Lemma

第8章実験計画・A/B テスト・因果推論

目安 8〜11 時間定理など 13演習 8 問
ここまでの道

この章の目標

  • 潜在結果モデルで因果効果を定義し、SUTVA などの仮定のもとで、無作為化により平均処置効果が識別されることを証明できる
  • A/B テストの検出力と標本サイズの近似公式を導出し、何が近似なのかを説明できる
  • ボンフェローニ法・ホルム法が FWER を、ベンジャミニ–ホッホベルク法が(独立な場合に)FDR を制御することを証明できる
  • 途中で結果をのぞいて有意になったら止めると第 1 種の過誤が増えることを、数値実験と重複対数の法則で説明できる
  • 交絡とシンプソンのパラドックスを数値例で説明し、傾向スコア・差の差法・回帰不連続デザインの考え方と仮定を述べられる

前提:第1章、第4章。8.5 節では 11 確率論 の重複対数の法則とマルチンゲールの不等式を引用する。8.6 節の傾向スコアの推定では第6章のロジスティック回帰を、8.7 節では第5章の線形回帰を使う。

あるアプリで、新機能を使ったユーザーは、使わなかったユーザーより翌月の利用時間が 30% 長かった。新機能が利用時間を延ばしたのだろうか。もともと熱心なユーザーほど新機能を試すのなら、この差は新機能の効果ではなく、使った人と使わなかった人の違いを映しているだけかもしれない。相関は因果を意味しない。では、因果効果とは数学的に何であり、どんな条件のもとでデータから推定できるのか。

本章では、因果効果を潜在結果で定義し、無作為化が因果効果の推定を可能にする理由を証明する。ウェブサービスで日常的に行われる A/B テスト(ユーザーを無作為に 2 群に分けて施策を比べる実験)は、その最も単純な応用である。続いて、実験の設計(標本サイズ)と解析の落とし穴(多重比較、途中でのぞき見ること)を扱い、最後に、無作為化できない観察データから因果効果に迫る方法(傾向スコア、差の差法、回帰不連続デザイン)を紹介する。

8.1 潜在結果モデル

定義 8.1(潜在結果・処置効果)各個体について、処置を受けた場合の結果 Y(1)Y(1) と受けなかった場合の結果 Y(0)Y(0) を考え、潜在結果 (potential outcomes) という。Y(1)−Y(0)Y(1) - Y(0) をその個体の処置効果という。処置の有無を Z∈{0,1}Z \in \lbrace 0, 1 \rbrace とし、個体ごとの (Y(0),Y(1),Z)(Y(0), Y(1), Z) を確率ベクトルとみなして

τATE=E[Y(1)−Y(0)],τATT=E[Y(1)−Y(0)∣Z=1]\tau_{\mathrm{ATE}} = E[Y(1) - Y(0)], \qquad \tau_{\mathrm{ATT}} = E[Y(1) - Y(0) \mid Z = 1]

を平均処置効果 (average treatment effect, ATE)、処置群の平均処置効果 (average treatment effect on the treated, ATT) という。

この枠組みはネイマン(1923 年)が農事試験の解析のために導入し、ルービンが 1970 年代に観察研究を含む因果推論の一般的な枠組みに発展させた(ルービンの因果モデル)。1 つの個体については Y(1)Y(1) と Y(0)Y(0) の一方しか観測できないので、個体の処置効果は決して観測できない。これを因果推論の根本問題という。観測値と潜在結果を結びつけるのが次の仮定である。

定義 8.2(SUTVA)次の 2 つを合わせて SUTVA(stable unit treatment value assumption)という。(1) 干渉がない:各個体の潜在結果は、ほかの個体が処置を受けるかどうかによらない。(2) 処置は一通り:同じ「処置」の中に、結果に影響する別の版はない。

SUTVA のもとで、各個体の潜在結果は自分の処置だけで決まる 2 つの値として定義でき、観測される結果は

Y=ZY(1)+(1−Z)Y(0)Y = ZY(1) + (1 - Z)Y(0)

である。以下、この式を使うときは SUTVA を仮定している。

命題 8.3(単純比較の偏り)0<P(Z=1)<10 < P(Z = 1) < 1 とし、現れる期待値は存在するとする。SUTVA のもとで

E[Y∣Z=1]−E[Y∣Z=0]=τATT+(E[Y(0)∣Z=1]−E[Y(0)∣Z=0])E[Y \mid Z = 1] - E[Y \mid Z = 0] = \tau_{\mathrm{ATT}} + \bigl(E[Y(0) \mid Z = 1] - E[Y(0) \mid Z = 0]\bigr)

証明. Z=1Z = 1 なら Y=Y(1)Y = Y(1)、Z=0Z = 0 なら Y=Y(0)Y = Y(0) なので、左辺は E[Y(1)∣Z=1]−E[Y(0)∣Z=0]E[Y(1) \mid Z = 1] - E[Y(0) \mid Z = 0] に等しい。これに E[Y(0)∣Z=1]E[Y(0) \mid Z = 1] を引いて足せばよい。□\square

右辺の第 2 項を選択バイアス (selection bias) という。処置を受けた個体が、処置がなくても結果のよい個体であれば正になる。冒頭の例では、熱心なユーザーほど新機能を使うなら、新機能がなくても利用時間は長いので、単純な比較は効果を過大に見せる。第1章 例 1.24 の後の TIP の、成績の悪かった店舗だけを選んで施策を評価すると平均への回帰が効果に見える例も、選び方による偏りである。

8.2 無作為化による識別

処置を無作為に割り付ければ、選択バイアスは消える。

定理 8.4(無作為化による識別) SUTVA を仮定し、ZZ が (Y(0),Y(1))(Y(0), Y(1)) と独立(無作為化)で、0<P(Z=1)<10 < P(Z = 1) < 1、E[∣Y(0)∣],E[∣Y(1)∣]<∞E[\lvert Y(0) \rvert], E[\lvert Y(1) \rvert] < \infty とする。このとき

E[Y∣Z=1]−E[Y∣Z=0]=τATE=τATTE[Y \mid Z = 1] - E[Y \mid Z = 0] = \tau_{\mathrm{ATE}} = \tau_{\mathrm{ATT}}

である。特に、個体が i.i.d. のとき、処置群と対照群の標本平均の差 τ^=Yˉ1−Yˉ0\hat{\tau} = \bar{Y}_1 - \bar{Y}_0 は、個体数 N→∞N \to \infty で τATE\tau_{\mathrm{ATE}} に確率収束する。

証明. z∈{0,1}z \in \lbrace 0, 1 \rbrace について、SUTVA より Y1{Z=z}=Y(z)1{Z=z}Y\mathbf{1}_{\lbrace Z = z \rbrace} = Y(z)\mathbf{1}_{\lbrace Z = z \rbrace} である。独立な確率変数の積の期待値は期待値の積なので(第1章 命題 1.6 の 3)

E[Y∣Z=z]=E[Y(z)1{Z=z}]P(Z=z)=E[Y(z)]P(Z=z)P(Z=z)=E[Y(z)]E[Y \mid Z = z] = \frac{E[Y(z)\mathbf{1}_{\lbrace Z = z \rbrace}]}{P(Z = z)} = \frac{E[Y(z)]P(Z = z)}{P(Z = z)} = E[Y(z)]

よって左辺は E[Y(1)]−E[Y(0)]=τATEE[Y(1)] - E[Y(0)] = \tau_{\mathrm{ATE}} である。同様に、独立性から E[Y(1)−Y(0)∣Z=1]=E[Y(1)−Y(0)]E[Y(1) - Y(0) \mid Z = 1] = E[Y(1) - Y(0)]。後半:Yˉ1\bar{Y}_1 は 1N∑iYi1{Zi=1}\frac{1}{N}\sum_i Y_i\mathbf{1}_{\lbrace Z_i = 1 \rbrace} を 1N∑i1{Zi=1}\frac{1}{N}\sum_i \mathbf{1}_{\lbrace Z_i = 1 \rbrace} で割ったもので、分子と分母は大数の法則(第1章 定理 1.27 の 2)によりそれぞれ E[Y1{Z=1}]E[Y\mathbf{1}_{\lbrace Z = 1 \rbrace}] と P(Z=1)>0P(Z = 1) > 0 に確率収束するから、Yˉ1\bar{Y}_1 は E[Y∣Z=1]E[Y \mid Z = 1] に確率収束する(第1章 定理 1.29 の連続写像定理)。Yˉ0\bar{Y}_0 も同様である。□\square

観測できる (Z,Y)(Z, Y) の分布だけで目的の量が決まることを識別 (identification) という。定理 8.4 は、無作為化のもとで平均処置効果が識別されることを示している。母集団を考えず、実験に参加した個体だけについて述べることもできる。

定理 8.5(完全無作為化実験)NN 個の個体の潜在結果 yi(0),yi(1)y_i(0), y_i(1)(i=1,…,Ni = 1, \dots, N)を定数とし、NN 個体から N1N_1 個体(1≤N1≤N−11 \leq N_1 \leq N - 1)を、どの組合せも等確率になるように選んで処置群とする(N0=N−N1N_0 = N - N_1)。SUTVA のもとで、処置群と対照群の観測値の平均の差 τ^=Yˉ1−Yˉ0\hat{\tau} = \bar{Y}_1 - \bar{Y}_0 は

τfp=1N∑i=1N(yi(1)−yi(0))\tau_{\mathrm{fp}} = \frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}\bigl(y_i(1) - y_i(0)\bigr)

の不偏推定量である。

証明. 個体 ii が処置群に入るとき Zi=1Z_i = 1 とすると、P(Zi=1)=(N−1N1−1)/(NN1)=N1/NP(Z_i = 1) = \binom{N-1}{N_1-1}/\binom{N}{N_1} = N_1/N。SUTVA より Yˉ1=1N1∑iZiyi(1)\bar{Y}_1 = \frac{1}{N_1}\sum_i Z_iy_i(1) なので、E[Yˉ1]=1N1∑iN1Nyi(1)=1N∑iyi(1)E[\bar{Y}_1] = \frac{1}{N_1}\sum_i \frac{N_1}{N}y_i(1) = \frac{1}{N}\sum_i y_i(1)。同様に E[Yˉ0]=1N∑iyi(0)E[\bar{Y}_0] = \frac{1}{N}\sum_i y_i(0)。□\square

定理 8.5 では、確率は割り付けの無作為性だけから生じ、潜在結果の分布については何も仮定していない。τ^\hat{\tau} の分散は S12/N1+S02/N0−Sτ2/NS_1^2/N_1 + S_0^2/N_0 - S_\tau^2/N である。ここで Sz2S_z^2 は y1(z),…,yN(z)y_1(z), \dots, y_N(z) の、Sτ2S_\tau^2 は個体の処置効果 yi(1)−yi(0)y_i(1) - y_i(0) の、N−1N - 1 で割った分散である(ネイマンの公式。主張のみ。Imbens–Rubin を参照)。Sτ2S_\tau^2 は観測できないので、各群の不偏分散 sz2s_z^2 による通常の推定量 s12/N1+s02/N0s_1^2/N_1 + s_0^2/N_0 は、平均的に真の分散以上になる(保守的)。

ヒント

実務では A/B テストの結論は定理 8.4 の仮定に依存する。(1) まず、各群の人数の比が設計どおりかを検定する。ずれていれば(標本比率の不一致, sample ratio mismatch)、割り付けやログの取りこぼしが群によって違い、無作為化が壊れている疑いがある。(2) SNS や、出品者と購入者がいるマーケットプレイスでは、処置群の行動が対照群の結果に影響し、SUTVA の「干渉がない」が破れる。地域や時間帯などのまとまりごとに割り付ける(クラスター無作為化)などの工夫が要る。(3) 新しいものへの一時的な好奇心(新奇性効果)のために、短期の効果が長期の効果と違うことがある。詳しくは Kohavi–Tang–Xu の本を参照。

8.3 A/B テストの検出力と標本サイズ

A/B テストでは、実験の前に「どれだけの差を、どれだけの確率で検出したいか」を決め、必要な人数を計算する。人数が少なすぎる実験は、効果があっても見逃しやすく(第4章 4.9 節)、有意になったときには効果を過大に推定しがちである(第7章の勝者の呪い)。

各群 nn 人とし、差の推定量を DD(比率の差 p^B−p^A\hat{p}_B - \hat{p}_A や平均の差 YˉB−YˉA\bar{Y}_B - \bar{Y}_A)、真の差を δ\delta とする。中心極限定理により、DD は近似的に N(δ,σ12/n)N(\delta, \sigma_1^2/n) に従い、帰無仮説 δ=0\delta = 0 のもとでは N(0,σ02/n)N(0, \sigma_0^2/n) に従う。両側有意水準 α\alpha の検定は ∣D∣≥zα/2σ0/n\lvert D \rvert \geq z_{\alpha/2}\sigma_0/\sqrt{n} のとき棄却する(zαz_\alpha は上側 α\alpha 点)。まず、正規分布が厳密に成り立つとして計算する。

命題 8.6(検出力と標本サイズ)D∼N(δ,s12)D \sim N(\delta, s_1^2)、δ>0\delta > 0 とし、∣D∣≥zα/2s0\lvert D \rvert \geq z_{\alpha/2}s_0 のとき棄却する検定を考える(s0,s1>0s_0, s_1 > 0)。この検定の検出力は

Φ(δ−zα/2s0s1)+Φ(−δ−zα/2s0s1)\Phi\left(\frac{\delta - z_{\alpha/2}s_0}{s_1}\right) + \Phi\left(\frac{-\delta - z_{\alpha/2}s_0}{s_1}\right)

であり、0<β<1/20 < \beta < 1/2 について、δ≥zα/2s0+zβs1\delta \geq z_{\alpha/2}s_0 + z_\beta s_1 ならば検出力は 1−β1 - \beta 以上である。s0=σ0/ns_0 = \sigma_0/\sqrt{n}、s1=σ1/ns_1 = \sigma_1/\sqrt{n} のとき、この条件は次と同値である。

n≥(zα/2σ0+zβσ1)2δ2n \geq \frac{(z_{\alpha/2}\sigma_0 + z_\beta\sigma_1)^2}{\delta^2}

証明. (D−δ)/s1∼N(0,1)(D - \delta)/s_1 \sim N(0, 1) と 1−Φ(−u)=Φ(u)1 - \Phi(-u) = \Phi(u) より

P(D≥zα/2s0)=P(D−δs1≥zα/2s0−δs1)=Φ(δ−zα/2s0s1)P(D \geq z_{\alpha/2}s_0) = P\left(\frac{D - \delta}{s_1} \geq \frac{z_{\alpha/2}s_0 - \delta}{s_1}\right) = \Phi\left(\frac{\delta - z_{\alpha/2}s_0}{s_1}\right)

であり、同様に P(D≤−zα/2s0)=Φ((−δ−zα/2s0)/s1)P(D \leq -z_{\alpha/2}s_0) = \Phi((-\delta - z_{\alpha/2}s_0)/s_1) で、この 2 つの和が検出力である。第 2 項は正なので、第 1 項が 1−β=Φ(zβ)1 - \beta = \Phi(z_\beta) 以上なら検出力は 1−β1 - \beta 以上であり、Φ\Phi の単調性より、それは (δ−zα/2s0)/s1≥zβ(\delta - z_{\alpha/2}s_0)/s_1 \geq z_\beta と同値である。最後の同値は、両辺に n\sqrt{n} を掛けて整理すればよい(zβ>0z_\beta > 0 に注意)。□\square

命題 8.6 を A/B テストに使うときの近似は、(i) DD を正規分布で置き換えること(中心極限定理による。有限の nn での誤差は、分布の歪みや裾の重さとともに大きくなりやすい。第1章 1.7 節の WARNING)と、(ii) 実際の検定では分散を推定値で置き換えるのに、それを真の値とみなすことの 2 点である。第 2 項を無視するのは検出力を低めに見積もる側なので、それ自体は安全側である。

系 8.7(標本サイズの近似公式)両側有意水準 α\alpha、検出力 1−β1 - \beta で差 δ≠0\delta \neq 0 を検出するための 1 群あたりの人数は、近似的に次のとおりである。

  1. (比率の差)購入率 pAp_A と pB=pA+δp_B = p_A + \delta を、帰無仮説のもとでの分散にプールした比率を使う zz 検定で比べるなら、pˉ=(pA+pB)/2\bar{p} = (p_A + p_B)/2 として
n=(zα/22pˉ(1−pˉ)+zβpA(1−pA)+pB(1−pB))2δ2n = \frac{\left(z_{\alpha/2}\sqrt{2\bar{p}(1 - \bar{p})} + z_\beta\sqrt{p_A(1 - p_A) + p_B(1 - p_B)}\right)^2}{\delta^2}
  1. (平均の差)両群の標準偏差が共通の σ\sigma なら、n=2σ2(zα/2+zβ)2/δ2n = 2\sigma^2(z_{\alpha/2} + z_\beta)^2/\delta^2。

証明. 1. 各群 nn 人なら Var⁡(p^B−p^A)=(pA(1−pA)+pB(1−pB))/n\operatorname{Var}(\hat{p}_B - \hat{p}_A) = (p_A(1 - p_A) + p_B(1 - p_B))/n で、帰無仮説 pA=pB=pp_A = p_B = p のもとでは 2p(1−p)/n2p(1 - p)/n である。プールした比率は pˉ\bar{p} の近くの値をとるので、σ02=2pˉ(1−pˉ)\sigma_0^2 = 2\bar{p}(1 - \bar{p})、σ12=pA(1−pA)+pB(1−pB)\sigma_1^2 = p_A(1 - p_A) + p_B(1 - p_B) として命題 8.6 を使う(δ<0\delta < 0 なら A と B を入れ替える)。2. σ02=σ12=2σ2\sigma_0^2 = \sigma_1^2 = 2\sigma^2 として命題 8.6 を使う。□\square

α=0.05\alpha = 0.05、検出力 0.80.8 では z0.025=1.960z_{0.025} = 1.960、z0.2=0.842z_{0.2} = 0.842 で、2(z0.025+z0.2)2=15.72(z_{0.025} + z_{0.2})^2 = 15.7 だから、平均の差では n≈16σ2/δ2n \approx 16\sigma^2/\delta^2 と覚えておくと便利である。必要な人数は δ2\delta^2 に反比例し、検出したい差を半分にすると約 4 倍になる。

例 8.8 購入率 pA=0.10p_A = 0.10 のページで pB=0.11p_B = 0.11(相対 10% の改善)を、両側 5%、検出力 80% で検出するには、系 8.7 の 1 より 1 群 n=14751n = 14751 人が必要である。この nn で二項分布から 40 万回のシミュレーションを行うと、プールした比率の zz 検定の棄却率は pB=0.11p_B = 0.11 で 0.8010.801、pB=0.10p_B = 0.10 で 0.0500.050 であり(計算機による)、近似はよい。検出したい差を 2 倍の pB=0.12p_B = 0.12 にすると n=3841n = 3841 である。1 人あたり売上(標準偏差 σ=3000\sigma = 3000 円)で δ=100\delta = 100 円の差を検出するには、系 8.7 の 2 より n=14128n = 14128 人が必要である。売上のように裾の重い分布では中心極限定理による近似が遅く、少数の高額購入者が結果を左右することにも注意が要る。

8.4 多重比較

一つの実験で多数の指標を検定すると、すべての帰無仮説が正しくても、どれかが有意になる確率は大きくなる(独立な 20 個の検定なら 1−0.9520=0.641 - 0.95^{20} = 0.64。第4章 問題 4.7)。以下、mm 個の帰無仮説 H1,…,HmH_1, \dots, H_m とその pp 値 p1,…,pmp_1, \dots, p_m を考える。正しい帰無仮説の添字の集合を I0I_0、m0=∣I0∣m_0 = \lvert I_0 \rvert とし、i∈I0i \in I_0 の pp 値はすべての u∈[0,1]u \in [0, 1] で P(pi≤u)≤uP(p_i \leq u) \leq u をみたすとする(第4章 定理 4.10)。棄却した仮説の数を RR、そのうち正しい帰無仮説の数を VV とする。

定義 8.9(FWER と FDR)FWER=P(V≥1)\mathrm{FWER} = P(V \geq 1) をファミリーワイズ・エラー率 (family-wise error rate)、FDR=E[V/max⁡(R,1)]\mathrm{FDR} = E[V/\max(R, 1)] を偽発見率 (false discovery rate) という。

FWER は「一つでも誤って棄却する確率」、FDR は「棄却したもの(発見)のうち誤りの割合の期待値」である。V/max⁡(R,1)≤1{V≥1}V/\max(R, 1) \leq \mathbf{1}_{\lbrace V \geq 1 \rbrace} なので FDR≤FWER\mathrm{FDR} \leq \mathrm{FWER} である。

定理 8.10(ボンフェローニ法)pp 値が α/m\alpha/m 以下の仮説を棄却すると、pp 値の間の依存関係によらず FWER≤m0α/m≤α\mathrm{FWER} \leq m_0\alpha/m \leq \alpha である。

証明. P(V≥1)=P(⋃i∈I0{pi≤α/m})≤∑i∈I0P(pi≤α/m)≤m0α/mP(V \geq 1) = P\left(\bigcup_{i \in I_0}\lbrace p_i \leq \alpha/m \rbrace\right) \leq \sum_{i \in I_0}P(p_i \leq \alpha/m) \leq m_0\alpha/m。□\square

定理 8.11(ホルム法, Holm 1979)pp 値を小さい順に p(1)≤⋯≤p(m)p_{(1)} \leq \cdots \leq p_{(m)} と並べ、対応する仮説を H(1),…,H(m)H_{(1)}, \dots, H_{(m)} とする(同じ値は任意の順に並べる)。p(k)>α/(m−k+1)p_{(k)} > \alpha/(m - k + 1) となる最小の kk をとり、H(1),…,H(k−1)H_{(1)}, \dots, H_{(k-1)} を棄却する(そのような kk がなければすべて棄却する)。このとき、pp 値の間の依存関係によらず FWER≤α\mathrm{FWER} \leq \alpha である。

証明. m0≥1m_0 \geq 1 としてよい。並べた順で最初に現れる正しい帰無仮説を jj 番目とすると、それより前の j−1j - 1 個はすべて誤った帰無仮説なので j−1≤m−m0j - 1 \leq m - m_0、すなわち m−j+1≥m0m - j + 1 \geq m_0 である。ホルム法は並べた順で先頭から続けて棄却するので、正しい帰無仮説が一つでも棄却されるなら H(j)H_{(j)} も棄却されており、そのためには p(j)≤α/(m−j+1)≤α/m0p_{(j)} \leq \alpha/(m - j + 1) \leq \alpha/m_0 でなければならない。p(j)=min⁡i∈I0pip_{(j)} = \min_{i \in I_0}p_i だから

P(V≥1)≤P(min⁡i∈I0pi≤αm0)≤∑i∈I0P(pi≤αm0)≤α□P(V \geq 1) \leq P\left(\min_{i \in I_0}p_i \leq \frac{\alpha}{m_0}\right) \leq \sum_{i \in I_0}P\left(p_i \leq \frac{\alpha}{m_0}\right) \leq \alpha \qquad \square

ボンフェローニ法が棄却する仮説はホルム法でも棄却されるので(k≤mk \leq m で α/m≤α/(m−k+1)\alpha/m \leq \alpha/(m - k + 1))、ホルム法は同じ保証のもとで、つねに同じかそれ以上の数を棄却する。

何千もの候補(商品、広告のセグメント、遺伝子)から「さらに調べる価値のあるもの」を選ぶ場面では、一つの誤りも許さない FWER の制御は厳しすぎ、発見のうち誤りの割合を抑えれば十分なことが多い。第4章 4.3 節の WARNING(pp 値の誤解)の例で、有意になった施策の 36% が実は効果のないものだったのは、この割合が大きい状況である。

定理 8.12(ベンジャミニ–ホッホベルク法, Benjamini–Hochberg 1995)R=max⁡{k∣p(k)≤kα/m}R = \max\lbrace k \mid p_{(k)} \leq k\alpha/m \rbrace(そのような kk がなければ R=0R = 0)とし、H(1),…,H(R)H_{(1)}, \dots, H_{(R)} を棄却する(BH 法)。各 i∈I0i \in I_0 について、pip_i がほかの pp 値の組 (pj)j≠i(p_j)_{j \neq i} と独立ならば、FDR≤m0α/m≤α\mathrm{FDR} \leq m_0\alpha/m \leq \alpha である。i∈I0i \in I_0 の pip_i が一様分布に従うなら、等号 FDR=m0α/m\mathrm{FDR} = m_0\alpha/m が成り立つ。

証明. c(k)=∣{j∣pj≤kα/m}∣c(k) = \lvert \lbrace j \mid p_j \leq k\alpha/m \rbrace \rvert(k=0,1,…,mk = 0, 1, \dots, m)とおくと、p(k)≤kα/m  ⟺  c(k)≥kp_{(k)} \leq k\alpha/m \iff c(k) \geq k なので、R=max⁡{k∣c(k)≥k}R = \max\lbrace k \mid c(k) \geq k \rbrace である(k=0k = 0 はつねに条件をみたす)。

(a) 棄却されるのは、ちょうど pj≤Rα/mp_j \leq R\alpha/m となる HjH_j である。実際、c(R)>Rc(R) > R なら、cc は単調増加だから c(c(R))≥c(R)c(c(R)) \geq c(R) となり、RR の最大性に反する。よって c(R)=Rc(R) = R で、pj≤Rα/mp_j \leq R\alpha/m となる jj はちょうど RR 個、すなわち pp 値の小さい方から RR 個である。

(b) i∈I0i \in I_0 を固定し、pip_i を 00 に置き換えた組で計算した c,Rc, R を c~,Ri\tilde{c}, R_i とする。RiR_i は (pj)j≠i(p_j)_{j \neq i} だけの関数で、c~(1)≥1\tilde{c}(1) \geq 1 より Ri≥1R_i \geq 1 である。k≥1k \geq 1 について

{pi≤kα/m, R=k}={pi≤kα/m, Ri=k}\lbrace p_i \leq k\alpha/m,\ R = k \rbrace = \lbrace p_i \leq k\alpha/m,\ R_i = k \rbrace

を示す。c~(l)=c(l)+1{pi>lα/m}\tilde{c}(l) = c(l) + \mathbf{1}_{\lbrace p_i > l\alpha/m \rbrace} なので、pi≤kα/mp_i \leq k\alpha/m なら l≥kl \geq k で c~(l)=c(l)\tilde{c}(l) = c(l) である。よって pi≤kα/mp_i \leq k\alpha/m のもとで、「c(k)≥kc(k) \geq k かつ l>kl > k では c(l)<lc(l) < l」(R=kR = k)と「c~(k)≥k\tilde{c}(k) \geq k かつ l>kl > k では c~(l)<l\tilde{c}(l) < l」(Ri=kR_i = k)は同値である。

(c) HiH_i を棄却する事象を AiA_i とすると V=∑i∈I01AiV = \sum_{i \in I_0}\mathbf{1}_{A_i} で、(a) より Ai={pi≤Rα/m, R≥1}A_i = \lbrace p_i \leq R\alpha/m,\ R \geq 1 \rbrace である。よって V/max⁡(R,1)=∑i∈I0∑k=1m1k1{pi≤kα/m, R=k}V/\max(R, 1) = \sum_{i \in I_0}\sum_{k=1}^{m}\frac{1}{k}\mathbf{1}_{\lbrace p_i \leq k\alpha/m,\ R = k \rbrace} であり、期待値をとって (b) と、pip_i と RiR_i の独立性、P(pi≤u)≤uP(p_i \leq u) \leq u を使うと

FDR=∑i∈I0∑k=1m1kP(pi≤kαm, R=k)=∑i∈I0∑k=1m1kP(pi≤kαm)P(Ri=k)≤∑i∈I0∑k=1mαmP(Ri=k)=m0αm\begin{aligned} \mathrm{FDR} &= \sum_{i \in I_0}\sum_{k=1}^{m}\frac{1}{k}P\left(p_i \leq \frac{k\alpha}{m},\ R = k\right) = \sum_{i \in I_0}\sum_{k=1}^{m}\frac{1}{k}P\left(p_i \leq \frac{k\alpha}{m}\right)P(R_i = k) \\ &\leq \sum_{i \in I_0}\sum_{k=1}^{m}\frac{\alpha}{m}P(R_i = k) = \frac{m_0\alpha}{m} \end{aligned}

最後の等号は、Ri≥1R_i \geq 1 より ∑k=1mP(Ri=k)=1\sum_{k=1}^{m}P(R_i = k) = 1 となることによる。pip_i が一様分布なら、不等号は等号になる。□\square

例 8.13 m=10m = 10、α=0.05\alpha = 0.05 で、pp 値を小さい順に並べたものと、ホルム法・BH 法の閾値が次のとおりだったとする。

順位 kk 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
p(k)p_{(k)} 0.001 0.004 0.006 0.012 0.021 0.035 0.041 0.10 0.32 0.68
ホルム α/(m−k+1)\alpha/(m - k + 1) 0.00500 0.00556 0.00625 0.00714 0.00833 0.0100 0.0125 0.0167 0.0250 0.0500
BH kα/mk\alpha/m 0.005 0.010 0.015 0.020 0.025 0.030 0.035 0.040 0.045 0.050

ボンフェローニ法(閾値 0.0050.005)は 2 個、ホルム法は k=4k = 4 で 0.012>0.007140.012 > 0.00714 となって止まるので 3 個、BH 法は p(k)≤kα/mp_{(k)} \leq k\alpha/m となる最大の kk が 55 なので 5 個を棄却する。

注意 8.14 BH 法は、pp 値の組が、正しい帰無仮説の各 pp 値に対してある種の正の依存をもつ場合(PRDS と呼ばれる条件。片側検定の検定統計量が、相関がすべて非負の多変量正規分布に従う場合など)にも FDR を m0α/mm_0\alpha/m 以下に制御し、任意の依存関係のもとでも α\alpha を α/∑j=1m(1/j)\alpha/\sum_{j=1}^{m}(1/j) に置き換えれば制御できる(ベンジャミニとイェクティエリ、2001 年。主張のみ。後者は Wasserman の All of Statistics の多重検定の節にもある)。どちらの誤りの指標を制御すべきかは、誤りの重さで決まる(問題 8.5)。

8.5 途中でのぞき見ることと pp ハッキング

A/B テストの結果は、ダッシュボードで毎日見られることが多い。「毎日検定し、pp 値が 0.050.05 を下回った時点で実験を止めて B の勝ちとする」運用は、第 1 種の過誤の確率を α\alpha よりずっと大きくする。次のコードは、購入率がともに 10% の 2 群(A/A テスト:真の差は 00)で、1 日に各群 500 人ずつデータが増える状況を 10 万回繰り返し、1 日目から kk 日目まで毎日行う zz 検定(両側 5%)で一度でも有意になる割合を数える。

import numpy as np

rng = np.random.default_rng(0)
sims, looks, batch, p = 100000, 20, 500, 0.10   # A/A テスト:両群とも購入率 10%
xa = rng.binomial(batch, p, size=(sims, looks)).cumsum(axis=1)   # A の累積購入数
xb = rng.binomial(batch, p, size=(sims, looks)).cumsum(axis=1)   # B の累積購入数
n = batch * np.arange(1, looks + 1)                               # 各群の累積人数
pool = (xa + xb) / (2 * n)
z = (xb - xa) / n / np.sqrt(pool * (1 - pool) * 2 / n)           # 比率の差の z 統計量
sig = np.abs(z) > 1.96                                            # 両側 5% で有意か
print(f"最後に 1 回だけ検定する      : {sig[:, -1].mean():.3f}")
for k in (2, 5, 10, 20):
    print(f"{k:2d} 回のぞき、一度でも有意 : {sig[:, :k].any(axis=1).mean():.3f}")
最後に 1 回だけ検定する      : 0.051
 2 回のぞき、一度でも有意 : 0.084
 5 回のぞき、一度でも有意 : 0.142
10 回のぞき、一度でも有意 : 0.195
20 回のぞき、一度でも有意 : 0.250

20 日目に 1 回だけ検定すれば有意になる割合は 5% のままだが、毎日のぞけば 20 日で 25% になる。データを正規分布で近似した同じ計算を 200 万回繰り返すと、2・5・10・20・50・100 回のぞいた場合の割合は 0.083,0.142,0.193,0.248,0.320,0.3730.083, 0.142, 0.193, 0.248, 0.320, 0.373 で(計算機による)、のぞく回数とともに増え続ける。実際、のぞく回数に上限がなければ、いつかは必ず有意になる。

命題 8.15(のぞき続ければいつかは有意になる)D1,D2,…D_1, D_2, \dots を i.i.d. で E[D1]=0E[D_1] = 0、Var⁡(D1)=σ2∈(0,∞)\operatorname{Var}(D_1) = \sigma^2 \in (0, \infty) とし(帰無仮説のもとでの、1 組ずつのデータの差など)、Zn=(D1+⋯+Dn)/(σn)Z_n = (D_1 + \cdots + D_n)/(\sigma\sqrt{n}) とする。任意の c>0c > 0 について、確率 1 で ∣Zn∣>c\lvert Z_n \rvert > c となる nn が存在する。

証明. 重複対数の法則(11 確率論 第4章 定理 4.26。証明は同章でも省略されている)を Dk/σD_k/\sigma に使うと、確率 1 で lim sup⁡nZn/2log⁡log⁡n=1\limsup_{n}Z_n/\sqrt{2\log\log n} = 1 である。2log⁡log⁡n→∞\sqrt{2\log\log n} \to \infty なので、確率 1 で lim sup⁡nZn=∞\limsup_n Z_n = \infty となる。□\square

止めるかどうかをデータを見て決めると、最後に計算した pp 値は、もはや第4章 定義 4.9 の意味での pp 値ではない。のぞき見ること自体ではなく、のぞいた結果で止めるかどうかを決めることが問題なのである。

注意 8.16(のぞいても妥当な方法)(1) 群逐次デザイン (group sequential design):のぞく回数と時期を事前に決め、各回の棄却値を大きくして、全体の第 1 種の過誤を α\alpha に保つ。たとえば等間隔に 5 回のぞくなら、各回 ∣z∣>2.41\lvert z \rvert > 2.41 で棄却すれば全体で 5% になる(正規近似のもとで計算機により求めた値。20 回なら約 2.672.67)。初めは厳しく後になるほど緩い棄却値を使う方法(オブライエン–フレミング型)もある。(2) 尤度比のマルチンゲール:帰無仮説のもとで D1,D2,…D_1, D_2, \dots が i.i.d. で密度 f0>0f_0 > 0 に従う(帰無仮説が一つの分布に決まる)とし、対立仮説の密度を f1f_1 とする。尤度比 Λn=∏k=1nf1(Dk)/f0(Dk)\Lambda_n = \prod_{k=1}^{n}f_1(D_k)/f_0(D_k) は、帰無仮説のもとで平均 11 の非負のマルチンゲールである(E[f1(D)/f0(D)]=∫f1=1E[f_1(D)/f_0(D)] = \int f_1 = 1)。ドゥーブの最大不等式(11 確率論 第5章 定理 5.15)より P(max⁡k≤nΛk≥1/α)≤αE[Λn]=αP(\max_{k \leq n}\Lambda_k \geq 1/\alpha) \leq \alpha E[\Lambda_n] = \alpha で、n→∞n \to \infty とすると、Λn\Lambda_n が一度でも 1/α1/\alpha 以上になる確率は α\alpha 以下である。よって「Λn≥1/α\Lambda_n \geq 1/\alpha になったら止めて棄却する」検定は、何度のぞいても第 1 種の過誤が α\alpha 以下である(A/B テストの「両群の購入率が等しい」のように、帰無仮説が未知のパラメータ(共通の購入率)を含む場合には、この議論はそのままでは使えず、工夫が要る)。f1f_1 のパラメータを事前分布で平均した尤度比、すなわち第7章 定義 7.28 のベイズファクター B10B_{10} も同じ性質をもつ。

のぞき見を含め、分析の選択肢(指標、対象期間、セグメント、外れ値の除外規則、共変量)を試して有意になったものだけを報告することを pp ハッキング (pp-hacking) という。これは報告されない多重比較であり、報告された pp 値の保証は失われる。対策は、主要な指標・分析方法・標本の大きさを事前に決めて記録しておくこと(事前登録)、試したすべての分析を報告すること、探索的に見つけた結果は別の実験で確かめることである。

ヒント

実務では 「有意になったら早めに止める」を許すなら、その規則を事前に決め、注意 8.16 の方法で規則に合った棄却値を使う。一方、害が大きいことがわかった実験を早く止める(安全性のための停止)のは正当であり、その基準も事前に決めておく。曜日によって利用者の構成が違うので、実験期間は 1 週間単位にすることが多い。

8.6 交絡とシンプソンのパラドックス

無作為化できないデータでは、処置を受けるかどうかが、結果に関係する性質に左右される。処置と結果の両方に影響する変数を交絡因子 (confounder) という(第1章 問題 1.4 の、気温がアイスクリームの売上と熱中症の救急搬送の両方を増やす例では、気温が見かけの相関を生む共通の原因である)。

例 8.17(シンプソンのパラドックス)新規顧客の獲得のために、クーポンを主に新規顧客に配った。購入者数と対象人数は次のとおりである。

クーポンあり クーポンなし
新規顧客 120/1000(12%) 20/200(10%)
既存顧客 90/200(45%) 400/1000(40%)
合計 210/1200(17.5%) 420/1200(35%)

どちらの顧客層でもクーポンありの購入率のほうが高い(+2+2 ポイントと +5+5 ポイント)のに、合計ではクーポンありのほうが 17.517.5 ポイントも低い。これをシンプソンのパラドックス (Simpson's paradox) という。顧客層は、クーポンを受け取るかどうかと購入率の両方に関係する交絡因子であり、合計の比較は「新規顧客と既存顧客の比較」を大きく含んでしまう。クーポンの配布が顧客層だけで決まったのなら、層ごとの購入率を全体の人数の比(新規 12001200 人、既存 12001200 人)で平均した

(0.5⋅0.12+0.5⋅0.45)−(0.5⋅0.10+0.5⋅0.40)=0.285−0.25=0.035(0.5 \cdot 0.12 + 0.5 \cdot 0.45) - (0.5 \cdot 0.10 + 0.5 \cdot 0.40) = 0.285 - 0.25 = 0.035

が、クーポンの平均処置効果の推定値になる(標準化)。その根拠が次の定理である。

定理 8.18(調整化公式)有限個の値をとる共変量 XX について、SUTVA と次の 2 つを仮定する。(1) 条件付き無視可能性:各 xx について、X=xX = x のもとで ZZ と (Y(0),Y(1))(Y(0), Y(1)) は条件付き独立である。(2) 正値性:P(X=x)>0P(X = x) > 0 となるすべての xx で 0<e(x)<10 < e(x) < 1。ここで e(x)=P(Z=1∣X=x)e(x) = P(Z = 1 \mid X = x) である。E[∣Y(0)∣],E[∣Y(1)∣]<∞E[\lvert Y(0) \rvert], E[\lvert Y(1) \rvert] < \infty ならば、z=0,1z = 0, 1 について

E[Y(z)]=∑xE[Y∣Z=z,X=x]P(X=x)E[Y(z)] = \sum_x E[Y \mid Z = z, X = x]P(X = x)

であり、さらに E[Y(1)]=E[ZY/e(X)]E[Y(1)] = E[ZY/e(X)]、E[Y(0)]=E[(1−Z)Y/(1−e(X))]E[Y(0)] = E[(1 - Z)Y/(1 - e(X))] が成り立つ。

証明. SUTVA と (1) より、E[Y∣Z=z,X=x]=E[Y(z)∣Z=z,X=x]=E[Y(z)∣X=x]E[Y \mid Z = z, X = x] = E[Y(z) \mid Z = z, X = x] = E[Y(z) \mid X = x] である((2) より条件の確率は正)。これに P(X=x)P(X = x) を掛けて足すと、全期待値の公式より E[Y(z)]E[Y(z)] になる。後半:ZY=ZY(1)ZY = ZY(1) と (1) より E[ZY∣X=x]=e(x)E[Y(1)∣X=x]E[ZY \mid X = x] = e(x)E[Y(1) \mid X = x] なので

E[ZYe(X)]=∑xP(X=x)E[ZY∣X=x]e(x)=∑xP(X=x)E[Y(1)∣X=x]=E[Y(1)]E\left[\frac{ZY}{e(X)}\right] = \sum_x P(X = x)\frac{E[ZY \mid X = x]}{e(x)} = \sum_x P(X = x)E[Y(1) \mid X = x] = E[Y(1)]

Y(0)Y(0) も同様である。□\square

後半の式による推定を逆確率重み付け (inverse probability weighting, IPW) という。処置群の各個体を、処置を受ける確率の逆数 1/e(x)1/e(x) 倍に数えることで、処置群を全体の代表に作り直している(問題 8.8)。(1) は「XX のほかに交絡因子がない」という仮定であり、データから検証することはできない。

定理 8.19(傾向スコア, Rosenbaum–Rubin 1983)e(X)=P(Z=1∣X)e(X) = P(Z = 1 \mid X) を傾向スコア (propensity score) という。(1) XX と ZZ は、e(X)e(X) を与えたもとで条件付き独立である(バランス性)。(2) 定理 8.18 の (1) と (2) が成り立つなら、e(X)e(X) を与えたもとでも ZZ と (Y(0),Y(1))(Y(0), Y(1)) は条件付き独立である。(主張のみ。Imbens–Rubin、星野『調査観察データの統計科学』を参照。)

共変量が多いと、XX の値ごとの層には少数の個体しかいなくなるが、定理 8.19 より、1 次元の e(X)e(X) で層別・マッチング・重み付けをすれば足りる。実際には e(x)e(x) は未知なので、ロジスティック回帰(第6章)などで推定し、推定した傾向スコアで重み付けした後に各共変量の分布が群の間でそろったかを確かめる。e(x)e(x) が 00 や 11 に近い個体があると重み 1/e(x)1/e(x) が極端に大きくなり、推定が不安定になる(正値性がほとんど破れている状態である)。

注意

「変数をたくさん調整するほど偏りが減る」とは限らない。処置の結果として変わる変数(中間変数。たとえばクーポンで増えたサイト訪問回数)で層別すると、効果の一部を消してしまう。処置と結果の両方から影響を受ける変数(合流点)で層別すると、もともとなかった相関が生まれる。調整すべきなのは、処置より前に決まっている交絡因子である。どの変数が交絡因子かはデータだけからは決まらず、因果の構造についての知識と仮定が要る。そして、測っていない交絡因子による偏りは、どの方法でも取り除けない。

8.7 差の差法と回帰不連続デザイン(紹介)

差の差法 (difference-in-differences, DiD):ある地域 T でだけ施策(送料無料など)を導入し、導入しなかった地域 C と比べる。T の導入前後の差には、施策の効果と、季節などによる時間の変化が混ざっているので、C の前後の差で時間の変化を見積もって引く。期間 t∈{pre,post}t \in \lbrace \mathrm{pre}, \mathrm{post} \rbrace の潜在結果を Yt(0),Yt(1)Y_t(0), Y_t(1)、群を G∈{T,C}G \in \lbrace T, C \rbrace とする。T は post にだけ処置を受け、C はどちらの期間にも受けず、施策の前には効果がない(両群で Ypre=Ypre(0)Y_{\mathrm{pre}} = Y_{\mathrm{pre}}(0))とする。

命題 8.20(差の差法)平行トレンドの仮定 E[Ypost(0)−Ypre(0)∣G=T]=E[Ypost(0)−Ypre(0)∣G=C]E[Y_{\mathrm{post}}(0) - Y_{\mathrm{pre}}(0) \mid G = T] = E[Y_{\mathrm{post}}(0) - Y_{\mathrm{pre}}(0) \mid G = C] のもとで、

(E[Ypost∣T]−E[Ypre∣T])−(E[Ypost∣C]−E[Ypre∣C])=E[Ypost(1)−Ypost(0)∣G=T]\bigl(E[Y_{\mathrm{post}} \mid T] - E[Y_{\mathrm{pre}} \mid T]\bigr) - \bigl(E[Y_{\mathrm{post}} \mid C] - E[Y_{\mathrm{pre}} \mid C]\bigr) = E[Y_{\mathrm{post}}(1) - Y_{\mathrm{post}}(0) \mid G = T]

である(∣T\mid T は ∣G=T\mid G = T の略)。

証明. T では Ypost=Ypost(1)Y_{\mathrm{post}} = Y_{\mathrm{post}}(1)、C では Ypost=Ypost(0)Y_{\mathrm{post}} = Y_{\mathrm{post}}(0) なので、T の前後差は E[Ypost(1)−Ypost(0)∣T]+E[Ypost(0)−Ypre(0)∣T]E[Y_{\mathrm{post}}(1) - Y_{\mathrm{post}}(0) \mid T] + E[Y_{\mathrm{post}}(0) - Y_{\mathrm{pre}}(0) \mid T]、C の前後差は E[Ypost(0)−Ypre(0)∣C]E[Y_{\mathrm{post}}(0) - Y_{\mathrm{pre}}(0) \mid C] である。平行トレンドの仮定より、第 2 項どうしが打ち消し合う。□\square

たとえば 1 店舗あたりの週の売上(万円)が、T で導入前 100100 から導入後 130130、C で 8080 から 9595 になったなら、推定値は (130−100)−(95−80)=15(130 - 100) - (95 - 80) = 15 である。群の水準の違い(100100 と 8080)は許されるが、「施策がなければ両群は同じだけ変化したはずだ」という仮定は直接は検証できないので、導入前の複数の期間で両群の推移が平行だったかを確かめる。回帰の言葉では、Y=β0+β11T+β21post+β31T1post+εY = \beta_0 + \beta_1\mathbf{1}_T + \beta_2\mathbf{1}_{\mathrm{post}} + \beta_3\mathbf{1}_T\mathbf{1}_{\mathrm{post}} + \varepsilon の交互作用の係数 β3\beta_3 の最小二乗推定値が、差の差の推定値になる(第5章 5.8 節)。

回帰不連続デザイン (regression discontinuity design, RDD):処置が、連続な変数 XX(割り当て変数)が閾値 cc 以上かどうかで決まる場合を考える。たとえば前年の購入額が 5 万円以上の顧客を優待会員にする場合で、Z=1{X≥c}Z = \mathbf{1}_{\lbrace X \geq c \rbrace} である。cc のすぐ上と下の顧客は、処置の有無を除けばよく似ているはずである。

命題 8.21(回帰不連続デザイン)XX は cc の近くで正の密度をもち、x↦E[Y(0)∣X=x]x \mapsto E[Y(0) \mid X = x] と x↦E[Y(1)∣X=x]x \mapsto E[Y(1) \mid X = x] が x=cx = c で連続ならば、SUTVA のもとで

lim⁡x→c+0E[Y∣X=x]−lim⁡x→c−0E[Y∣X=x]=E[Y(1)−Y(0)∣X=c]\lim_{x \to c + 0}E[Y \mid X = x] - \lim_{x \to c - 0}E[Y \mid X = x] = E[Y(1) - Y(0) \mid X = c]

証明. x≥cx \geq c なら Z=1Z = 1 なので E[Y∣X=x]=E[Y(1)∣X=x]E[Y \mid X = x] = E[Y(1) \mid X = x]、x<cx < c なら E[Y∣X=x]=E[Y(0)∣X=x]E[Y \mid X = x] = E[Y(0) \mid X = x] である。連続性より、それぞれの極限は E[Y(1)∣X=c]E[Y(1) \mid X = c]、E[Y(0)∣X=c]E[Y(0) \mid X = c] である。□\square

実際には、閾値の両側で cc の近くのデータだけを使って回帰直線を当てはめ(局所線形回帰)、cc での値の差を推定する。わかるのは閾値の近くの顧客についての効果だけである。また、顧客が閾値をまたぐように行動を変えられる(閾値の直前に買い足す)と、cc の上下で顧客の性質が変わり、連続性の仮定が崩れる。XX の分布が cc の直上に偏っていないかを確かめるのが標準的な点検である。

まとめ

  • 因果効果は潜在結果の差で定義され、個体ごとには観測できない。単純な群間比較は、処置群での効果と選択バイアスの和である。
  • SUTVA と無作為化のもとで、群の平均の差は平均処置効果を識別し、完全無作為化実験では不偏推定量になる。割り付け比の点検と干渉の有無の確認が、実務での前提になる。
  • 1 群あたりの人数は、正規近似のもとで検出力の式から n=(zα/2σ0+zβσ1)2/δ2n = (z_{\alpha/2}\sigma_0 + z_\beta\sigma_1)^2/\delta^2 と求まる(近似)。必要な人数は検出したい差の 2 乗に反比例する。
  • ボンフェローニ法とホルム法は任意の依存関係のもとで FWER を、BH 法は独立性のもとで FDR を m0α/mm_0\alpha/m 以下に制御する。
  • 途中でのぞいて有意になったら止めると、第 1 種の過誤は 20 回のぞけば約 25% になり、のぞき続ければ確率 1 でいつか有意になる。群逐次デザインや尤度比のマルチンゲールを使えば、のぞきながらでも誤りを制御できる。
  • 交絡はシンプソンのパラドックスを生む。測った交絡因子については、条件付き無視可能性と正値性のもとで、標準化・逆確率重み付け・傾向スコアで調整できるが、測っていない交絡は取り除けない。
  • 差の差法は平行トレンドの仮定のもとで、回帰不連続デザインは閾値での連続性のもとで、処置効果を識別する。

演習問題

問題 8.1 ★ 購入率 5% のページで、相対 10% の改善(5.55.5%)を、両側 5%、検出力 80% で検出するための 1 群あたりの人数を、系 8.7 で求めよ(z0.025=1.960z_{0.025} = 1.960、z0.2=0.842z_{0.2} = 0.842 とする)。相対 20% の改善(66%)ならどうか。

解答

pB=0.055p_B = 0.055 のとき pˉ=0.0525\bar{p} = 0.0525、σ0=2⋅0.0525⋅0.9475=0.31542\sigma_0 = \sqrt{2 \cdot 0.0525 \cdot 0.9475} = 0.31542、σ1=0.05⋅0.95+0.055⋅0.945=0.31540\sigma_1 = \sqrt{0.05 \cdot 0.95 + 0.055 \cdot 0.945} = 0.31540 で

n=(1.960⋅0.31542+0.842⋅0.31540)20.0052=31242.7n = \frac{(1.960 \cdot 0.31542 + 0.842 \cdot 0.31540)^2}{0.005^2} = 31242.7

なので、1 群 3124331243 人である(zz を丸めずに計算すると 3123431234 人)。pB=0.06p_B = 0.06 なら pˉ=0.055\bar{p} = 0.055、σ0=0.32241\sigma_0 = 0.32241、σ1=0.32234\sigma_1 = 0.32234 で n=8160.1n = 8160.1、すなわち 81618161 人(丸めずに計算すると 81588158 人)である。差が 2 倍になると人数はほぼ 4 分の 1 になる(分散が少し変わるので、ちょうど 4 分の 1 ではない)。購入率が低いページで小さな改善を検出するには、非常に多くの訪問者が必要である。

問題 8.2 ★★ 【この計画は妥当か】新しいデザインのリスクを抑えるため、訪問者の 10% だけを B に割り付け、90% は A のままにしたい。(1) 総人数を NN、B に割り付ける割合を ww、両群の標準偏差を共通の σ\sigma とするとき、Var⁡(YˉB−YˉA)\operatorname{Var}(\bar{Y}_B - \bar{Y}_A) を求め、w=1/2w = 1/2 で最小になることを示せ。(2) w=0.1w = 0.1 では、w=1/2w = 1/2 と同じ検出力を得るのに総人数が何倍必要か。

解答

(1) Var⁡(YˉB−YˉA)=σ2wN+σ2(1−w)N=σ2Nw(1−w)\operatorname{Var}(\bar{Y}_B - \bar{Y}_A) = \frac{\sigma^2}{wN} + \frac{\sigma^2}{(1 - w)N} = \frac{\sigma^2}{Nw(1 - w)}。w(1−w)=14−(w−12)2≤14w(1 - w) = \frac{1}{4} - \left(w - \frac{1}{2}\right)^2 \leq \frac{1}{4} で、等号は w=1/2w = 1/2 のときに限るので、分散は w=1/2w = 1/2 で最小になる。

(2) 検出力は差の推定量の分散で決まる(命題 8.6 で s0=s1s_0 = s_1)。同じ分散を得るには Nw(1−w)Nw(1 - w) を同じにすればよいので、総人数は 1/40.1⋅0.9=2.78\frac{1/4}{0.1 \cdot 0.9} = 2.78 倍必要で、実験期間も約 2.8 倍になる。リスクを抑えたいなら、まず少ない割合で重大な不具合がないことを確かめ、その後 50:50 に広げるのが一般的である。ただし、割り付け比を途中で変えた期間のデータを単純に合算すると、時期によって購入率が違う場合に、時期が交絡因子となってシンプソンのパラドックスと同じ偏りが生じる。期間ごとに比べるか、比が一定の期間だけを使う必要がある。

問題 8.3 ★★(事前データによる分散の削減)各ユーザーの実験期間中の売上を YY、実験前の同じ長さの期間の売上を XX とし、相関係数を ρ\rho とする。(1) Var⁡(Y−θX)\operatorname{Var}(Y - \theta X) を最小にする定数 θ\theta と最小値を求めよ。(2) 無作為化した実験で、両群に共通の定数 θ\theta を使って Y−θXY - \theta X の平均を比べても、平均処置効果の推定に偏りが生じない理由を説明せよ。(3) ρ=0.6\rho = 0.6 のとき、例 8.8 の売上の実験の必要人数はどうなるか。

解答

(1) Var⁡(Y−θX)=Var⁡(Y)−2θCov⁡(X,Y)+θ2Var⁡(X)\operatorname{Var}(Y - \theta X) = \operatorname{Var}(Y) - 2\theta\operatorname{Cov}(X, Y) + \theta^2\operatorname{Var}(X) は θ\theta の 2 次式で、θ∗=Cov⁡(X,Y)/Var⁡(X)\theta^{\ast} = \operatorname{Cov}(X, Y)/\operatorname{Var}(X) で最小になり、最小値は Var⁡(Y)−Cov⁡(X,Y)2/Var⁡(X)=(1−ρ2)Var⁡(Y)\operatorname{Var}(Y) - \operatorname{Cov}(X, Y)^2/\operatorname{Var}(X) = (1 - \rho^2)\operatorname{Var}(Y) である。

(2) XX は処置の前に決まっているので処置の影響を受けず、無作為な割り付け ZZ は XX とも独立である。よって E[X∣Z=1]=E[X∣Z=0]E[X \mid Z = 1] = E[X \mid Z = 0] で、定理 8.4 より

E[Y−θX∣Z=1]−E[Y−θX∣Z=0]=E[Y∣Z=1]−E[Y∣Z=0]=τATEE[Y - \theta X \mid Z = 1] - E[Y - \theta X \mid Z = 0] = E[Y \mid Z = 1] - E[Y \mid Z = 0] = \tau_{\mathrm{ATE}}

実際には θ\theta を両群を合わせたデータから推定するが、それによる偏りは大標本では無視できる。XX を実験開始後に測ると処置の影響を受けうるので、必ず処置前の値を使う。

(3) 必要な人数は分散に比例するので、14128×(1−0.36)=904214128 \times (1 - 0.36) = 9042 人に減る(36% の削減)。実験期間を変えずに検出力を上げられるので、この方法は実務で広く使われている(CUPED と呼ばれる)。

問題 8.4 ★ 8 個の仮説の pp 値が 0.0004,0.0021,0.0080,0.0130,0.0350,0.0360,0.2000,0.60000.0004, 0.0021, 0.0080, 0.0130, 0.0350, 0.0360, 0.2000, 0.6000 のとき、α=0.05\alpha = 0.05 でボンフェローニ法・ホルム法・BH 法が棄却する仮説の数を求めよ。

解答

ボンフェローニ法:閾値 0.05/8=0.006250.05/8 = 0.00625 以下は 0.0004,0.00210.0004, 0.0021 の 2 個。

ホルム法:閾値は順に 0.05/8=0.006250.05/8 = 0.00625、0.05/7=0.007140.05/7 = 0.00714、0.05/6=0.008330.05/6 = 0.00833、0.05/5=0.01000.05/5 = 0.0100、…。0.0004,0.0021,0.00800.0004, 0.0021, 0.0080 は閾値以下で、0.0130>0.01000.0130 > 0.0100 で止まるので 3 個。

BH 法:閾値は k⋅0.00625k \cdot 0.00625(0.00625,0.0125,0.01875,0.025,0.03125,0.0375,0.04375,0.050.00625, 0.0125, 0.01875, 0.025, 0.03125, 0.0375, 0.04375, 0.05)。p(k)p_{(k)} が閾値以下となる kk は 1,2,3,4,61, 2, 3, 4, 6 で、最大は 66 なので 6 個を棄却する。5 番目の 0.03500.0350 は自分の閾値 0.031250.03125 を超えているが、6 番目が条件をみたすので一緒に棄却される。BH 法は、条件をみたす最大の kk から下をすべて棄却する方法である。

問題 8.5 ★★ (1) ホルム法が棄却する仮説は、BH 法でもすべて棄却されることを示せ。(2) すべての帰無仮説が正しい(m0=mm_0 = m)とき、FDR=FWER\mathrm{FDR} = \mathrm{FWER} であることを示せ。(3) 「200 の顧客セグメントのうち施策の効果がありそうなものを洗い出し、次の実験の候補にする」場合と、「主要な 3 つの指標のどれかが改善したら全ユーザーに公開する」場合では、それぞれどちらの誤りの指標を制御すべきか。

解答

(1) 1≤k≤m1 \leq k \leq m について kαm−αm−k+1=α(k(m−k+1)−m)m(m−k+1)=α(k−1)(m−k)m(m−k+1)≥0\frac{k\alpha}{m} - \frac{\alpha}{m - k + 1} = \frac{\alpha(k(m - k + 1) - m)}{m(m - k + 1)} = \frac{\alpha(k - 1)(m - k)}{m(m - k + 1)} \geq 0。ホルム法が K≥1K \geq 1 個を棄却するなら p(K)≤α/(m−K+1)≤Kα/mp_{(K)} \leq \alpha/(m - K + 1) \leq K\alpha/m なので、BH 法の RR は KK 以上であり、BH 法は H(1),…,H(R)H_{(1)}, \dots, H_{(R)}、したがって H(1),…,H(K)H_{(1)}, \dots, H_{(K)} をすべて棄却する。

(2) m0=mm_0 = m なら棄却はすべて誤りなので V=RV = R で、V/max⁡(R,1)=1{R≥1}=1{V≥1}V/\max(R, 1) = \mathbf{1}_{\lbrace R \geq 1 \rbrace} = \mathbf{1}_{\lbrace V \geq 1 \rbrace}。期待値をとれば FDR=FWER\mathrm{FDR} = \mathrm{FWER}。特に、すべての帰無仮説が正しいときには、BH 法も FWER を α\alpha 以下に保つ。

(3) 前者は候補の洗い出しで、候補は次の実験で確かめられるので、発見のうち一部が誤りでも許される。FDR を制御する BH 法が向いている。後者は誤りが一つでもあれば誤った公開につながるので、FWER を制御するホルム法などを使うべきである(そもそも主要な指標は事前に 1 つに決めておくのが望ましい)。

問題 8.6 ★★ 【この分析のどこが危ないか】ある担当者は A/B テストの結果を毎日確認し、6 日目に p=0.03p = 0.03 となったので実験を止め、「5% 水準で有意」と報告した。(1) この報告の問題点を説明せよ。(2) 最初から「最大 20 日、毎日のぞく」と決めていたなら、各日の検定でどんな棄却値を使えば、全体の第 1 種の過誤を 5% に抑えられるか。求め方を説明せよ。

解答

(1) 止める日をデータを見て決めているので、報告された pp 値は名目どおりの意味をもたない。効果がなくても、6 日間毎日のぞけば一度でも有意になる確率は約 15%(正規近似で計算機により求めた値)、20 日まで続けるつもりだったなら約 25% である(8.5 節)。また、有意になった時点で止めると、推定された効果は過大になりやすい(勝者の呪い)。

(2) 帰無仮説のもとで、毎日同じ人数ずつデータが増えるなら、kk 日目の zz 統計量は近似的に Zk=Sk/kZ_k = S_k/\sqrt{k}(SkS_k は独立な N(0,1)N(0, 1) の kk 個の和)と表せる。この正規分布のランダムウォークを計算機で多数生成し、M=max⁡k≤20∣Zk∣M = \max_{k \leq 20}\lvert Z_k \rvert の 95% 点 cc を求めて、「∣z∣>c\lvert z \rvert > c となった最初の日に止めて棄却する」とすればよい。計算すると c≈2.67c \approx 2.67 である(注意 8.16 の群逐次デザイン)。あるいは、注意 8.16 の尤度比のマルチンゲールを使う。

問題 8.7 ★★(シンプソンのパラドックスが起きない条件) 2 値の結果 YY、処置 ZZ、層 SS について、層の分布が処置群と対照群で等しい(すべての ss で P(S=s∣Z=1)=P(S=s∣Z=0)P(S = s \mid Z = 1) = P(S = s \mid Z = 0))とする。(1) P(Y=1∣Z=1)−P(Y=1∣Z=0)P(Y = 1 \mid Z = 1) - P(Y = 1 \mid Z = 0) は、層ごとの差 Δs=P(Y=1∣Z=1,S=s)−P(Y=1∣Z=0,S=s)\Delta_s = P(Y = 1 \mid Z = 1, S = s) - P(Y = 1 \mid Z = 0, S = s) の重み付き平均であることを示せ。(2) 無作為化実験では、母集団の確率についてシンプソンのパラドックスが起こらないのはなぜか。

解答

(1) ws=P(S=s∣Z=1)=P(S=s∣Z=0)w_s = P(S = s \mid Z = 1) = P(S = s \mid Z = 0) とおくと、条件付き確率の性質より P(Y=1∣Z=z)=∑sP(Y=1∣Z=z,S=s)wsP(Y = 1 \mid Z = z) = \sum_s P(Y = 1 \mid Z = z, S = s)w_s(z=0,1z = 0, 1)なので、差は ∑swsΔs\sum_s w_s\Delta_s である。ws≥0w_s \geq 0、∑sws=1\sum_s w_s = 1 だから、これは重み付き平均である。特に、すべての Δs\Delta_s が正なら全体の差も正である。

(2) 層は処置の前に決まっている性質で、無作為な割り付けはそれと独立なので、P(S=s∣Z=1)=P(S=s)=P(S=s∣Z=0)P(S = s \mid Z = 1) = P(S = s) = P(S = s \mid Z = 0) となり、(1) の条件がみたされる。有限の標本では層の割合が偶然少しずれるので、小さな逆転が起こることはあるが、系統的には起こらない。例 8.17 では、クーポンありの 1200 人のうち 1000 人が新規顧客、クーポンなしでは 200 人で、この条件が大きく崩れている。

問題 8.8 ★★ 例 8.17 のデータで、傾向スコア e(x)e(x) を層ごとのクーポンありの割合で推定し、定理 8.18 の逆確率重み付けの式(期待値を標本平均で置き換えたもの)で E[Y(1)]E[Y(1)]、E[Y(0)]E[Y(0)] を推定せよ。標準化による推定値と一致することを確かめ、一般に一致する理由を説明せよ。

解答

e^(新規)=1000/1200=5/6\hat{e}(\text{新規}) = 1000/1200 = 5/6、e^(既存)=200/1200=1/6\hat{e}(\text{既存}) = 200/1200 = 1/6、総数 N=2400N = 2400 である。

E^[Y(1)]=12400(1205/6+901/6)=144+5402400=0.285,E^[Y(0)]=12400(201/6+4005/6)=120+4802400=0.25\hat{E}[Y(1)] = \frac{1}{2400}\left(\frac{120}{5/6} + \frac{90}{1/6}\right) = \frac{144 + 540}{2400} = 0.285, \qquad \hat{E}[Y(0)] = \frac{1}{2400}\left(\frac{20}{1/6} + \frac{400}{5/6}\right) = \frac{120 + 480}{2400} = 0.25

で、標準化による値 0.2850.285、0.250.25 と一致し、効果の推定値は 0.0350.035 である。一般に、層 xx の人数を NxN_x、そのうち処置群の人数を N1xN_{1x}、処置群の平均を Yˉ1x\bar{Y}_{1x} とすると、e^(x)=N1x/Nx\hat{e}(x) = N_{1x}/N_x なので、層 xx の処置群の重み付きの和は 1N∑Yi⋅NxN1x=NxNYˉ1x\frac{1}{N}\sum Y_i \cdot \frac{N_x}{N_{1x}} = \frac{N_x}{N}\bar{Y}_{1x} となる。これは層 xx の割合 Nx/NN_x/N で処置群の平均を重み付けした標準化の項そのものである。対照群も同様である。

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