \bar{X}, σ^2=1n∑i(Xi−Xˉ)2\hat{\sigma}^2 = \frac{1}{n}\sum_i (X_i - \bar{X})^2 で、σ^2\hat{\sigma}^2 は例 3.5 のとおりバイアスをもつ。すべての xix_i が等しいと v→0v \to 0 で ℓ→∞\ell \to \infty となり、最尤推定値は存在しない。

命題 3.14(最尤推定量の不変性)g ⁣:Θ→Θ′g\colon \Theta \to \Theta' を全単射とし、モデルを η=g(θ)\eta = g(\theta) で表し直す。θ^\hat{\theta} が θ\theta の最尤推定量ならば、g(θ^)g(\hat{\theta}) は η\eta の最尤推定量である。

証明. η\eta で表した尤度は L′(η)=L(g−1(η))L'(\eta) = L(g^{-1}(\eta)) なので、任意の η\eta で L′(η)≤L(θ^)=L′(g(θ^))L'(\eta) \leq L(\hat{\theta}) = L'(g(\hat{\theta}))。□\square

gg が単射でなくても g(θ^)g(\hat{\theta}) を g(θ)g(\theta) の最尤推定量と定めるのが普通である(sup⁡{L(θ)∣g(θ)=η}\sup \lbrace L(\theta) \mid g(\theta) = \eta \rbrace を最大にするのが η=g(θ^)\eta = g(\hat{\theta}))。たとえば σ\sigma の最尤推定量は σ^2\sqrt{\hat{\sigma}^2}、指数分布の平均 1/λ1/\lambda の最尤推定量は Xˉ\bar{X} である。不偏性にはこの性質がない(注意 3.6)。

例 3.15(一様分布 U(0,θ)U(0, \theta))f(x;θ)=1θ1[0,θ](x)f(x; \theta) = \frac{1}{\theta}\mathbf{1}_{[0, \theta]}(x) とし、観測値 xi≥0x_i \geq 0 の最大値を MM とする。L(θ)L(\theta) は θ<M\theta < M で 00、θ≥M\theta \geq M で θ−n\theta^{-n} なので、最尤推定量は X(n)=max⁡iXiX_{(n)} = \max_i X_i である。θ>M\theta > M で ℓ′(θ)=−n/θ≠0\ell'(\theta) = -n/\theta \neq 0 なので、尤度方程式 ℓ′(θ)=0\ell'(\theta) = 0 を解いても見つからない。0≤t≤θ0 \leq t \leq \theta で Pθ(X(n)≤t)=(t/θ)nP_\theta(X_{(n)} \leq t) = (t/\theta)^n だから、X(n)X_{(n)} の密度は ntn−1/θnnt^{n-1}/\theta^n で

Eθ[X(n)]=nn+1θ,Eθ[X(n)2]=nn+2θ2,Var⁡θ(X(n))=nθ2(n+1)2(n+2)E_\theta[X_{(n)}] = \frac{n}{n+1}\theta, \qquad E_\theta[X_{(n)}^2] = \frac{n}{n+2}\theta^2, \qquad \operatorname{Var}_\theta(X_{(n)}) = \frac{n\theta^2}{(n+1)^2(n+2)}

最尤推定量はつねに過小評価し、平均二乗誤差は 2θ2(n+1)(n+2)\frac{2\theta^2}{(n+1)(n+2)} である。θ^U=n+1nX(n)\hat{\theta}_U = \frac{n+1}{n}X_{(n)} は不偏で、分散は θ2n(n+2)\frac{\theta^2}{n(n+2)}。cX(n)cX_{(n)} の形では、平均二乗誤差 θ2(nn+2c2−2nn+1c+1)\theta^2\bigl(\frac{n}{n+2}c^2 - \frac{2n}{n+1}c + 1\bigr) を最小にするのは c=n+2n+1c = \frac{n+2}{n+1} で、最小値 θ2(n+1)2\frac{\theta^2}{(n+1)^2} は θ^U\hat{\theta}_U の分散より小さい。いずれも、モーメント推定量 2Xˉ2\bar{X} の分散 θ23n\frac{\theta^2}{3n} と違い 1/n21/n^2 のオーダーで減る(θ=1\theta = 1, n=10n = 10 で 10 万回シミュレーションすると、2Xˉ2\bar{X}, X(n)X_{(n)}, θ^U\hat{\theta}_U の平均二乗誤差は 0.03330.0333, 0.01510.0151, 0.00830.0083 で、理論値 1/301/30, 1/661/66, 1/1201/120 と一致した)。

注意 3.16 最尤推定量が閉じた式で書けるのはむしろ例外で、ガンマ分布の形状パラメータやロジスティック回帰(第6章)では数値最適化で求める。最大点が一意でないこともある(問題 3.2)。

3.4 十分統計量

例 3.10・3.11 の最尤推定量は和 ∑ixi\sum_i x_i だけで決まった。データをある統計量に要約しても θ\theta についての情報を失わない、ということを定式化する。

定義 3.17(十分統計量, sufficient statistic)標本 X=(X1,…,Xn)X = (X_1, \dots, X_n) が離散分布に従う(可算集合に値をとる)とする。統計量 T=T(X)T = T(X) が θ\theta の十分統計量であるとは、Pθ(T=t)>0P_\theta(T = t) > 0 となるすべての θ\theta, tt と、すべての xx について、Pθ(X=x∣T=t)P_\theta(X = x \mid T = t) が θ\theta によらないことをいう。

TT の値がわかれば、残りのばらつきは θ\theta と無関係である。TT だけから、θ\theta を知らなくても乱数で XX と同じ分布のデータを作り直せるので、XX でできる推測は TT でもできる。

例 3.18(ベルヌーイ分布)0<p<10 < p < 1、T=∑iXiT = \sum_i X_i とする。∑ixi=t\sum_i x_i = t となる x∈{0,1}nx \in \lbrace 0, 1 \rbrace^n について

Pp(X=x∣T=t)=pt(1−p)n−t(nt)pt(1−p)n−t=(nt)−1P_p(X = x \mid T = t) = \frac{p^t(1-p)^{n-t}}{\binom{n}{t}p^t(1-p)^{n-t}} = \binom{n}{t}^{-1}

であり、∑ixi≠t\sum_i x_i \neq t なら 00 である。どちらも pp によらないので TT は十分統計量である。不良品の個数がわかれば、何番目が不良だったかは pp について何も教えない。

定理 3.19(フィッシャー–ネイマンの分解定理, factorization theorem)離散の場合、TT が θ\theta の十分統計量であるための必要十分条件は、関数 g(t;θ)≥0g(t; \theta) \geq 0 と h(x)≥0h(x) \geq 0 があって、すべての xx と θ\theta について

Pθ(X=x)=g(T(x);θ) h(x)P_\theta(X = x) = g(T(x); \theta)\, h(x)

と書けることである。

証明. (必要性)g(t;θ)=Pθ(T=t)g(t; \theta) = P_\theta(T = t) とおく。各 xx について、Pθ0(T=T(x))>0P_{\theta_0}(T = T(x)) > 0 となる θ0\theta_0 があれば h(x)=Pθ0(X=x∣T=T(x))h(x) = P_{\theta_0}(X = x \mid T = T(x)) とおき(十分性より θ0\theta_0 の選び方によらない)、なければ h(x)=0h(x) = 0 とおく。Pθ(T=T(x))>0P_\theta(T = T(x)) > 0 なら、{X=x}⊂{T=T(x)}\lbrace X = x \rbrace \subset \lbrace T = T(x) \rbrace より Pθ(X=x)=Pθ(T=T(x))Pθ(X=x∣T=T(x))=g(T(x);θ)h(x)P_\theta(X = x) = P_\theta(T = T(x))P_\theta(X = x \mid T = T(x)) = g(T(x); \theta)h(x)。Pθ(T=T(x))=0P_\theta(T = T(x)) = 0 なら、Pθ(X=x)≤Pθ(T=T(x))=0P_\theta(X = x) \leq P_\theta(T = T(x)) = 0 で、右辺も g(T(x);θ)=0g(T(x); \theta) = 0 より 00 である。

(十分性)Pθ(T=t)>0P_\theta(T = t) > 0 とし、At={y∣T(y)=t}A_t = \lbrace y \mid T(y) = t \rbrace とおく。Pθ(T=t)=g(t;θ)∑y∈Ath(y)>0P_\theta(T = t) = g(t; \theta)\sum_{y \in A_t}h(y) > 0 なので、g(t;θ)>0g(t; \theta) > 0 かつ ∑y∈Ath(y)>0\sum_{y \in A_t}h(y) > 0。x∈Atx \in A_t なら

Pθ(X=x∣T=t)=g(t;θ)h(x)g(t;θ)∑y∈Ath(y)=h(x)∑y∈Ath(y)P_\theta(X = x \mid T = t) = \frac{g(t; \theta)h(x)}{g(t; \theta)\sum_{y \in A_t}h(y)} = \frac{h(x)}{\sum_{y \in A_t}h(y)}

で、x∉Atx \notin A_t なら 00 である。いずれも θ\theta によらない。□\square

注意 3.20(密度の場合)同時密度 f(x;θ)f(x; \theta) をもつ場合も、f(x;θ)=g(T(x);θ)h(x)f(x; \theta) = g(T(x); \theta)h(x) と分解できることが十分性の必要十分条件である。ただし確率 00 の事象 {T=t}\lbrace T = t \rbrace のもとでの条件付き分布には測度論的な条件付き期待値(11 第5章)が要るので、証明は Lehmann–Romano に譲り、本科目ではこの分解を十分性の判定法として用いる。

例 3.21 (1) ポアソン分布:∏ie−λλxi/xi!=e−nλλ∑ixi⋅∏i(1/xi!)\prod_i e^{-\lambda}\lambda^{x_i}/x_i! = e^{-n\lambda}\lambda^{\sum_i x_i} \cdot \prod_i (1/x_i!) より ∑iXi\sum_i X_i は十分統計量である。(2) 正規分布:同時密度 (2πσ2)−n/2exp⁡(−(∑ixi2−2μ∑ixi+nμ2)/(2σ2))(2\pi\sigma^2)^{-n/2}\exp\bigl(-(\sum_i x_i^2 - 2\mu\sum_i x_i + n\mu^2)/(2\sigma^2)\bigr) より (∑iXi,∑iXi2)(\sum_i X_i, \sum_i X_i^2)、したがってそれと互いに他方の関数である (Xˉ,S2)(\bar{X}, S^2) は (μ,σ2)(\mu, \sigma^2) の十分統計量である。(3) U(0,θ)U(0, \theta):同時密度 θ−n1{max⁡ixi≤θ}⋅1{min⁡ixi≥0}\theta^{-n}\mathbf{1}_{\lbrace \max_i x_i \leq \theta \rbrace} \cdot \mathbf{1}_{\lbrace \min_i x_i \geq 0 \rbrace} より X(n)X_{(n)} は十分統計量である。

分解 L(θ)=g(T(x);θ)h(x)L(\theta) = g(T(x); \theta)h(x) から、尤度を最大にする θ\theta は T(x)T(x) だけで決まる。最尤推定量が一意なら、それは任意の十分統計量の関数である。

ヒント

実務では 正規モデルを前提にするなら、各群の (n,xˉ,s)(n, \bar{x}, s) だけで平均の推定・信頼区間・tt 検定(第4章)が再現できる。報告書の要約統計量から再分析できるのはこのためである。しかし十分性はモデルが正しいことを前提にした概念で、外れ値・分布の歪み・時間による変化の点検には元のデータが要る。要約だけを残してデータを捨てると、モデルの誤りに後から気づけない。

3.5 フィッシャー情報量とクラメール–ラオの不等式

不偏推定量どうしなら、平均二乗誤差は分散そのものである。分散はどこまで小さくできるのか。θ\theta を少し動かしたときに分布が大きく変わるほど、データから θ\theta を正確に見分けられるはずである。この節では Θ\Theta を開区間とし、f(x;θ)f(x; \theta) で標本全体 x=(x1,…,xn)x = (x_1, \dots, x_n) の同時確率関数または同時密度を表す。

定義 3.22(正則条件, regularity conditions)次の (R1)〜(R3) を正則条件という。

  • (R1) 台 {x∣f(x;θ)>0}\lbrace x \mid f(x; \theta) > 0 \rbrace が θ\theta によらない。
  • (R2) 台の各点 xx で、θ↦f(x;θ)\theta \mapsto f(x; \theta) は微分可能である。
  • (R3) ∫f(x;θ) dx=1\int f(x; \theta)\ dx = 1 を積分記号下で微分できる。すなわち ∫∂θf(x;θ) dx=0\int \partial_\theta f(x; \theta)\ dx = 0。

定義 3.23(スコア関数・フィッシャー情報量)台の上で定まる s(x;θ)=∂θlog⁡f(x;θ)s(x; \theta) = \partial_\theta \log f(x; \theta) をスコア関数 (score function)、I(θ)=Eθ[s(X;θ)2]I(\theta) = E_\theta[s(X; \theta)^2] をフィッシャー情報量 (Fisher information) という。1 個の観測のものを I1(θ)I_1(\theta)、大きさ nn の標本全体のものを In(θ)I_n(\theta) と書く。

補題 3.24 正則条件のもとで次が成り立つ。

  1. Eθ[s(X;θ)]=0E_\theta[s(X; \theta)] = 0。したがって I(θ)=Var⁡θ(s(X;θ))I(\theta) = \operatorname{Var}_\theta(s(X; \theta))。
  2. X1,…,XnX_1, \dots, X_n が i.i.d. で、1 個の観測のモデルが正則条件を満たすならば、In(θ)=nI1(θ)I_n(\theta) = nI_1(\theta)。
  3. さらに ff が θ\theta について 2 回微分可能で ∫∂θ2f(x;θ) dx=0\int \partial_\theta^2 f(x; \theta)\ dx = 0 ならば、I(θ)=−Eθ[∂θ2log⁡f(X;θ)]I(\theta) = -E_\theta[\partial_\theta^2 \log f(X; \theta)]。

証明. 1. (R1) より積分範囲は θ\theta によらない台であり、(R3) より Eθ[s]=∫(∂θf/f)f dx=∫∂θf dx=0E_\theta[s] = \int (\partial_\theta f/f)f\ dx = \int \partial_\theta f\ dx = 0。2. 標本全体のスコアは i.i.d. な s1(Xi;θ)s_1(X_i; \theta) の和であり、1 より各項は平均 00、分散 I1(θ)I_1(\theta) である。3. ∂θ2log⁡f=∂θ2f/f−s2\partial_\theta^2 \log f = \partial_\theta^2 f/f - s^2 の期待値をとり、Eθ[∂θ2f/f]=∫∂θ2f dx=0E_\theta[\partial_\theta^2 f/f] = \int \partial_\theta^2 f\ dx = 0 を使う。□\square

定理 3.25(クラメール–ラオの不等式, Cramér–Rao inequality)正則条件を仮定し、0<In(θ)<∞0 < I_n(\theta) < \infty とする。統計量 TT が Eθ[T2]<∞E_\theta[T^2] < \infty を満たし、ψ(θ)=Eθ[T]\psi(\theta) = E_\theta[T] が積分記号下で微分できる、すなわち ψ′(θ)=∫T(x)∂θf(x;θ) dx\psi'(\theta) = \int T(x)\partial_\theta f(x; \theta)\ dx とする。このとき

Var⁡θ(T)≥ψ′(θ)2In(θ)\operatorname{Var}_\theta(T) \geq \frac{\psi'(\theta)^2}{I_n(\theta)}

特に i.i.d. の場合、TT が θ\theta の不偏推定量なら Var⁡θ(T)≥1/(nI1(θ))\operatorname{Var}_\theta(T) \geq 1/(nI_1(\theta))。

証明. 仮定と補題 3.24 の 1 より

ψ′(θ)=∫T ∂θf dx=∫T s f dx=Eθ[Ts]=Eθ[(T−ψ(θ))s]=Cov⁡θ(T,s)\psi'(\theta) = \int T\,\partial_\theta f\ dx = \int T\,s\,f\ dx = E_\theta[Ts] = E_\theta[(T - \psi(\theta))s] = \operatorname{Cov}_\theta(T, s)

コーシー–シュワルツの不等式(第1章 命題 1.8 の 4 の ∣ρ∣≤1\lvert \rho \rvert \leq 1)より ψ′(θ)2≤Var⁡θ(T)Var⁡θ(s)=Var⁡θ(T)In(θ)\psi'(\theta)^2 \leq \operatorname{Var}_\theta(T)\operatorname{Var}_\theta(s) = \operatorname{Var}_\theta(T)I_n(\theta)。□\square

注意 3.26 (1) 等号は T−ψ(θ)=c(θ)s(X;θ)T - \psi(\theta) = c(\theta)s(X; \theta) が確率 11 で成り立つとき(TT がスコアの 1 次式のとき)に限る。(2) 不偏推定量で下界を達成するものを有効推定量 (efficient estimator)、すべての θ\theta で分散が最小の不偏推定量を一様最小分散不偏推定量 (UMVU estimator) という。有効推定量は(定理 3.25 の仮定を満たす不偏推定量の中で)分散が最小だが、逆に UMVU が下界を達成するとは限らない(例 3.27)。(3) 正規・ポアソン・二項・指数分布などの指数型分布族(第6章)は、パラメータが開区間を動けばこれらの仮定を満たす(Lehmann–Romano)。(4) θ∈Rk\theta \in \mathbb{R}^k では、s=∇θlog⁡fs = \nabla_\theta \log f としてフィッシャー情報行列 I(θ)=Eθ[ss⊤]I(\theta) = E_\theta[ss^{\top}] を使う(A⊤A^{\top} は転置で、02 線形代数の tA{}^tA と同じ)。これが正則なら Var⁡θ(T)≥∇ψ⊤In−1∇ψ\operatorname{Var}_\theta(T) \geq \nabla\psi^{\top}I_n^{-1}\nabla\psi が成り立つ(a⊤sa^{\top}s に 1 次元の議論を使い、aa について最大化する)。

例 3.27(フィッシャー情報量の計算)パラメータ空間はいずれも開区間とする。

モデル スコア s1(x;θ)s_1(x; \theta) I1(θ)I_1(\theta) 不偏推定量の分散の下界
B(1,p)B(1, p) (x−p)/(p(1−p))(x - p)/(p(1-p)) 1/(p(1−p))1/(p(1-p)) p(1−p)/n=Var⁡(Xˉ)p(1-p)/n = \operatorname{Var}(\bar{X})
Po⁡(λ)\operatorname{Po}(\lambda) x/λ−1x/\lambda - 1 1/λ1/\lambda λ/n=Var⁡(Xˉ)\lambda/n = \operatorname{Var}(\bar{X})
N(μ,σ2)N(\mu, \sigma^2)(σ2\sigma^2 既知) (x−μ)/σ2(x - \mu)/\sigma^2 1/σ21/\sigma^2 σ2/n=Var⁡(Xˉ)\sigma^2/n = \operatorname{Var}(\bar{X})
Exp⁡(λ)\operatorname{Exp}(\lambda) 1/λ−x1/\lambda - x 1/λ21/\lambda^2 λ2/n\lambda^2/n

I1I_1 はスコアの分散として計算でき、上の 3 つでは Xˉ\bar{X} が有効推定量である。指数分布では、不偏推定量 n−1nXˉ\frac{n-1}{n\bar{X}}(n≥3n \geq 3)の分散は λ2n−2\frac{\lambda^2}{n-2} で下界に届かない(問題 3.3。これが UMVU であることは注意 3.31 で述べる)。一方、平均 ψ(λ)=1/λ\psi(\lambda) = 1/\lambda に対する下界は ψ′(λ)2/(nI1(λ))=1/(nλ2)=Var⁡(Xˉ)\psi'(\lambda)^2/(nI_1(\lambda)) = 1/(n\lambda^2) = \operatorname{Var}(\bar{X}) で、Xˉ\bar{X} は有効である。何を推定するかで有効性は変わる。

例 3.28(正則条件が崩れる例:一様分布)U(0,θ)U(0, \theta) では台 [0,θ][0, \theta] が θ\theta に依存し、(R1) が成り立たない。台の上では形式的に s=∂θlog⁡f1(x;θ)=−1/θs = \partial_\theta \log f_1(x; \theta) = -1/\theta なので、定義どおりの「情報量」は Eθ[s2]=1/θ2E_\theta[s^2] = 1/\theta^2、「下界」は θ2/n\theta^2/n になる。ところが例 3.15 の不偏推定量 θ^U=n+1nX(n)\hat{\theta}_U = \frac{n+1}{n}X_{(n)} の分散は θ2n(n+2)<θ2n\frac{\theta^2}{n(n+2)} < \frac{\theta^2}{n} であり、しかも 1/n21/n^2 のオーダーで小さくなる。壊れたのは積分記号下の微分 (R3) で、補題 3.24 の 1 が成り立たず、実際 Eθ[s]=−1/θE_\theta[s] = -1/\theta である(そのため In=nI1I_n = nI_1 も成り立たない。標本全体の形式的なスコア −n/θ-n/\theta から「下界」を作っても θ2/n2\theta^2/n^2 で、θ^U\hat{\theta}_U の分散はやはりそれを下回る)。積分の上端が θ\theta に依存するので

ddθ∫0θ1θ dx=0≠−1θ=∫0θ∂∂θ(1θ)dx\frac{d}{d\theta}\int_0^\theta \frac{1}{\theta}\,dx = 0 \neq -\frac{1}{\theta} = \int_0^\theta \frac{\partial}{\partial\theta}\Bigl(\frac{1}{\theta}\Bigr)dx

となり、(R3) の積分記号下の微分ができない(差は上端から来る境界項 f1(θ;θ)f_1(\theta; \theta))。台の端 θ\theta はデータの最大値にくっきり現れるので、密度のなめらかな変化から読み取るよりはるかに速く決まるのである。

3.6 ラオ–ブラックウェルの定理

十分統計量を使うと、与えられた推定量を改良できる。

定理 3.29(ラオ–ブラックウェルの定理, Rao–Blackwell theorem)TT を θ\theta の十分統計量、δ\delta をすべての θ\theta で Eθ[δ2]<∞E_\theta[\delta^2] < \infty を満たす推定量とし、δ∗=E[δ∣T]\delta^{\ast} = E[\delta \mid T] とおく。このとき

  1. δ∗\delta^{\ast} は θ\theta によらない(統計量である)。
  2. Eθ[δ∗]=Eθ[δ]E_\theta[\delta^{\ast}] = E_\theta[\delta]。特に δ\delta が g(θ)g(\theta) の不偏推定量なら δ∗\delta^{\ast} もそうである。
  3. g(θ)g(\theta) の推定量として MSE⁡θ(δ∗)≤MSE⁡θ(δ)\operatorname{MSE}_\theta(\delta^{\ast}) \leq \operatorname{MSE}_\theta(\delta) であり、等号は Pθ(δ=δ∗)=1P_\theta(\delta = \delta^{\ast}) = 1 のときに限る。

証明. 離散の場合に示す。1. Pθ(T=t)>0P_\theta(T = t) > 0 となる tt について δ∗(t)=∑xδ(x)Pθ(X=x∣T=t)\delta^{\ast}(t) = \sum_x \delta(x)P_\theta(X = x \mid T = t) であり、十分性より右辺は θ\theta によらない。2. 第1章の全期待値の公式(命題 1.12)より Eθ[δ∗]=Eθ[Eθ[δ∣T]]=Eθ[δ]E_\theta[\delta^{\ast}] = E_\theta[E_\theta[\delta \mid T]] = E_\theta[\delta]。3. 全分散の公式より

Var⁡θ(δ)=Eθ[Var⁡θ(δ∣T)]+Var⁡θ(δ∗)\operatorname{Var}_\theta(\delta) = E_\theta\bigl[\operatorname{Var}_\theta(\delta \mid T)\bigr] + \operatorname{Var}_\theta(\delta^{\ast})

2 より δ\delta と δ∗\delta^{\ast} のバイアスは等しいので、定理 3.3 から MSE⁡θ(δ)−MSE⁡θ(δ∗)=Eθ[Var⁡θ(δ∣T)]≥0\operatorname{MSE}_\theta(\delta) - \operatorname{MSE}_\theta(\delta^{\ast}) = E_\theta[\operatorname{Var}_\theta(\delta \mid T)] \geq 0。これが 00 になるのは、Pθ(T=t)>0P_\theta(T = t) > 0 となる各 tt で Var⁡θ(δ∣T=t)=0\operatorname{Var}_\theta(\delta \mid T = t) = 0、すなわち {T=t}\lbrace T = t \rbrace の上で確率 11 で δ=δ∗(t)\delta = \delta^{\ast}(t) となるときに限る。一般の場合も、条件付き期待値の性質(11 第5章 命題 5.4)を使って同様に示せる。□\square

十分性は 1 でだけ使われる。十分でない統計量で条件づけると、E[δ∣T]E[\delta \mid T] は一般に θ\theta に依存し、推定量にならない。

例 3.30(ゼロ件の確率の推定)1 日の問い合わせ件数が i.i.d. で Po⁡(λ)\operatorname{Po}(\lambda) に従うとし、nn 日分のデータから、問い合わせが 1 件もない日の確率 e−λe^{-\lambda} を推定する。δ=1{X1=0}\delta = \mathbf{1}_{\lbrace X_1 = 0 \rbrace} は不偏だが、1 日目しか使っていない。十分統計量 T=∑iXi∼Po⁡(nλ)T = \sum_i X_i \sim \operatorname{Po}(n\lambda) で条件づけると、∑i≥2Xi∼Po⁡((n−1)λ)\sum_{i \geq 2} X_i \sim \operatorname{Po}((n-1)\lambda) より

P(X1=k∣T=t)=P(X1=k) P(∑i≥2Xi=t−k)P(T=t)=(tk)(1n)k(1−1n)t−kP(X_1 = k \mid T = t) = \frac{P(X_1 = k)\,P\bigl(\sum_{i \geq 2} X_i = t - k\bigr)}{P(T = t)} = \binom{t}{k}\Bigl(\frac{1}{n}\Bigr)^k\Bigl(1 - \frac{1}{n}\Bigr)^{t-k}

なので δ∗=(1−1/n)T\delta^{\ast} = (1 - 1/n)^T。Po⁡(μ)\operatorname{Po}(\mu) について E[aT]=eμ(a−1)E[a^T] = e^{\mu(a-1)} だから、Eλ[δ∗]=e−λE_\lambda[\delta^{\ast}] = e^{-\lambda}、Var⁡λ(δ∗)=e−2λ(eλ/n−1)\operatorname{Var}_\lambda(\delta^{\ast}) = e^{-2\lambda}(e^{\lambda/n} - 1)。λ=1\lambda = 1, n=10n = 10 では Var⁡(δ)=e−1(1−e−1)≈0.233\operatorname{Var}(\delta) = e^{-1}(1 - e^{-1}) \approx 0.233 に対し Var⁡(δ∗)≈0.0142\operatorname{Var}(\delta^{\ast}) \approx 0.0142 と、約 16 分の 1 になる。ψ(λ)=e−λ\psi(\lambda) = e^{-\lambda} のクラメール–ラオの下界は λe−2λ/n≈0.0135\lambda e^{-2\lambda}/n \approx 0.0135 で、eu−1>ue^u - 1 > u より δ∗\delta^{\ast} はわずかに届かない。

注意 3.31(レーマン–シェフェの定理)十分統計量 TT が完備 (complete)、すなわち「すべての θ\theta で Eθ[h(T)]=0E_\theta[h(T)] = 0 ならば Pθ(h(T)=0)=1P_\theta(h(T) = 0) = 1」を満たすとき、TT の関数である不偏推定量は UMVU であり、確率 11 で一意である(主張のみ。Casella–Berger を参照)。ポアソン分布・指数分布の ∑iXi\sum_i X_i、正規分布の (Xˉ,S2)(\bar{X}, S^2)、一様分布の X(n)X_{(n)} は完備で、例 3.30 の δ∗\delta^{\ast}、n−1nXˉ\frac{n-1}{n\bar{X}}、S2S^2、n+1nX(n)\frac{n+1}{n}X_{(n)} は UMVU である。

3.7 最尤推定量の漸近的性質

最尤推定量が広く使われるのは、正則なモデルでは、標本が大きいときにほぼ不偏でクラメール–ラオの下界を達成するからである。

定理 3.32(最尤推定量の一致性と漸近正規性)X1,X2,…X_1, X_2, \dots を f1(x;θ0)f_1(x; \theta_0) からの i.i.d. とし、Θ\Theta を開区間、θ0∈Θ\theta_0 \in \Theta とする。次を仮定する。

  • (A1)(識別可能性)θ≠θ′\theta \neq \theta' ならば f1(⋅;θ)f_1(\cdot; \theta) と f1(⋅;θ′)f_1(\cdot; \theta') は異なる分布を定める。
  • (A2) 1 個の観測のモデルが正則条件を満たし、0<I1(θ0)<∞0 < I_1(\theta_0) < \infty。
  • (A3) 台の各点 xx で log⁡f1(x;θ)\log f_1(x; \theta) は θ\theta について 3 回連続微分可能で、∫f1(x;θ) dx\int f_1(x; \theta)\ dx は積分記号下で 2 回微分できる。さらに、θ0\theta_0 のある近傍のすべての θ\theta で ∣∂θ3log⁡f1(x;θ)∣≤M(x)\lvert \partial_\theta^3 \log f_1(x; \theta) \rvert \leq M(x)、Eθ0[M(X1)]<∞E_{\theta_0}[M(X_1)] < \infty となる関数 MM がある。

このとき、尤度方程式 ℓn′(θ)=0\ell_n'(\theta) = 0 が解をもつ確率は 11 に近づき、θ^n→Pθ0\hat{\theta}_n \xrightarrow{P} \theta_0 となる解の列 θ^n\hat{\theta}_n がとれる。そのような解の列について

n (θ^n−θ0)→dN(0,1I1(θ0))\sqrt{n}\,(\hat{\theta}_n - \theta_0) \xrightarrow{d} N\Bigl(0, \frac{1}{I_1(\theta_0)}\Bigr)

である。尤度方程式の解がつねにただ一つで最尤推定量と一致する場合(対数尤度が狭義凹のときなど)は、最尤推定量そのものについてこれが成り立つ。

主張と証明の概略にとどめる。θ∈Rk\theta \in \mathbb{R}^k でも、同様の条件のもとで n(θ^n−θ0)→dNk(0,I1(θ0)−1)\sqrt{n}(\hat{\theta}_n - \theta_0) \xrightarrow{d} N_k(0, I_1(\theta_0)^{-1}) が成り立つ(主張のみ)。

証明の概略. (一致性)イェンセンの不等式(log⁡\log は狭義凹)と (A1)・(R1) から、θ≠θ0\theta \neq \theta_0 なら

Eθ0[log⁡f1(X1;θ)f1(X1;θ0)]<log⁡Eθ0[f1(X1;θ)f1(X1;θ0)]=log⁡∫f1(x;θ) dx=0E_{\theta_0}\Bigl[\log\frac{f_1(X_1; \theta)}{f_1(X_1; \theta_0)}\Bigr] < \log E_{\theta_0}\Bigl[\frac{f_1(X_1; \theta)}{f_1(X_1; \theta_0)}\Bigr] = \log\int f_1(x; \theta)\ dx = 0

((A1) より比は定数でないので狭義)。大数の法則より 1n(ℓn(θ0±a)−ℓn(θ0))\frac{1}{n}(\ell_n(\theta_0 \pm a) - \ell_n(\theta_0)) は負の値に確率収束するので、確率が 11 に近づく事象の上で ℓn(θ0±a)<ℓn(θ0)\ell_n(\theta_0 \pm a) < \ell_n(\theta_0) となり、(θ0−a,θ0+a)(\theta_0 - a, \theta_0 + a) に尤度方程式の解(極大点)がある。a>0a > 0 はいくらでも小さくとれる。

(漸近正規性)0=ℓn′(θ^n)0 = \ell_n'(\hat{\theta}_n) を θ0\theta_0 のまわりでテイラー展開し、θ^n\hat{\theta}_n と θ0\theta_0 の間の θ~n\tilde{\theta}_n を使って整理すると

n (θ^n−θ0)=n−1/2ℓn′(θ0)−n−1ℓn′′(θ0)−12n(θ^n−θ0)ℓn′′′(θ~n)\sqrt{n}\,(\hat{\theta}_n - \theta_0) = \frac{n^{-1/2}\ell_n'(\theta_0)}{-n^{-1}\ell_n''(\theta_0) - \frac{1}{2n}(\hat{\theta}_n - \theta_0)\ell_n'''(\tilde{\theta}_n)}

分子は平均 00、分散 I1(θ0)I_1(\theta_0) の i.i.d. な項の和を n\sqrt{n} で割ったものなので、中心極限定理(第1章 定理 1.28)より N(0,I1(θ0))N(0, I_1(\theta_0)) に分布収束する。分母の第 1 項は大数の法則と補題 3.24 の 3 より I1(θ0)I_1(\theta_0) に確率収束し、第 2 項は ∣n−1ℓn′′′(θ~n)∣≤n−1∑iM(Xi)\lvert n^{-1}\ell_n'''(\tilde{\theta}_n) \rvert \leq n^{-1}\sum_i M(X_i) が有界にとどまるので 00 に確率収束する。スルツキーの定理(第1章 定理 1.29)より全体は N(0,1/I1(θ0))N(0, 1/I_1(\theta_0)) に分布収束する。剰余項の扱いの細部は省略した(竹村『現代数理統計学』、Casella–Berger を参照)。□\square

漸近分散 1/(nI1(θ0))1/(nI_1(\theta_0)) はクラメール–ラオの下界に等しく、この意味で最尤推定量は漸近有効 (asymptotically efficient) である。

例 3.33(標準誤差)θ^n\hat{\theta}_n はおよそ N(θ0,1/(nI1(θ0)))N(\theta_0, 1/(nI_1(\theta_0))) に従うので、θ0\theta_0 を θ^n\hat{\theta}_n で置き換えた 1/nI1(θ^n)1/\sqrt{nI_1(\hat{\theta}_n)}(または観測情報量による 1/−ℓn′′(θ^n)1/\sqrt{-\ell_n''(\hat{\theta}_n)})を標準誤差 (standard error, SE) として報告する(第4章の信頼区間の材料になる)。ポアソン分布なら SE⁡=Xˉ/n\operatorname{SE} = \sqrt{\bar{X}/n}、指数分布なら I1(λ)=1/λ2I_1(\lambda) = 1/\lambda^2 より SE⁡=λ^/n\operatorname{SE} = \hat{\lambda}/\sqrt{n} である(後者は第1章でデルタ法(定理 1.31)から得た漸近分散と一致する)。

注意

定理 3.32 は n→∞n \to \infty の極限についての主張で、有限の nn での精度は別問題である。指数分布で n=10n = 10 なら、λ^=1/Xˉ\hat{\lambda} = 1/\bar{X} の平均は 109λ\frac{10}{9}\lambda、分散は正確には n2λ2(n−1)2(n−2)≈1.54×λ2n\frac{n^2\lambda^2}{(n-1)^2(n-2)} \approx 1.54 \times \frac{\lambda^2}{n} で、漸近分散より 5 割以上大きい(n=200n = 200 でも 2% 大きい)。また、パラメータの個数が nn とともに増えるモデルでは、最尤推定量は一致性さえ失いうる(問題 3.6)。

注意 3.34(正則条件が崩れると)U(0,θ)U(0, \theta) の最尤推定量 X(n)X_{(n)} では、u≥0u \geq 0 について n→∞n \to \infty のとき Pθ(n(θ−X(n))>u)=(1−unθ)n→e−u/θP_\theta(n(\theta - X_{(n)}) > u) = (1 - \frac{u}{n\theta})^n \to e^{-u/\theta} なので、誤差は 1/n1/n のオーダーで、極限分布は指数分布である。真の値がパラメータ空間の境界にある場合(第4章 注意 4.16)や、混合分布のように識別可能性 (A1) が崩れる場合にも、定理 3.32 はそのままでは使えない。

3.8 不偏推定量が存在しない・最良でない例

例 3.35(不偏推定量が存在しない)X∼B(n,p)X \sim B(n, p), 0<p<10 < p < 1 とする。任意の推定量 δ(X)\delta(X) について Ep[δ(X)]=∑k=0nδ(k)(nk)pk(1−p)n−kE_p[\delta(X)] = \sum_{k=0}^n \delta(k)\binom{n}{k}p^k(1-p)^{n-k} は pp の多項式で、(0,1)(0, 1) 上で max⁡k∣δ(k)∣\max_k \lvert \delta(k) \rvert 以下に有界である。一方 1/p1/p(初めて成功するまでの平均試行回数)は p→0p \to 0 で発散するので、1/p1/p の不偏推定量は存在しない。オッズ p/(1−p)p/(1-p) や対数オッズも有界でないので同様であり、ロジスティック回帰(第6章)が不偏性でなく最尤法に頼る理由の一つである。

注意 3.36(バイアスのある推定量のほうがよいことがある)例 3.5 の Q/(n+1)Q/(n+1) や例 3.15 の n+2n+1X(n)\frac{n+2}{n+1}X_{(n)} は、不偏推定量より平均二乗誤差が一様に小さい。分散が既知で等しい 3 次元以上の正規分布の平均ベクトルでは、標本平均よりすべてのパラメータ値で平均二乗誤差(成分の和)が小さい推定量さえある(スタインの現象)。推定値を中心に向けて縮めるこの考え方は、正則化(第6章)や階層モデル(第7章)につながる。

まとめ

  • 推定量の良さは分布で評価する。平均二乗誤差はバイアスの 2 乗と分散の和に分解される(定理 3.3)。
  • 不偏推定量が平均二乗誤差の意味で最良とは限らず、不偏性は変数変換で保たれない。最尤推定量は変数変換について不変である。
  • モーメント法は手軽で一致性をもつが、データと矛盾する推定値を出しうる。最尤推定量は正規・ポアソン・指数・二項分布では閉じた形で求まる。
  • 十分統計量はパラメータの情報をすべて含む要約であり、分解定理で見つけられる(定理 3.19)。
  • 正則条件のもとで、不偏推定量の分散は 1/(nI1(θ))1/(nI_1(\theta)) 以上である(クラメール–ラオの不等式)。台がパラメータに依存する一様分布ではこれが崩れ、分散が 1/n21/n^2 のオーダーの不偏推定量がある。
  • 十分統計量で条件づけると推定量は改良される(ラオ–ブラックウェルの定理)。
  • 正則条件のもとで最尤推定量は一致性と漸近正規性をもち、漸近分散は下界に等しい。標準誤差はこれから計算するが、有限の nn での精度は別に確かめる必要がある。
  • 不偏推定量が存在しない量(1/p1/p、オッズ)があり、バイアスのある推定量のほうが平均二乗誤差の小さいことも多い。

演習問題

問題 3.1 ★ 幾何分布 Ge⁡(p)\operatorname{Ge}(p)(0<p≤10 < p \leq 1)について、(1) 最尤推定量が p^=1/Xˉ\hat{p} = 1/\bar{X} であることを示せ。(2) 0<p<10 < p < 1 としてフィッシャー情報量を求めよ。(3) 50 人の顧客の、初めて購入するまでの来店回数の平均が 4.04.0 回だった。pp の最尤推定値と標準誤差(例 3.33)を求めよ。

解答

(1) s=∑ixi≥ns = \sum_i x_i \geq n とすると ℓ(p)=(s−n)log⁡(1−p)+nlog⁡p\ell(p) = (s - n)\log(1-p) + n\log p。s>ns > n なら ℓ′(p)=np−s−n1−p=n−spp(1−p)\ell'(p) = \frac{n}{p} - \frac{s-n}{1-p} = \frac{n - sp}{p(1-p)} は p=n/sp = n/s の前後で正から負に変わり、p→1p \to 1 で ℓ→−∞\ell \to -\infty。s=ns = n なら L=pnL = p^n は p=1p = 1 で最大。いずれも p^=n/s=1/Xˉ\hat{p} = n/s = 1/\bar{X}。

(2) ∂p2log⁡f1=−1p2−k−1(1−p)2\partial_p^2 \log f_1 = -\frac{1}{p^2} - \frac{k-1}{(1-p)^2} と E[X−1]=1−ppE[X - 1] = \frac{1-p}{p}、補題 3.24 の 3 より I1(p)=1p2+1p(1−p)=1p2(1−p)I_1(p) = \frac{1}{p^2} + \frac{1}{p(1-p)} = \frac{1}{p^2(1-p)}。

(3) p^=0.25\hat{p} = 0.25、SE⁡=1/nI1(p^)=p^(1−p^)/n=0.250.75/50≈0.031\operatorname{SE} = 1/\sqrt{nI_1(\hat{p})} = \hat{p}\sqrt{(1 - \hat{p})/n} = 0.25\sqrt{0.75/50} \approx 0.031。

問題 3.2 ★★ 分解定理(注意 3.20)を使って十分統計量を求めよ。(1) 形状 α\alpha が既知の Gamma⁡(α,λ)\operatorname{Gamma}(\alpha, \lambda) の λ\lambda。(2) 一様分布 U(θ,θ+1)U(\theta, \theta + 1) の θ\theta。また (2) で最尤推定量が一意でないことを示せ。

解答

(1) 同時密度は λnαe−λ∑ixi⋅∏ixiα−1Γ(α)1{xi>0}\lambda^{n\alpha}e^{-\lambda\sum_i x_i} \cdot \prod_i \frac{x_i^{\alpha - 1}}{\Gamma(\alpha)}\mathbf{1}_{\lbrace x_i > 0 \rbrace} なので、g(t;λ)=λnαe−λtg(t; \lambda) = \lambda^{n\alpha}e^{-\lambda t} として ∑iXi\sum_i X_i が十分統計量である。

(2) 同時密度は ∏i1{θ≤xi≤θ+1}=1{θ≤x(1)}1{x(n)≤θ+1}\prod_i \mathbf{1}_{\lbrace \theta \leq x_i \leq \theta + 1 \rbrace} = \mathbf{1}_{\lbrace \theta \leq x_{(1)} \rbrace}\mathbf{1}_{\lbrace x_{(n)} \leq \theta + 1 \rbrace}(x(1)=min⁡ixix_{(1)} = \min_i x_i)なので、(X(1),X(n))(X_{(1)}, X_{(n)}) が十分統計量である。パラメータは 1 次元でも、十分統計量は 2 次元になる。尤度は x(n)−1≤θ≤x(1)x_{(n)} - 1 \leq \theta \leq x_{(1)} で 11、それ以外で 00 であり、この区間(データから空でない)のすべての点が最尤推定値になる。区間の幅は確率 11 で正なので、最尤推定値は無数にある。

問題 3.3 ★★ Xi∼Exp⁡(λ)X_i \sim \operatorname{Exp}(\lambda) i.i.d.、S=∑iXiS = \sum_i X_i とする。(1) n≥2n \geq 2 なら E[1/Xˉ]=nn−1λE[1/\bar{X}] = \frac{n}{n-1}\lambda を示せ。(2) n≥3n \geq 3 なら不偏推定量 λ~=n−1S\tilde{\lambda} = \frac{n-1}{S} の分散が λ2n−2\frac{\lambda^2}{n-2} であることを示し、クラメール–ラオの下界と比べよ。

解答

S∼Gamma⁡(n,λ)S \sim \operatorname{Gamma}(n, \lambda)(第1章 系 1.17)なので、k<nk < n について

E[S−k]=∫0∞s−k λnsn−1e−λs(n−1)! ds=λk(n−k−1)!(n−1)!E[S^{-k}] = \int_0^\infty s^{-k}\,\frac{\lambda^n s^{n-1}e^{-\lambda s}}{(n-1)!}\,ds = \frac{\lambda^k(n-k-1)!}{(n-1)!}

(1) E[1/Xˉ]=nE[1/S]=nλn−1E[1/\bar{X}] = nE[1/S] = \frac{n\lambda}{n-1}。(2) E[λ~]=λE[\tilde{\lambda}] = \lambda、E[λ~2]=(n−1)2λ2(n−1)(n−2)=(n−1)λ2n−2E[\tilde{\lambda}^2] = (n-1)^2\frac{\lambda^2}{(n-1)(n-2)} = \frac{(n-1)\lambda^2}{n-2} より Var⁡(λ~)=λ2n−2\operatorname{Var}(\tilde{\lambda}) = \frac{\lambda^2}{n-2}。これは下界 λ2n\frac{\lambda^2}{n}(例 3.27)より大きい。標本全体のスコア n/λ−Sn/\lambda - S に対し λ~\tilde{\lambda} はその 1 次式ではないので、等号条件(注意 3.26)を満たさない。

問題 3.4 ★★ 部品の不良の有無 X1,…,XnX_1, \dots, X_n(n≥2n \geq 2)が i.i.d. で B(1,p)B(1, p) に従う。2 個の部品がともに不良である確率 p2p^2 について、(1) δ=X1X2\delta = X_1X_2 が不偏であることを確かめ、T=∑iXiT = \sum_i X_i で条件づけた δ∗=E[δ∣T]\delta^{\ast} = E[\delta \mid T] を求めよ。(2) δ∗\delta^{\ast} が不偏であることを直接確かめ、最尤推定量 Xˉ2\bar{X}^2 のバイアスを求めよ。

解答

(1) 独立性より E[X1X2]=p2E[X_1X_2] = p^2。例 3.18 より、T=tT = t のもとで XX は「11 が tt 個ある長さ nn の 0-1 列」全体の上の一様分布に従う。X1=X2=1X_1 = X_2 = 1 となる列は (n−2t−2)\binom{n-2}{t-2} 個(t<2t < 2 なら 00 個)なので

δ∗=(n−2T−2)/(nT)=T(T−1)n(n−1)\delta^{\ast} = \binom{n-2}{T-2}\Big/\binom{n}{T} = \frac{T(T-1)}{n(n-1)}

(2) T∼B(n,p)T \sim B(n, p) より E[T(T−1)]=Var⁡(T)+E[T]2−E[T]=n(n−1)p2E[T(T-1)] = \operatorname{Var}(T) + E[T]^2 - E[T] = n(n-1)p^2 なので E[δ∗]=p2E[\delta^{\ast}] = p^2。また E[Xˉ2]=Var⁡(Xˉ)+p2E[\bar{X}^2] = \operatorname{Var}(\bar{X}) + p^2 より、Xˉ2\bar{X}^2 のバイアスは p(1−p)n\frac{p(1-p)}{n}(過大評価)である。

問題 3.5 ★★ 【この結論は正しいか】あるコールセンターで 1 日の問い合わせ件数を 100 日分記録した。担当者はポアソン分布を仮定し、λ\lambda の最尤推定値 xˉ=40\bar{x} = 40 と標準誤差 xˉ/n≈0.63\sqrt{\bar{x}/n} \approx 0.63 を報告した。ところが日ごとの件数の不偏分散は s2=160s^2 = 160 だった。この報告の問題点を指摘し、どう直すべきか述べよ。

解答

ポアソン分布なら分散は平均に等しいはずだが、観測された分散は平均の 4 倍ある(過分散)。曜日やキャンペーンなどで日ごとに λ\lambda 自体が変動していると考えられ、モデルが誤っている。Xˉ\bar{X} は分布によらず母平均の不偏推定量なので推定値 4040 は使えるが、標準誤差 xˉ/n\sqrt{\bar{x}/n} は「分散 == 平均」というモデルの性質から計算したもので、分布を仮定しない s/n=160/100≈1.26s/\sqrt{n} = \sqrt{160/100} \approx 1.26 の半分しかない。標準誤差を s/ns/\sqrt{n} で計算し直す、負の二項分布や、曜日などを説明変数に入れたポアソン回帰(第6章)を使う、などで直す。日ごとの件数に自己相関があれば s/ns/\sqrt{n} も過小になる。

問題 3.6 ★★★ (ネイマン–スコットの例)nn 個の製品を同じ測定器で 2 回ずつ測り、Xi1,Xi2∼N(μi,σ2)X_{i1}, X_{i2} \sim N(\mu_i, \sigma^2)(すべて独立、i=1,…,ni = 1, \dots, n)を得た。パラメータは μ1,…,μn,σ2\mu_1, \dots, \mu_n, \sigma^2 である。(1) σ2\sigma^2 の最尤推定量が σ^2=14n∑i(Xi1−Xi2)2\hat{\sigma}^2 = \frac{1}{4n}\sum_i (X_{i1} - X_{i2})^2 であることを示せ。(2) σ^2→Pσ2/2\hat{\sigma}^2 \xrightarrow{P} \sigma^2/2 を示し、定理 3.32 の仮定のどこが満たされていないか説明せよ。

解答

(1) v=σ2v = \sigma^2 とすると対数尤度は −nlog⁡(2πv)−12v∑i∑j=12(xij−μi)2-n\log(2\pi v) - \frac{1}{2v}\sum_i\sum_{j=1}^{2}(x_{ij} - \mu_i)^2。各 vv について、μi\mu_i に関する最大は μ^i=(xi1+xi2)/2\hat{\mu}_i = (x_{i1} + x_{i2})/2 でとられ、そのとき ∑j(xij−μ^i)2=(xi1−xi2)2/2\sum_j (x_{ij} - \hat{\mu}_i)^2 = (x_{i1} - x_{i2})^2/2。R=∑i(xi1−xi2)2/2R = \sum_i (x_{i1} - x_{i2})^2/2 として −nlog⁡(2πv)−R2v-n\log(2\pi v) - \frac{R}{2v} は、例 3.13 と同様に v=R2nv = \frac{R}{2n} で最大になる。よって σ^2=14n∑i(Xi1−Xi2)2\hat{\sigma}^2 = \frac{1}{4n}\sum_i (X_{i1} - X_{i2})^2。

(2) Di=Xi1−Xi2∼N(0,2σ2)D_i = X_{i1} - X_{i2} \sim N(0, 2\sigma^2) は i.i.d. なので、大数の法則より 1n∑iDi2→P2σ2\frac{1}{n}\sum_i D_i^2 \xrightarrow{P} 2\sigma^2、したがって σ^2→Pσ2/2\hat{\sigma}^2 \xrightarrow{P} \sigma^2/2。定理 3.32 はパラメータの次元が固定された i.i.d. モデルの定理だが、ここでは観測を 2 個増やすごとにパラメータ μi\mu_i が 1 個増え、各 μi\mu_i の情報は増えない。補正した 12n∑iDi2\frac{1}{2n}\sum_i D_i^2 は不偏かつ一致的である。

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